クローゼット二つ分
月に一回、通販の箱が届く。
オークションで競り落としたお気に入りの洋服やらアクセサリーが詰め込まれた自分オリジナルの福袋だ。
正確には福袋ではなく、大きな段ボールで届くのだから福箱、いや服箱と言った方が正確かもしれない。
たぶん、大抵の男性がみたらドン引きするような買い物量かもしれない。なんせ、宅配の人から「大丈夫ですか?」と心配されながら受け取るくらいその段ボールは巨大なのだ。
これを私は証拠が残らないように、クレジットカード引き落としではなく、代金引換で払う。
まあ、別に夫にしられたところで問題はないのだけれど。
専業主婦でもないし、毎月そこそこ(人並み)のお給料を貰っている。買い物くらいしても問題ないはずだ。
カシミヤのセーターやシルクのブラウス、シンプルな黒のスカートと言った普段仕事に着ていくのに仕えるベーシックなアイテムから、フリルがたっぷりあしらわれたスカートからスイーツモチーフのアクセサリーと我ながらあきれるくらい服の趣味はオンオフで切り替わる。
人より服の量は多いかもしれない。
別にいいのだ、クローゼットは夫の家と私の家、二つあるのだから。
断捨離なんて言葉が流行ったけれど、それより先の結婚の形をとっている私はクローゼット二つ分、つまり他の人の二倍の服の量をもっていても間違いじゃない。
一人暮らしのアパートは仕事用の服がメイン。
夫の家のクローゼットにはレースやビーズが贅沢に使われた洋服をしまう。
二つあるのだから、用途を分ける。
贅沢だけれど、それが許される新しいライフスタイルなのだから構わないはずだ。
そうやって、私は洋服で自分の妻モードのオンとオフを切り替える。
やわらかい女性らしい服を着ているときは理想的な妻の自分、仕事用の上質なブラウスとシンプルなスカートなら時代にあわせて働く自分。そうでもしなきゃ、仕事も結婚も両方なんて無理だ。
仕事も家庭もなんて少し前の女性達は頑張ってきたというけれど、結局、みんな苦労してるじゃないか。
もちろん女性の社会進出のために努力をしてくださった諸先輩方には感謝しているし、尊敬もしている。
だけれど、平成生まれの私にはそこまでのバイタリティはないのだ。
両方を同時にこなすなんて無理。
でも、どちらかを諦めるのもイヤ。
夫と共に住まなければ、必要な家事はそれぞれ自分でやる。この生活は間違いではないはずだ。
好きな服も仕事用の上質な服もどちらも私にとっては必要。
……でも、クレジットカードに履歴を残さないのはどこか後ろめたさがあるのかもしれない。
買ったものを夫の前で身に着けるし、場合によっては似合うかどうか参考のため夫に聞いてみることだってある。場合によっては夫のものだって購入している。
だけど、なんとなく夫の家族カードで自分からのプレゼントの支払いをしないのは夫に秘密をもちたいからなのかもしれない。
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