第5話 ボクは密かにデレる。


 小学校6年生になって、夏休みに初めて彼方の家にお呼ばれした。

 彼方の家は聞いてた通り少し遠くて、うちからもう少し歩いた先にあった。

 そこで、初めて彼方のお姉さん、日向さんに会った。


 日向さんは聞いてたのとぜんぜん印象が違って、背が高くて、綺麗で、おしとやかそうで、涼し気な目元のすらっとしたお姉さんだった。

 目元なんかは彼方にそっくりだなーと思って呆然と綺麗なお顔を見つめてたら、


「彼方のお友達? 可愛いね。名前なんていうの?」


 って優しく笑いながら話しかけてくれた。

 男子だったら惚れてました。

 須藤家の人たちは「ボク特効」でも持ってるのかな?


「あ、わ、か、春日双葉です! ボクよりお姉さんの方が綺麗です!」


 ボクが慌てて挨拶すると、一拍おいて突然ボクは抱きしめられた。


「っきゃー! この子ったら素直! 何この可愛い子! いい匂い! ボクっ子! ショートカット褐色美少女! 持って帰っていい?!」


「落ち着け。ここがお前の家だ。」


 彼方は冷静に突っ込んでた。

 これが日向さんの平常運転だと後に知った。




「もっと早く連れてきなさいよねー。」


「姉貴を俺の友達に見せるの、ちょっと勇気がいるんだよ・・・。」


「あー、まーねー。私、可愛いからなー。紹介しろってうるさくなるわよねー。美しさって罪よねー。」


「もうそれでいいよ・・・。」


「あ、あはは。日向さんはほんとにすごく美人ですよねー。」


「双葉ちゃんは見る目あるなー。よし気に入った、そこの愚弟でよければもって帰っていいよー。」


「えっ!?いいんですか!?」


「あんまり乗っかるとそいつ際限なく調子に乗るぞー。」


 思わず素で反応しちゃった・・・。

 うぅ、今ので絶対、日向さんにバレたよ・・・。

 ニヤニヤしてるもん・・・。


「・・・ほーん。おい愚弟。紅茶持ってこい。」


「あ? いつもコーヒーじゃん。そんな上等なもん、うちにあんのかよ?」


「無けりゃママンにお願いして買ってこい。30秒な。」


「10秒だ。・・・ゴメン、無理。30分にまけてください。」


「ちっ。つかえねー。」


 彼方は日向さんに追い立てられて、しぶしぶ部屋を出て行った。


「さーて双葉ちゃん、いろいろお話し聞きたいなー?」


 あ、はい。ナンデモキイテクダサイ。



 いろいろ根掘り葉掘り聞かれて、たぶんむっつりスケベなのもちょっとバレたけど、日向さんは応援してくれることになった。


「まずは、あいつガキだから双葉ちゃんを『女の子』だと思わせることからだね。

そんで外堀を埋めてって、ゆくゆくは手を出させれば、あいつ責任感はあるから、晴れて彼氏彼女よ。」


 手を出される・・・。お、襲われちゃうんだボク・・・。

 エッチな動画みたいなことされるんだよね・・・。

 ・・・あ、イイかも・・・。

 お口の練習しとかなきゃ・・・。お尻も綺麗にしといた方がいい・・・?


「まだ小学生だし、少し長いスパンで見ないとね・・・。中学卒業までにキスまでいけるかな・・・双葉ちゃん? 聞いてる? よだれ拭く?」


「ハッ(じゅるり)。 聞いてます。もちろん聞いてます。手を出させれば勝ちですねっ!」


「お、おう・・・ヤル気ぃ・・・。ほどほどにね・・・?」


 お口とお尻は後で必ず自習するとして、手始めに髪を伸ばすよう言われた。

 髪が長いと彼方と外で遊ぶとき邪魔だけど、我慢しないとね。

 あと髪のお手入れとか、スキンケアとか、いろいろ教えてもらった。

 ・・・お姉ちゃんっていいな。

 思わず、日向お姉ちゃんって呼んだら、大興奮して喜んでくれたので、それからは日向お姉ちゃんって呼ぶようになった。


「日向お姉ちゃん、ありがとう。」


「ぐぁっはぁぁぁ!」


「たでーまー。あれ、姉貴が苦しんでる。ついに浄化されて星に還るのか?」


 彼方が帰ってきた。

 あ、そういえばずっと気になってたことを聞いてみよう。


「あ、そういえば『求愛するゴリラに追われるベルゼブブ』って日向お姉ちゃんが考えたって本当ですか?」


 青い顔で回れ右して走り出した彼方に、後ろからぬるりと近づいた日向お姉ちゃんが複雑な形で絡まった。


「ギャアアアアアアア!」


 痛そうだけど、なんかエッチくていいなあれ。

 あれも後で教えてもらおう。



◆◆◆



 ボクたちは中学生になった。

 伸ばし始めた髪は首に届くくらいになっていた。

 中学校からは制服になったけど、スカート履くのが久しぶり過ぎて、なんだか頼りない。

 おばあちゃんは似合ってるって言ってくれたし、自分でもけっこう可愛いんじゃないかな?って思うけど、彼方に変に思われないかな。


 入学式の日、おばあちゃんと一緒に待っていると、約束してた時間に彼方と彼方のお母さんがやってきた。


「彼方、おはよう!」


「・・・。」


 あれ、彼方がフリーズしてる。

 口開けてボクをじっと見てる?


「彼方、どうした?」


 顔を覗き込むと、彼方が動き出して、ぐりんっ!て顔を背けた。

 う、ちょっとショック。やっぱ変かな?

 あ、でもまたこっち向いてくれた。


「可愛い。」


 え。


「制服似合ってる。スカート初めて見た。可愛い。」


 え、わ、わああああ!

 嬉しい!

 嬉しい!

 嬉しい!

 きゅんきゅんするううううう!


 あ、あ、彼方に何か言わなきゃ!

 でもなんて?!

 きゃああああ?!


「だろ!」


 なんっだよそれえええ!

 もっと可愛いこと言えよボクゥゥゥゥゥゥ!


 でも彼方はほっとしたみたいに見えたからギリセーフ、のはず!

 つ、次はもっと可愛く返事するぞ!

 見てろよ彼方!


 ああ、でも朝、学校の誰よりも早く彼方と会って、学校行く間も一緒に居られるのってすごくいいな。

 よし明日からは毎日ここで待ってよう。

 なんで気付かなかったかな、小学生のボク。

 でも今日から頑張れ!中学生のボク!



 それから何故か彼方がだんだん朝会うたびに、ボクを見つめて何かしら褒めるようになった。

 なんなの?!

 ボクをどうしたいの?!

 これがキュン死にするってやつなの?!

 ハッ! 日向お姉ちゃんが言ってた効果がついに来た?!

 ボクの時代始まる?!


「おはよう双葉。今日も肌キレーだな。」


「おう、ありがと!」


 また、そんな可愛くない返事して!

 ・・・あ、明日こそ!


「双葉っていつもなんかいい香りするよな。シャンプーが違うのかな?」


「え? おばあちゃんといっしょのだよー?」


 ボクのバカァァァァァァ!



◆◆◆



 中学校に上がって大きく変わったことの一つに、ボクの部屋が変わったことがある。

 部屋が変わったっていうか、離れを自由に使っていいことになった。

 嬉しいけど心配になったボクは、おばあちゃんに恐る恐る尋ねてみた。


「・・・おばあちゃん。ひょっとして、ボクたち、うるさかった・・・?」


「ふふ、違うわよ。むしろ逆。あなたたち、うるさくないよういっぱい気を使ってくれてたでしょ? あそこなら周りの竹が音を遮ってくれるから、カラオケ歌ったって大丈夫よ。

双葉は勉強も頑張ってるし、真面目な良い子よ。中学生になったお祝いなんだから、好きなように使っていいのよ?」


「・・・うん! ありがとう、おばあちゃん!」


 良かった!

 でも煩くしても大丈夫ってことは、彼方と・・・。


「彼方君とならいちゃいちゃしてもいいのよ?」


「おっ、おばあちゃん?!」


 なんで?! 口に出してた?!


「まだ早いとは思うし彼方君は大丈夫だと思うけど、どうしてもって言われたら避妊だけはしなきゃだめよ。あ、避妊って分かる?」


「・・・うう。・・・うん。分かる・・・。」


「それでももし、できちゃったら、私は双葉の味方だから、一人で悩まず相談してね。

彼方君はこれからどんどんカッコよくなるわよ。他の娘に取られないよう、頑張りなさい。」


「・・・うん・・・///」


 ひょっとしてボクって分かりやすいのかなあ・・・。



 春休みのうちに離れの準備は終わってたから、入学式の日から離れはボクの部屋になった。

 入学式の夜はおじいちゃんも帰って来てくれて、おばあちゃんと3人で夕ご飯を食べに出かけた。

 ボクたちが出かけてる間に、お手伝いさんが離れへ荷物を運んでくれた。

 おじいちゃんは離れについて、おばあちゃんに何か言ってたけど、おばあちゃんは適当に返事してた。おばあちゃんは春日家で一番強いので、おばあちゃんが決めたら、おじいちゃんも最後は折れるらしい。


 翌日、中学校の最初の日が終わり、彼方を初めて離れへ案内した。


「ふおおお・・・。」


「中学に上がったお祝いにボクにここくれるってさ!スゲーだろ?」


「マジか・・・。」


 彼方はしばらくぼうっとしてたけど、腕を引っ張って隣に座ってゲームしてたらいつも通りの雰囲気になった。

 へへー。なんか新婚さんみたい。

 かなたぁ・・・。



◆◆◆



 中1の夏休みには、パパとママが2週間だけ帰って来てくれたので、彼方を紹介した。

 ママは「あらー、あらー。」って言いながらニコニコしてて、パパもニコニコしてたけどじいっと彼方を見てた。

 みんなで遊園地に行ったのは楽しかったなあ。

 夜におじいちゃんとパパがお酒飲んでべそべそしながら離れと彼方の話をしてた。

 ママとおばあちゃんは「まだ言ってる」みたいな顔して、知らん顔してボクと別の話をしてた。


 あっという間に2週間が過ぎて、泣きながら仕事に戻る2人をお見送りした。

 彼方が遊園地で撮った写真を入れた写真立てをプレゼントして、ママにぎゅってされてた。

 その後、ママはボクにもぎゅっとしながらこっそりこう言った。


「ああいうプレゼントができる子はすごくモテるわよ。頑張りなさい。」


「うん!頑張る!」


 そうして2人は飛行機に乗って再び飛び立っていった。



◆◆◆



 そうこうするうちに中学2年生になった。

 また彼方とクラスが一緒になって嬉しい。運命だよねこれは。


 ボクも彼方も同性のお友達が増えて、固定のグループみたいのが1学期の間に出来上がっていった。

 夏休みになると、彼方のグループとボクのグループ合同で遊びにいくこともあった。

 彼方のグループには、可愛い系イケメンの井上君や明るいスポーツマンの村田君とかがいて、カーストトップ気取りのチャラい雰囲気イケメンの連中よりも密かに女子人気が高い。


「くぅ~。双葉ちゃんのおかげで眼福ぅ。」


「井上×須藤・・・。てぇてぇ・・・。」


「こらっ。彼方で変な掛け算すんなっ。」


「大丈夫、双葉ちゃんの旦那は誰も取らないよ~。」


「だだ、旦那とか・・・。そんなのまだだし・・・。」


「可愛いのう。おい鶴ちゃん、可哀そうなロリムッツリに、君の無駄にでかいのをもいで分けておあげなさい。」


「やぁ、珠ちゃん~。もまないでぇ~。」


「こいつッ・・・! また育ってやがるッ・・・!」


「ねえ今、ボクのことディスらなかった?」


「あだだだだだ! 双葉姫! ギブ!」


 こういうのがボクたちのグループの日常会話だ。



 彼方の水着姿が見たくて、何回か2人でプールにも行った。

 ウォータースライダーでどさくさに紛れて彼方に抱き着いたら、肌があたってお腹がきゅんきゅんする。

 うへへぇ。


 プールから帰ったら離れで2人でまったり。

 2人きりの時の服装は日向お姉ちゃんのアドバイスに従って、彼方に女の子アピールする装備、今日はショートパンツに胸元が広く開いたタンクトップだ。


『男は女の子の日焼け跡が好きだ!私も大好きだ!

横になってる女の子の少しめくれたスカートには心がおどる!

濡れた白いTシャツも好きだ!

白いワンピースに麦わら帽子の組み合わせは最高だ!

ショートパンツも好きだ!

ルーズな胸元から見えるブラチラには感動すら覚える!

(長いので以下略)。』


 ・・・時々ちょっと日向お姉ちゃんのことが心配になるけど、言ってることは分かった。

 そして効果は抜群だ!さすひな!

 彼方の視線をぎゅんぎゅん感じる!

 たぶんボクのお気に入りのブルーのパンツも、おっぱいも全部見られた。

 もう全裸を見られたと言っても過言ではないのでは? 責任取って結婚かな?

 いつケダモノになって襲い掛かってくれるかな?


 もだもだムラムラしたボクの中2の夏休みはこうして終わった。

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