第22話 ボクたちの家族旅行


 合同家族旅行で、女性陣は早速温泉に入ることにした。

 とっても広い露天風呂で、景色も綺麗で素敵なお風呂だけど、誰かと一緒にお風呂に入るのは恥ずかしい。

 それに見た目で分かってはいたけど・・・須藤家の女性2人は大きい。

 ボクもママもおばあちゃんもミニマムなので、これはきっと遺伝なんだろう。くそう。お尻はちょっと大きめなのに。彼方は好きって言ってくれるけど。

 そう思ってたら同じところを見ていたらしいおばあちゃんが口を開く。


「日向さんはスタイルがいいわねえ。うらやましいわ。」


「あ、ありがとうございます。」


「双葉は私と母親に似てしまって、ちょっとほら、小さいでしょう? 彼方君に飽きられないかと心配なのよねえ。」


「あ、それはたぶん大丈夫です。私と日向が口を酸っぱくして『教育』してきましたから。」


「あら、それなら安心かしらねえ。男の人は大きいのが好きな人が多いから気になっちゃって。」


 いったいどういう『教育』なんだろうか。気になるけどちょっと怖くて聞けない。


「それよりも。」


 彼方のお母さんがおばあちゃんとボクにずい、と寄ってくる。


「うちの彼方がいつもお世話になっていて、何かしでかしてないか不安でしょうがないんです。恥ずかしながら私たちも、こんないいところのお嬢さんだったなんて気が付かなくて。」


「それはまあ、小学生の頃のこの子は男の子みたいでしたもんねえ。」


 おばあちゃんは楽しそうに笑う。

 ボクは思わずざばっと立ち上がって、お義母さんに訴える。


「彼方が迷惑なんてことはないです!」


 日向お姉ちゃんが笑いながら、そんなボクに問いかけてくる。


「双葉ちゃんはホント愚弟のことが好きよねー。どこが良かったの?」


 え、彼方の好きなところ?!

 とぷん、とお湯に浸かって彼方の顔を思い浮かべる。


「え、えと、優しくてかっこよくて、みんなに気遣いもできて、ときどきちょっと意地悪だけど、そういう時の表情も好きっていうか・・・。」


「あらあら、べたぼれねえ。」


「へー。あれがねえ。まあ、アタシと母さんの教育の賜物ね!」


「あの鉄砲玉にはだいぶん苦労させられたから、それだけ褒めてもらえるとうれしいわねー。」


「鉄砲玉、ですか?」


 お母さんからの意外な評価に、ボクは首をかしげる。

 彼方は年の割にずいぶん大人びてると思うけど?


「あの愚弟、最近はだいぶ鳴りを潜めてるけど、基本は暴走列車だから。」


「そうそう。外に飛び出してったら、必ず何かやらかしてきてたわね。木に登って降りられなくなるくらいは序の口。友達と川で流されたり、大人と喧嘩してボロボロになってたりね。なんでこんなことをしたのかって聞くと、あの子の頭の中で導き出された突飛な結論や目標があって、それに至るにはどうするかを考えた結果、暴走してたらしいわ。」


「スタート地点が半分くらいは善意や正義感だったりするのが、また質悪いのよねー・・・。小学校の時は同じ学校だったから時々、私まで先生に呼び出されたりね・・・。」


「へ、へえ。」


 日向お姉ちゃんまで遠い目をしている・・・。

 でも言われてみると、出会ったばかりの頃の彼方は、そんな雰囲気あったかも・・・?


「そこから、何をしたら人様の迷惑になるのか、どうしたらもっと上手くできたのか、日向も交えて毎日が反省会と討論会よ。うちの人の帰りが早いときは家族全員で喧々諤々。それで少しずつ少しずつ、周りを見るようになって、私たちの意見を聞くようになって、大人しくなっていったんだけど、小学校3年生に新しい友達ができてから、びっくりするくらい、やらかしが減ったの。」


「え?」


 小学校3年から・・・?

 それって・・・。


「急に大人しくなったから不気味でね。愚弟に聞いてみたの。最近静かじゃないアンタ?って。そしたらね、その新しいお友達の、眉がハの字になるのが嫌だっていうの。何かしようとしたとき、隣にいるその子の顔を見たら、眉がハの字になってる時があるらしくって、それがなんとなく嫌で我慢してるってさ。」


「まあ。」


 おばあちゃんがボクの顔をニコニコしながら覗き込んでくる。


「だからね、双葉ちゃん。これからも、彼方のことを、見ていてあげて欲しいの。よろしくね。」


「・・・はい。ずっと、見てます・・・。」


 ・・・のぼせちゃいそうだよ、かなたぁ・・・。




 お風呂をあがったあとも、ボクたちのガールズトークは続いた。

 別のお部屋で男性陣3人も盛り上がっていて、ちらっとボクの名前が聞こえて内容がちょっと気になったけど、3人とも優しそうな笑顔だったから、突っ込まないことにした。


 その後、出された夕飯はとっても美味しくって、ここにいるみんなでご飯を食べるのがとっても楽しくって。

 またきっとパパとママも一緒に来ようね、って言ったら、みんな笑いながら賛成してくれた。



 ご飯を食べたらまたお風呂に入って、浴衣に着替えた。

 ちょっと考えて、おじいちゃん、おばあちゃんに一言断ってから、寝る前に須藤家のお部屋へ挨拶に行くことにした。


「あの・・・寝る前にちょっと、おやすみなさいを言いたくて、来たんですけど・・・。」


 すぐにふすまが開いて、廊下に立っているボクのところに彼方がきてくれた。

 須藤家のお部屋では家族みんなでお布団をひいている最中だった。


「あ、おう双葉。わざわざサンキュな。」


「ううん。えと・・・その・・・。」


 少しだけでも2人でお話ししたいなって思ったんだけど、なんとなくボクが言い淀んでいると、日向お姉ちゃんのドロップキックが彼方の背中に炸裂して、彼方の体が絶妙な力加減でボクに押し付けられた。

 日向お姉ちゃんが猫みたいにきれいに縦回転し、前受け身で着地する。ルチャ・リブレみたい。


「いってえ! 何しやがる!」


「どやかましいわ! ボケエ! ボサっとしとらんと双葉ちゃんと向こうの部屋で挨拶してこい!」


「普通に言えや!」


「つまらんだろうが!」


 姉弟でぎゃーぎゃー言い合うのを聞きながら、彼方と手を繋いで、少し離れた空き部屋へ移動した。



「彼方と日向お姉ちゃんは、仲がいいよね。」


「そうかぁ~?」


「うん。うらやましいもん。」


「・・・アレ、もう双葉にとっても姉ちゃんみたいなもんだろ。」


「・・・そう思って、いいのかな?」


「いいに決まってる。姉貴も喜ぶだろ。」


「えへへ。」


 外はもう真っ暗だけど、寝室から遠いこのお部屋から見えるお庭は、ライトアップされていて、雰囲気があった。


「彼方は浴衣じゃないんだ?」


「あ~。ちょっと着てみたんだけど、スースーして落ち着かなくってさ。いつものジャージに着替えちまった。」


「彼方は夜寝る時、ジャージなんだね。なんか新鮮。」


「双葉は浴衣なんだな。普段から?」


「ううん。普段はパジャマだよ。・・・見たい?」


「・・・見たい。けどその浴衣も似合ってる。すげー可愛い。色っぽい。愛してる。」


 また彼方はそんなこと言って・・・。スイッチ入ったらどうするんだよバカぁ・・・。


「ボクも、愛してる。・・・ねえ、彼方。」


「ん?」


「将来、また2人で来よう?」


「・・・そうだな。きっと来よう。」


 ボクたちは念のため周囲を伺って、触れるだけの、優しいキスをした。



 翌日も、みんなでお話しして、お風呂に入って、美味しいご飯を食べて、ちょっとだけ彼方と2人でお庭をお散歩したりした。

 そのとき、彼方にわがまま言って着てもらった浴衣姿は、すごくカッコよかった。

 ボクたち7人は、昔からの家族みたいだなって、あったかい気持ちになりながら、素敵な家族旅行は終わった。

 次は9人で来るために、パパとママに伝えておかなくちゃね。

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