【なろう日間1位獲得】最近仲良くしている可愛い子が俺に「ざまぁ」をしかける事を偶然知ったけど好きすぎてOKした結果

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

盗み聞き

「え?じゃあ、ノノは告白してOKでも付き合わないってこと!?」


「うん、迷惑だし……」




衝撃的な内容を偶然、俺は聞いてしまった。

放課後の教室はドアが開いていて、廊下にいる俺までその声は聞こえていた。


その言葉を発しているのは、俺、宮地浩平(みやちこうへい)が大好きな、野々原朱嶺(ののはらあかね)、みんなに『ノノ』と呼ばれている子だ。






◆ノノ

ノノとは、部活の時に一緒になることが多かった。

俺は、自転車部、ノノは女バス。


活動のメインの場所は違うけど、走り込みの時は学校の外周を走ることも多く、よく顔を合わせた。

2年になって、たまたま休憩時間に話すことも多くなり、段々と気になりだしていた。



「自転車部って、自転車乗るだけでしょ!?練習要らなくない!?」



一緒に休憩している女バスの姫野さんが心無いことを言った。

ノノは横にいて苦笑いしているのが見える。



「そんなこと言ったら、女バスだって、バスケットするだけなら練習要らないだろ」


「あぁ、そっか。じゃあ、速く走りたいから?」


「自転車部はロードバイクって、ママチャリとはもはや違う乗り物に乗ってるんだ」


「あぁ、あのかっこいいやつ!」



ノノも会話に入ってきた。



「そう!あれは簡単に時速30キロくらいだせるんだ」


「原チャじゃん!」


「最高どれくらい出るの?」


「最高は50キロとか60キロくらいまでは行くと思う。プロだと70キロとか」


「車より速いじゃん」


「平均でどれくらい速いの?」


「俺らはグロス平均で30キロ目指してる」



部としては、それほど高くないハードルのはずが、これが意外と難しい。

まあ、そんなにレベルは高くないのがうちの高校の自転車部だ。



「『グロス』ってなに?」


「うちの部では1時間に1回休憩を入れてるんだけど、その間に30キロ走ったとするだろ?」


「うん」


「そしたら、普通だと平均時速30キロだけど、休憩15分入れた分で計算したら、時速24キロになるんだ」


「はあ」


これは興味がない時の返事。

分かる。


誰も興味がないってことは。

ただ、聞かれたからには『ネット』と『グロス』について伝えたい。

それが、正しい自転車マニアというものだ。



「休憩込みのグロス平均で時速30キロ出すには、常に40キロ近くで走ってないといけないんだ。だから、俺らは基礎トレも毎日やってるって訳」


「はー、そんなに自転車が好きなねぇ」


「まぁな。自分の力で走れるってところがね」


「はー」


「部の合言葉は『ケイデンス(回転数)を上げろ』だから」


「うわー、体育会系」



姫野さんがバカにしている表情の時、ノノは目をキラキラして話を聞いてくれていた。

気になったきっかけは多分ここだった。


この頃には、それまで『野々原さん』と呼んでいたけど、俺も『ノノ』と呼べるくらいには仲が良くなっていた。

みんな呼んでたし。






◆女バスのインハイ予選敗退

とにかく、うちの高校は部活が弱かった。

ノノのいる女バスもインハイは予選で敗退した。


予選で負ける様な高校のバスケ部が練習をいい加減にしているかと言えば、それはまた別の話。


部活同士で仲は良かったから、俺達自転車部は女バスの試合の応援に行っていた。

もちろん、長距離ライドの練習を兼ねてロードバイクで。


女バスは慣れない試合でみんな緊張していた。

序盤のノノのミスで点を取られ、そこから流れが悪い方に進んだ。


試合後、俺がたまたまトイレに行った時に、ノノが洗面所の陰で声を殺して泣いているのが目に入った。




俺は何も声をかけることができなかった。

なにか、見てはいけないものを見てしまった気すらした。




俺は、音を立てないように、そっと立ち去った。

ただ、そんなに悔しかったのかとノノの本気を感じた。

いつもニコニコしているノノの印象だったが、手は強く握りしめられ、肩を震わして泣いていた。


多分、あそこから俺はノノのことを強烈に意識し始めたと思う。






◆盗み聞き

ノノとは同じクラスなので、教室で話すことも多かった。

俺はノノが好きだったし、ノノも俺に笑いかけてくれることが多いと思っていた。




ある日、部活が終わった後、ノノが教室に向かっていた。

なんとなく2人になれるかもと下心を出しつつ後をつけた。


同時に教室に着くと尾行がバレバレだ。

途中トイレに寄って、ちょっと時間をずらしてから教室に向かった。


放課後の教室のドアは開いていて、中からはノノと姫野さんの声が聞こえていた。

そんなに大きな声じゃない。

ただ、俺はノノの声に敏感に聞こえていたと思う。



「ついに宮地に告白するんだ!」


「うん……でも、フラれるかも……」


「あいつ絶対ノノのこと好きだよ!?絶対OKでしょ!」


「でも、OKでも……」


「え?じゃあ、告白してOKでも付き合わないってこと!?」


「うん、迷惑だし……」



ノノはみんなから『ノノ』と呼ばれるくらい人懐っこい感じで、みんなに好かれていた。

一緒にいる姫野さんは少しいじわるな感じもあった。


だから、ノノがあんなことを言うなんて、俺はショックが大きかった。

姫野さんにそそのかされてそんなことを言っているだけ!?

いや、そんな感じは全くなかった。

ちょっと俺の目の前の空間がねじ曲がっていくのを感じた。




俺はもうすぐノノに告白される!?

これ自体はすごく嬉しいことだ。

天にも昇るよう。


ただ、OKしても付き合わない!?

これっていわゆる『ざまぁ』ってこと!?



俺がOKしたら『嘘だよー!私があんたみたいな童貞と付き合う訳ないでしょ!』的な!?

『私とはつり合いが取れないのよ自転車バカ!』的な!?

『人気者の私と比べて友達いないでしょ!』的な!?




全面的に俺の卑屈さが、想像のノノに変なことを言わせている……

『俺の知っているノノ』はそんなこと言わない。

ただ、『俺の知らないノノ』がいるのか!?



俺はまた、音をさせないように教室を後にした。






◆告白

ショックは大きく、次の日からノノの前で上手く笑えなくなった。

楽しかった部活も、俺は休憩時間にノノと話せるから楽しいのだと気づいた。


学校の周りなんて毎日景色は同じだし、何周も走ったって何も楽しいことはない。

急激に俺の世界が灰色になって行った。




金曜日の部活の休憩の時に、ノノが一人で寄ってきた。

俺の心は複雑だった。

ノノは好き。

そして、かわいい。

好みはバッチリだった。


テレた時の笑顔は殺人的に可愛かった。

俺の心を掴んで離さないでいた。


背は少し低くて、何度一緒に並んで歩く想像をしたことか。

修学旅行の時の写真は、こっそりノノが写っている写真を買ったのがバレて、クラスメイトに揶揄われたこともあった。


そのノノが、口に手を添えて少し小さい声で言った。




「今日、放課後、教室にきてくれないかな?」




ああ、ついに来た。

そんな気分だった。


正直、行きたくなかった。

俺の知らないノノが顔を出すのを見るのが嫌だった。


でも、断るのもおかしい。



「わかった」



俺はそれ以上何も言わなかった。

どんな顔をしていたのかも分からない。

ただ、ひどい顔だっただろう。




制服に着替えて、普通だったら帰路につくところ、また階段を上がって教室に行く。

階段の1段1段が憂鬱で、死刑台に向かう気分だった。


教室には、ノノと姫野さんの2人だけしかいなかったが、俺の顔を見ると姫野さんが、にこにこしながら教室を出て行った。


どこかで撮影していたりしないよな……

なんとなく教室を見渡してみたが、見つかるようなところにカメラもスマホもなかった。






顔を真っ赤にして俯いたノノがいる。

これが演技だとしたら、彼女は女優を目指した方がいい。



「ごめんね、帰るところ……」


「いや……」


「さ、最近部活大変そうだよね」


「うん…まあ…」


「その……変なことをいうかもだけど……」



ついに来たか。

『俺の知ってるノノ』と二人きりの教室。

何も知らなければ、俺はへらへらしてこの場にいただろう。



「えと……えと……宮地くんのこと……ずっと好きでした」



そんなことをノノに言われたら、嬉しいに決まっている。

ノノは目を瞑ったまま小さく震えている。



でも、これは『ざまぁ』。

俺がOKしても、ノノとは付き合えない。



後には、姫野さんが出てきて一緒になって指をさして笑いものにするのだろう。

もしかしたら、他にも何人か出てくるのかもしれない。


ただ、俺に抗う手段なんてなかった。

いいや、『疑似ノノの告白』が聞けたんだ。

こんな未来を想像したこともあったから、疑似とはいえ、リアル・ノノに言ってもらえたのは嬉しかった。


それだけ俺はノノが好きだった。

あの笑顔、あの声。

小さな手も、部活で一生懸命なのも、冗談を言い合える関係も……全部。




だから俺は引っかかることにした。

バカにされてもいい。

元々失うものはもう何もないのだから。



「……ありがとう。俺もノノが好きだよ」



ノノは驚きの表情をした。

俺が覚悟しないといけないのはここからだ。


さあ、姫野さんいつでも来い!



俺とノノは棒立ちだった。

お互い一歩も動かない。

ノノが動かないから、俺が動けない訳だが。


そのうち、教室のドアから姫野さんが顔だけ出した。

やっと来たか。

遅いよ。


姫野さんは、口だけで『どうだった?』とノノに聞いている。

『OKだった?』と指で輪っかを作りながら併せて聞いていた。


ノノを見ると、小さく何回もうんうんうんと頷いたいて。



「きゃー!おめでとうー!」



姫野さんが大声でノノに駆け寄る。



「ありがとう、姫ちゃん」



ふたり抱き合ってる。

メイン・イベントはこれからか?


俺は終始無言。

姫野さんの言葉を待っている状態。



「じゃあ、二人一緒に帰ったら!?私は用事があるから先に帰るねー!」



そう言い残して、姫野さんは帰って行った。


あれ?


ノノの方を見ると、顔は真っ赤なままで手をうちわ代わりにして顔を仰いでいた。



「あー、恥ずかしかった……」


「……」


「その……一緒に、帰ろっか……」


「うん……」




思ったのと違った。

あれ?

あの時、教室で聞いたのがなにかの間違いだった?


でも、告白は聞いた通りにされた。





俺は、考えないことにした。






◆交際と抵抗

元々、ノノは好きだ。

笑顔も相変わらずかわいい。


話す時間も増えたし、一緒に帰ることも出てきた。

有頂天になっていた俺に再び雷が落ちる。





部活が終わった後、水飲み場の近くで話すノノと姫野さんを見かけた。

声をかけようと思ったら、信じられないような言葉が聞こえてきた。






「宮地とは付き合って1か月で分かれるってこと!?」


「うん……だから、手はつないだけど、それ以上は……」






あの時の続きの話だろうか。

俺に仕掛けられた『ざまぁ』は、告白した時にフラれるタイプじゃなかった。


付き合って1か月後にフラれて、『別に好きじゃないですー!ぷーくすくす』の方だったという事か!?


確かに、一緒に帰る時、手はつないだ。

彼女は嫌だったのだろうか。


彼女の手は小さくて、それでもやわらかくて、俺は羽根でも生えたんじゃないかと思う程からだが軽くなったのに。


俺は変な方に火が付いた。




『じゃあ、この1か月でもっともっと俺のことを好きにさせる!』



笑顔も意識したし、一緒に帰る回数も増やした。

帰りは恐る恐るだけど、手もつないだ。


週末はデートにも誘った。

服も褒めた。

実際、彼女はおしゃれしてきたし、すごく可愛かった。


俺は、彼女のことを考え、彼女が好きそうなコースを選び、彼女を楽しませた。

時々、ノノは少し悲しい表情をしていた。

俺を騙していることへの罪悪感か。


そんなの俺が好きにさせてやる!

俺の頭にはそれしかなかった。






◆別れ

彼女の告白から1か月が経つ頃、彼女からメッセージが届いた。



『今日の放課後、教室にきてください』



付き合っているし、毎日のように一緒に帰るようにしていたので、何か伝えたいだけなら別に教室である必要はない。


ついに来た。

『ざまぁ』の完成形が。


今度こそ、指をさして俺のことを揶揄う『裏ノノ』が顔を出すのか。



教室に行ってみると、ノノが一人でいた。

はいはい、姫野さんは後から出てくるパターンか。


俺の顔を見ると、ぽろぽろと涙を流し始めるノノ。

最初から予想外だ。



「あのね……私、宮地くんを騙してたの……」



ああ、今度こそ来たか。



「私達……もうダメなの。別れないと……」



なんか歯切れが悪い。

『全然好きじゃありませんでしたー!ぷー、くすくす』じゃないのか!?


仮初(かりそめ)とはいえ、俺の初めての彼女が目の前で泣いている。

俺は、頭を撫でて次の言葉を待った。



「お父さんの転勤が決まったの……私も引っ越すの……」


「え!?」



衝撃的だった。

それは予想外。



「一人暮らししたいって言ったけど、ダメだった……」



益々涙が止まらないノノ。



「頑張って会っても、次第に会えなくなっちゃう……絶対会えなくなる…」



ノノはハンカチで涙を拭いていたが、ひっくひっくと嗚咽が止まらない。



「別れたくないよぉ……」



堪えきれなくなり、ノノが号泣した。



「このまま遠距離はダメなの?」


「私わがまま言うし…(ひっく)絶対、宮地くんの迷惑になる……(ぐず)」



俺は目の前の好きな人をゆっくりと抱きしめた。

胸でなく俺の好きな人は涙が止まらない。

俺はバカだ。


彼女が俺に『ざまぁ』なんて仕掛ける訳がない。

いもしない『裏ノノ』に怯えて、俺は自分を守っていた。


付き合い始めたのだから、ちゃんと聞けばよかった。

『教室での、あの会話はなに?』って。



「だから、せめて(ひっくひっく)始まりの教室でぇ……」



泣き止むどころか、再び号泣が始まった。




俺達、高校生は無力だ。

こんなに好きなんだから、一緒にいたいと思うのは当たり前で、彼女の近くに引っ越すことを考えても、それが可能なのは物語だけの話。


実際は、何もできない。

お金もない。

力もない。

親の転勤があれば、それに着いて行くしか選択肢はない。



号泣する彼女の背中を撫でながら、どこに引っ越すのかが気になった。



「どこに引っ越すの?」



場所を聞くと確かに遠い。

ただ、隣の隣の県だ。


距離を調べたら、58km……約60km。

ロードバイクでグロス30キロなら2時間で着く!



「ノノ!転校しても俺が会いに行く!」


「え?」


「毎日は無理でも、毎週行く!」


「だって……」


「ロードがあれば……ロードバイクなら60キロは遠くない!」



涙はそのままに驚いた表情のノノ。

こんな時までかわいいとか……


力のない俺でも、引っ越したノノに会いに行ける力。

自転車があった!



ノノには、『楽勝楽勝』と言ったけど、それはちょっと大げさに言っただけ。

60キロは大変だけど、ノノに会いに行くと考えれば苦にならない。


元々部活で走ってる。




「相談すればよかったね……ずっと騙してるみたいで辛かった……」



それは俺も同じこと。

盗み聞きしたことを言えばよかった……



「じゃあ、これからも付き合ってもらえる?」


「もっ、もちろんだよぉ!私もお小遣い使いまくってこっちに来るから!」


「ちょっと待って、それじゃ、俺の練習にならない!」


「もう!」


「ははははは」

「うふふふふ」



いつものノノに戻ってる。

やっぱり俺の好きな人は笑顔が似合う。



「じゃあ、もう、キスしても大丈夫かな?しないようにしてたんでしょ?」


「え!?ええ!?なんで知ってるの!?」



ノノも、本当は告白の時点で断ろうと思っていたことを教えてくれた。

でも、俺に好きだと言われて、悪いと思いつつも付き合い始めたらしい。


悪い悪いと思いつつも、楽しく過ごしてくれたらしくて、引っ越しギリギリまで言いだせなかったらしい。


今までみたいに会うことはできなくなるけど、今までよりも仲良くできるようになった俺たち。

これから、ノノとのケイデンス(回転数)を上げていきたいところだ。

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