第3話 時間の大切さ

動物の世界で、大富豪のライオンがいました。名前はキング。キングの家には、ありとあらゆるものがあります。キングの生活ぶりに、動物の世界の誰もが憧れていました。


「あんな風になりたい。」

「欲しいものを欲しいだけ買いたい。」

「キングのように生きられたら、幸せだろうな。」

 

そこへ、ある日セミがやってきました。キングは尋ねました。

「何しに来たんだ。お金が欲しいのか。」

セミは答えました。

「いいえ。お金なんて要りません。お金なんていくらあっても、私たちの欲しいものは手に入りませんから。」

キングは理解できませんでした。欲しいものなんて、お金を払えば手に入る。しかし、目の前にいるセミは、お金では手に入らないと言う。


命か?


キングは、それが気になって仕方がありません。

「どうすれば手に入るんだ?」

「すでに皆さんが持っているものです。しかし、自分が持っている以上に増やすことはできません。みんな平等なのです。」


セミは続ける。


「わたしはセミです。夏になると私たちの合唱が皆さんの邪魔をしていることは分かっております。キング様からしたら、あの小さい分際でよくもこんな大きな音が出せた物だ、と笑っていることと思います。私たちも、たまに思うのです。ああ、なぜ私たちは木にしがみつき、こんなことをしているのだと・・・。」


「しかし、これこそが私たちなのです。キング様もご存知の通り、私たちのセミの寿命は極めて短いです。儚いものです。でも、その一瞬の人生に全てをかけているのです。金銭欲や物欲に溺れることなく、ただひたすらに己が生きていた証を少しでも残そうと足掻いているのです。側から見れば、格好良くはないのかもしれません。しかし、私たちは自分自身に誇りを持っています。」


「キング様、あなたは今、自分自身に、己の中に、誇れるものがございますでしょうか。それはつまり、お金や物を全て捨てたとしても、あなた様の中に、輝く何かがあるでしょうか。」


「ここにおられる、キング様に仕える皆様は、目の前にある物に対して欲が出ているから、キング様の側におられるのではないかと。目に見えている物だけが、全てではありません。今、刻一刻と過ぎているこの時間を、どう生きるかこそが大切であり、かけがえのないものなのです。この時間があるからこそ、私たちは楽しんだり、努力したり、時には悲しんだりして成長できるのです。ただし、これは永遠には続きません。必ず終わりがきます。それを分かった上で、今をどう生きるのかを考えないといけません。」


✳︎✳︎✳︎


 セミが登場した時、あなたは何を予想しましたか?


セミの一生は短い。


これは、ほとんどの人が知っている知識です。しかし、そこからこれほどまで、時間を大切するべきだという考えまで、辿り着いたでしょうか。

時間は有限であると、誰もが知っています。しかし、普段の生活の中で、有限な時間を大切にできているでしょうか。セミのように、あと1週間、と残りの時間が分かってからでは遅いのです。


どうか、今ある時間を無駄にしないでください。

今を大切に生きてください。

それが物語のセミの願いです。


夏にセミの鳴き声が聞こえた時、この話を思い出してくれることを願っています。

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