第5話 失敗など存在しない

ブー。ブー。ブー。


スマホのバイブ音が耳に届く。


僕は枕の周囲を捜索し、スマホを発見する。


枕の下まで潜っているとは、本日の犯人は逃走が激しかったんだな。

いや、自分の寝相が激しかったのだ。


心臓が血液を循環させる機能を弱から中に切り替わり、同時に脳が働き出す。

僕はやっと、スマホを物質としてでなく、道具として認識する。

日付を見る。時刻を確かめる。通知に浮かぶ名前を読み上げる。


僕は我に帰った。

今日は彼女との1ヶ月記念日。集合時刻は午前11時。

スマホの画面は12時14分を示している。

受信が8件。LINEが5、電話が3だ。全て彼女からだ。


僕は急いで電話をかける。


「もしもし、ごめん。今起きて」

「・・・1ヶ月記念日のデートに彼女待たせておいて、今起きたですって?信じられない。」

「本当にごめん。昨日楽しみにし過ぎて寝れなくて・・・。」

これは真実だった。夜にコーヒーを飲んでもすぐ寝てしまう僕が、昨日はコーヒーを抜いても寝れなかった。

「そんなこと言ってもダメ。もう別れる。」

「そんな。今日の夜にもう一度時間くれないかな?」

「もう無理だから。私、一度でもこうやってルーズにされるとダメなの。」

ダメという言葉の使用回数は2回目。なんだ。意外と僕は冷静だ。

そう考えていると、電話の先にもう彼女はいなかった。


✳︎✳︎✳︎


さて、今回は少し表現を変えてお話を作りました。

あなたは何を思ったでしょうか?

主人公の僕に対して、寝坊するなんて、しょうもない失敗だな。と多くの人が考えたのではないでしょうか。

確かに、僕は寝坊し、彼女を待たせ、怒った彼女にフラれる、という流れから、失敗と捉えることでしょう。


しかし、それはあくまでも、“客観的な失敗“でしかありません。

言い方を変えると、それはあなたが勝手に僕に対して失敗だというシールを貼ったようなものです。


このお話には続きがあります。


その後、僕は落ち込んだ。しかし、簡単に彼女を諦めるわけにはいかない。

誠意を持って彼女に謝罪を続けた。1週間後、彼女からもう一度会えるチャンスをもらうことができた。

僕はそのデートで、彼女に対する本気の姿勢を示した。そして、今後は決して時間に遅れないことを誓った。彼女は僕から目を逸らさなかった。


僕たちはデートを重ね、2人の時間を積み上げていった。

そして、ついに結婚したのだ。


続きを読んで、お気付きでしょうか。先ほどの失敗は、彼女に対する本気を自覚し、真剣さを伝えるきっかけになったことになります。

つまり、主人公の僕にとっては、今回の出来事は失敗ではないのです。


私たちの周りには、すぐに失敗だと考える人が非常に多いと思います。

確かに、失敗と考えられそうなことは多々ありますが、そのほとんどが“客観的な失敗“だと考えます。

ある出来事を起こしたとしても、僕のように彼女と上手くいくきっかけだと捉えられれば、“主観的な失敗“など存在しないことになります。


つまり、ある出来事に対して、失敗かどうかは自分の手で操作可能だということです。


では、なぜ多くの人は失敗を、そのまま失敗として捉えるのでしょうか。

それは、そのまま失敗だったと捉えた方が楽だからです。

失敗を失敗ではないと捉えるためには、必ず行動が必要になってきます。

今回のお話で言えば、僕が彼女に何度も謝罪を続けた行為がこれに当たります。

想像していただければ分かりますが、簡単な行動ではありませんよね。


つまり、失敗を失敗だと思いたくないが、そのためには行動が必要であり、その行動が面倒であるから、やっぱり失敗として処理してしまおう、という心理が働いているから、多くの人は失敗をそのまま受け入れてしまっているのだと私は考えます。


そうやって甘えた考えを当たり前にしていいのでしょうか。

客観的な失敗に縛られず、勇気を出して行動し、出来事に自分なりの意味付けを施すことで、主観的な失敗の存在を消す。


そのような心の強い生き方が大切だと思うのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る