眠るときは電話を抱いて

 一人暮らしで一番怖いのは、突然死だ。

 もちろん、夫とは毎週末会うので発見がものすごく遅れるということはないはずだけれど、それでも夏場は自分の死体の行く末が心配になる。


 もし、結婚していれば自分が死んでしまったときすぐに見つけてもらえる。

 これって結婚するときのメリットとしてあげられると思う……言っている人みたことないけど。

 まあ、自由な分、場合によっては発見まで数日遅れるのは仕方ないのかもしれない。


 とりあえず、一人暮らしをしていく上で、スマホは肌身離さず持っている。もちろん、スマホは外でも必須のツールだけれど、家の中でこそ片時も離れることはできない。

 職場ならスマートフォンを自分の机にぽんと置いて離席することもあるけれど、一人暮らしの家の中では不安でそんなことができない。


 ――もし、万が一、トイレに閉じ込められたら。

 ――急に具合が悪くなったら。


 そう思うとスマホから離れることは不可能だ。

 家の中でこそどこでも持ち歩く。

 昔は『携帯依存症』なんて言葉があったけれど、それどころじゃないのが今の私の生活だ。

 でも、これは一人で暮らしている女性ならば誰だってそうだと思う。


 死ぬのも怖いけれど、この年齢になると死んだ後の方が怖い。


 自分が死んだ後、自分の各種アカウントや写真データなどはどうなるか。気がかりだ。

 死んだら全て終わりなのだろうけれど、アカウントは生きているので。とりあえず、夫には死んだら適当にアカウントを消して貰うようにお願いしてある。


 一人の時間は自由だけれど、少し寂しい。

 でも、スマホがあれば常に誰かとつながっていられるから寂しくない。一人暮らしであれば、スマホを手放せる瞬間などないだろう。

 それさえあれば常に誰かが側にいてくれるような気がするのだから。

 逆に無理に、誰かとあわせる必要なんて無い。

 気の合う人間とだけ、インターネットの世界を通じてつながればあっという間に時間なんて過ぎていく。


 そういえば、マリリンモンローは受話器を握りしめていたまま死んでいたらしい。

 その姿は彼女の存在の大きさもあっていろいろな噂がささやかれるけれど。


 きっと、私も一人暮らしをしていて突然死するときにはスマホを握りしめたまま発見されることになるだろう。

 いや、私だけじゃない。一人で暮らす女性の多くはスマホを握りしめたまま死ぬことがふえるだろう。


 誰かと話したい。つながっていたい。一人は寂しい。

 そんな気持ちが今までは年頃の女性を結婚へと強引にかりたてていたが、きっとこれからは変わっていく。


 ただ、話すだけでいい。

 そう思って、スマホを抱きかかえながら私たちはきっと孤独に死んでいく。

 もし、少しでも早く発見して欲しい場合は、結婚しておくのも悪くないかもしれない。

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