53話「計画の役割分担」

 ミサラの指示で、将兵達が貴族たちを収容する場所として予め決めておいた建物へと連行されていくことになった。

 ここに連れてこられるときはあれこれ文句を言う余力があった貴族達だが、クロエの逆鱗に触れて恐ろしい目に遭ったことで、何かを言うほどの気力すら残っていない。

 将兵達にとって連行しやすい状況になっているようにも感じるのだが、腰を抜かしてしまって動けない状態になっている者もいるので、どちらにしても苦労している。


「やっと終わったか」


 貴族たちが連行されて行った後、ミサラが息をふぅっと吐きながらやれやれと言った感じで言葉を漏らした。


「知能は無さそうですが、プライドの高さには目を見張るものがありますね。自分のプライドのためならどんな愚かなことでも迷いなく行ってしまう。私はそういう風に判断しました」

「特に、金髪の男のプライドの高さは計り知れぬものがあるな。我は特に問題ないが、ロアやミストは大丈夫か?」

「私は問題ありません!」

「私もです。アポロが守ってくれましたので」


 そんなロアに褒められているアポロは、クロエに近づこうとしたがクロエから鼻息を浴びせられて接近に失敗し、落ち込んでいる。

 先ほどの行動はかっこよかったし、クロエから見てもいい感じに映ったのではないかと思ったのだが、まだまだクロエの壁は高いらしい。


「しかし、ドラゴンの圧力は相当なものだな。特にキースの相棒となっておるクロエ……だったな。凄まじいものがあったぞ」

「この二匹がいないとまだ折れてなかったでしょうし、クロエとアポロには助けられました。相手を甘く判断してしまっていたようです、申し訳ありません」


 作戦自体はうまく言ったが、ロアやミストに辛い気持ちにさせてしまった。

 クロエとアポロがこちらの気持ちを代弁し、代わりに怒りをぶつけてくれるという相棒としてあまりにも出来過ぎた行動をしてくれたので、何とかなった。

 もし、そうなっていなければロアが取り乱し、ネフェニーが更に怒りによる行動を激化させる可能性もあった。


「まぁ良い。その分、また別の機会にキチンと二人に対して、埋め合わせでもするのだな。では、エルクス王国民の回収についての具体的な話をしていくことにするか」

「では、城に入って話を進めていきますか?」

「いや、今日の決め手になった英雄たちをここに置いて話をするのもどうかと思ってな。キースとロアは、ドラゴン達を労いながら話に参加してくれ」


 ミサラに促されて、キースは再び休む体勢になっているクロエに労うべく近づいた。

 すると、クロエはすぐに体を起こしてキースの服を軽く咥えると、一昨日の夜のように自分の足元に置いてすかさず包み込むようにしながら休む体勢に入った。


「クロエ、それはちょっと……!」

「あっという間に、キースが飲み込まれたんだけど……?」

「ふむ、こうやってキースを抱いておったのか。このドラゴン、なかなかのやり手だのぉ。キースと違い、積極性がある。大胆な女は魅力的よ」

「も、もうキース様を抱き込む動きに慣れてません……?」


 皆が思い思いの感想を言っているが、キースからすれば昼間の日差しに加えてのクロエの体温であの時よりもすでに暑い。


「よし。一人だけ女と寝ているものが居るが、このまま話を続けるぞ」

「そ、その言い方止めていただいてもよろしいですか……?」


 ミサラの言い方にキースは物申したが、スルーされた。


「回収についても大事だが、受け入れる施設の建築なども急務になるな。一応、帝都内の空き地に住居を建築させているが、どれくらいの民がこちらに来ることを希望するか未知数だから、そのあたりの調整が難しいな」

「キース殿的にどれくらいの方が希望されるか、大まかな予想などは立っていたりしますか?」

「そ、そうですね。貴族が実権を支配している以上、王都を中心に不満を持っている民が多くいると思われます。辺境地である場合、貴族たちの雑な内政でほぼ影響がないという範囲もあるので、そう言った方は移住することはないと思います」

「な、なんだろう。真面目な話をしているのに、違和感しかないんだけど」


 クロエに包みこまれながら話していることで、真面目に話している声がまるでクロエの体から発せられている状態になっている。


「とはいえ、資金を捻出するために主な商業都市や工業都市は、辺境地であれど圧がかかっている可能性が高いです。なので、地域によって反応はさまざまになるかと……!」

「ふむ。当然と言えば当然だな。ということは、数日間にわたって各地域を回り、移住を希望する民を集めていくしかないか」

「地道な作業になりますが、それが最善手かと私も思います。元エルクス王国の兵士の方々も、残してきた家族のことを不安に思われている旨をよく耳にしますので、出来るだけ取り残さないようにするべきかと」

「となると、どういう役割分担を行うかと問題になりますね。キースやロアはドラゴンが使えますので、移動力があります。それに、元エルクス王国に居たキースの言葉が無ければ、信用しないという者もいるのではないかと思いますが」

「だとすると、キースにしか出来ないエルクス王国民への呼びかけを行ってもらい、ロアには亡命を希望した民の数を一日ごとに帝都に居る我にまで連絡してもらうと言うのが、最善手か。どうだキース、異論はあるか?」

「も、問題ないです! 自分もその役割分担が良いかと思います。後、女性や子供などもいますので、民の移動を護衛する役割をレックたちの鎧騎士部隊にお願いしたいです!」

「それもそうだな。よし、その任務はこちらが受けますね」

「では、私はどうしましょうか?」

「キースが動かないといけない以上、ルナには亡命希望者の正確な数を把握してロアに伝えてもらう役割を行ってもらいたい。他のメンバーなら、数えミスなどをやらかしかねないからな。ネフェニーは我の計画など、皇国内での連絡事項を伝える担当役を担ってもらいたい」

「了解しました。騎兵部隊の機動力を生かし、迅速な行動を心掛けます」

「な、なんでミスをするって言う話を私の方を凝視しながら言うんですか!」

「お主、自分が持っている矢の数ですらたまに間違っている時があるよな?」

「あ、あれはたまたまですから!」


 ミサラがそんなことを言いながら見てきたことに、ミーシャは不満のようだ。


「では、私とミーシャはどうしましょうか?」

「そうだな。いきなりの事で不安に感じている者ばかりだろうから、お主たちはうまく民たちをコミュニケーションを取って安心させてくれんか? お主たちのような明るい女が話すと、安心する者が多いだろうしな」

「ですね。円滑に進めるうえで、一番大事な役割と言えるかもしれません。あんまりあの方たちを拘束すると、またうるさくなるでしょうから」

「確かにルナの言うとおりだな。我らが素早く動くだけでなく、民にも円滑に動いてもらうことで回収作業が素早く進むのだからな」

「お、そう聞くとすごく大事な役割に思えてきた! やるしかないね!」

「くれぐれも、いい男が居ても誘惑とかするなよ? 余計な問題が起きると、面倒なことになるからな」

「ご心配なく! 今はキースだけって決めるんで!」


 エルクス王国民の回収計画における役割分担が、それぞれ決まった。

 キースも皆の気合が改めて入っている中に参加したいところだったが、これからの計画にもクロエの力は絶対に必要なものであるので、とても暑くて苦しいがクロエの愛をしばらく受け止めることにした。



















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