第10話 ボクは決意を新たにする。


 当たり前だけど、デートが終わってもボクたちの日常は続く。


 デートはすごく楽しかった。今まで生きてきて一番楽しい1日だった。

 あとチューした。寝ている彼方にチューしてやった。

 もうボクのものである。異論は認めない。

 デートの後半はお互いの眠気に負けてちょっとアレだったけど、今後も時々デートはしていくべき。あれは楽しい。ボクからも積極的に誘おう。


 チューしたんだから次は当然エッチである。

 だが、ジェントルマン彼方の牙城は鉄壁過ぎて、おっぱい見せてもパンツを見せても襲ってはもらえなかったボクの夏休みはまだ記憶に新しい。

 そこでボクはどうするか・・・むむ・・・。

 ・・・よし「ボディタッチ」だな!



 ネットでは男子を惑わす小悪魔ちゃんたちのテクが学べる。

 彼女らにとっては男子は割と単純で、自分の体に触れられるとその子を好きになっちゃうらしい。なにそのマジックハンド。こわっ。

 ジェントルマン彼方がそこまで簡単なら苦労はないけど、デート中も手を繋いでくれたとき耳が赤かったし、ほっぺたくっつけるくらい抱き寄せられたりしたから、彼方にも多少は効果が見込めるはず。

 これまでもゲームに夢中になってるふりして肩をぶつけたり、軽く抱き着いたりはしてたけど、頻度や接触時間に比例して好感度が上がるらしいし、彼方にくっつくとボクもお腹からあったかくなって幸せになれるので、一石二鳥である。

 日向お姉ちゃんに相談したいけど、なかなか彼方の家には行きづらいし、今年受験なのでお邪魔したくない。

 日向お姉ちゃんにもいつか「本当の妹になれたよ」って言ったら喜んでくれると思うので、まずは恋人目指してがんばるぞ!



◆◆◆



 デートがあった土曜日から1日おいた月曜日。

 今日も授業についていくのは大変だけど、頑張ってノートを取る。

 彼方は意外と成績がいいので、彼方がどこへ進学しても大丈夫なように、勉強は欠かせない。だから授業中は真剣だ。

 その分、休み時間は疲れてだらーっとしちゃう。


 珠ちゃんたちと悪ふざけしながら過ごすと心が休まるけど、その間もボクの最大のエネルギー源たるカナタミンを少しでも浴びようと目で探す。

 席で井上君と話してる。何話してるのかなあ。

 あ、目が合った。

 へへえ、彼方がボクを見てくれたぁ。

 手、振っちゃえ。恥ずかしいから小っちゃくね。

 そんなボクの周囲には珠ちゃん、鶴ちゃん、華ちゃんのいつもの3人が集まっていて、ちょっと男子には聞かせにくい、毎度の話題で飽きもせず盛り上がっている。


「やっぱ井上と須藤のツーショットは尊いわぁ。」


「その2人は鉄板として村田君のカプはどーするよ?」


「村田×森下じゃない?」


「そこは村田受けじゃねーの?」


「えと、須藤君たちとの三角関係、とか?」


「鶴ちゃんはたまーにエグめのとこ突くよなあ。」


「双葉姫の推しカプはあんの?」


「彼方がらみじゃなきゃなんでもいいよ。ていうか、姫呼びは固定なの? かなり恥ずかしいんだけど。」


「別にいーじゃん。姫はなんか姫って感じだし。」


「双葉ちゃん、可愛いし、すごく顔立ちも整ってるもんね。」


「そうそう。須藤君ともラブラブだしなあ。うちらが勝てるのおっぱいくらいだよ。」


「か、かなたはその・・・まだ彼氏じゃないけど・・・あ、あげないよっ。」


 あれはもうボクのだからなっ。ツバつけたんだからなっ。比喩でなく。

 本人たちはああ言ってるけど、みんなも可愛いから威嚇しとかないと。

 あとおっぱいはまだ成長期だからなっ。今に見てろっ。


「はいはい、ごちそうさま。そんで土曜のデートはどーだったの?」


「え、なっ、何で知ってるの?!」


「街でうちの兄貴が見てたんだよ。『お前の友達の日焼けしてるちょっと背の低い可愛い子が男とゲーセンでイチャイチャしてた』って。」


「ほほう。それは聞き捨てなりませぬなあ。」


「興味あるなあ、双葉ちゃん?」


「すげーバカップルぶりだったって?」


 珠ちゃん、鶴ちゃん、華ちゃんがニチャア・・・と笑う。

 ボクは昼休みに洗いざらい白状させられた。

 こっそり持ち歩けるように財布にしまってた、彼方と撮った写真シールの変顔を見られて爆笑されたけど、それを犠牲にしてチューのことだけは隠し通すことができた。



 珠ちゃんたちの尋問にさらされて疲れたけど、放課後のボクのオアシス、離れでのカナタミン摂取のお時間です。

 今日からはボディタッチを多めにして彼方とラブラブになるのだ。


 鞄を置いてソファに座る彼方に、冷蔵庫からお茶を出す。

 離れには小さいけど流しと家電一式が揃っているので、ここで独立して生活できるようになっている。

 玄関も別にあるけど、本宅の玄関から上がっておばあちゃんに挨拶し、渡り廊下で離れまで移動するのがいつものボクたちのルートだ。

 彼方はお茶の準備とかを手伝いたがったけど、これは奥さん(予約済み)であるボクの仕事です。ボクが頑なに譲らなかったので諦めてくれました。

 毎回、心の中で「おかえりなさい、あ・な・た♡」とやるのが楽しみなので奪わないで欲しい。


「はい。お茶どーぞー。」


「おう、いつもありがと。」


 うへへぇ。あ・な・た♡

 お茶を出したらボクも漫画を持って彼方の隣へ行く。

 んー。どういう感じでくっつこうかなあ。


 案①:オーソドックスに真隣に座ってベトッとくっつく。

 案②:ソファに寝っ転がって膝枕してもらう。

 案③:足元へ行って彼方の足にしがみつく。


 な、悩む・・・。

 ソファの前で突っ立っていると、当然のことながら彼方から指摘が。


「・・・座らないのか?」


「や、す、座るよ?」


 ええい、ままよ!

 南無三!

 ソファにごろんと横になる。

 でも、ひ、膝はむりぃ!

 彼方の肩に頭を乗せて、上半身の体重をかける。

 今はこれがせいいっぱい・・・。

 重くないかな? 嫌がられないかな?


 ぽふ、ぽふ。

 彼方は何にも言わずにボクの頭を2度撫でてくれた。

 やった! セーフ! このくらいはオッケー!

 この調子でボディタッチを徐々に増やしていくぞ!


 次はどういう感じでくっつこうかなあ。

 頭の向きを逆にして、足を彼方に乗っけるとか?

 ・・・いや、無いな。それは無い。どんな女王様よ。

 あ、でも制服のスカートでその態勢になると・・・あ、あり、かな?

 ・・・。

 保留! よ、要検討で!

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