47話「作戦最終局面へ」

「昨日一日ルナと一緒に居たが、お主の話ばかりしておったぞ。それに今日だって一緒に来たのだろう?」

「それはまぁそうですけども……」

「お主が男としての積極性が皆無だから、あの三人とミストをお主の屋敷に住むように我が直々に命令を下すとでもするかの」

「ご、ご冗談を……」

「いや、割と本気で考えておるがな。まぁ、今の貴族たちの問題が解決したら、本格的に考えるとするとしよう」

「へ、陛下がそこまで動かれる必要はないと思います!」


 冗談かと思ったが、皇帝は真剣な顔でどうするか考えているらしい。

 考える必要はないと言ったのだが、そのキースの言葉に全く反応しなかった。


「真面目な話に戻るが、昨日行った二国との交渉締結により、完全にエルクス王国に対する戦争賠償のコントロール権を得た。今日、書面を飛ばせば最速で明日にはやつらが来ることになるだろう」

「作戦も仕上げの段階に入ったということですね」

「そういうことだ。ロアの意思が確定したことで、こちらとしての準備も整った。ミストはロアに合わせるだろうしな」

「ご、ご存じだったのですか!?」

「それぐらいなら、ミストを見ていればすぐに分かる。あやつはメンタル面が驚くほどに強いし、ロアを支える意思が強い。剣の実力だけでなく、そう言った点もあやつの大きな強みであり、我が傍に置いておきたいと思う点だ」

「さ、流石でございます……」


 もはや当たり前のように、側にいる人物の考えや特徴を完全に把握している。

 もし、魔法剣士を養成するなら、もう自分の目で厳選するよりも皇帝に人選してもらうほうがいいのではないかと、キースは思ってしまった。


「そんな我がお主たちを見て、もう一緒の屋敷に住まわせた方が良いと思っているのだ。近いうちに命令した方が良いだろう?」

「そ、そのことについてはもう少し見極めをしたいですかね……?」


 ミサラのそんな見極めから、強引な手段の必要性を訴えかけてきた。

 この人が見極めた上で遂行する作戦はうまく事が運ぶことは分かっているが、そもそもこの皇帝にとってキースと女性陣がどういう関係性になることがゴールラインなのかが全く分かっていない。

 一人の女性と関係が持てればいいのか、それともくっつけたい女性全てと関係を持たせることが目的なのか。

 肯定的に目標が達成されたとしても、狙いが後者だった際にその後同女性陣と付き合っていけばいいか、全く想像がつかない。


「陛下、おはようございます」

「んあ? なんじゃ、レックか……。お主はいつも来るタイミングが悪いのぉ」

「な、何で来てすぐに怒られてるんですかね?」


 何とか話をはぐらかすことに必死にならざるを得ない状況になっている時に、ちょうどレックが入室してきた。

 キースにとってはありがたいタイミングだったが、ミサラにとってはタイミングが悪すぎたようで、何の罪のないレックに開口一番厳しい言葉を飛ばした。

 いきなり文句を言われてしまったレックは、いつものようにちょっと落ち込んでしまった。

 ただキース的には助かったので、個人的にレックに対して心の中でお礼を言っておいた。


「お主が貴族に要求する内容を考えると、もう明日にはこちらに来させる方が良いと思うのだが、お主的にはどう思っておるのか?」

「同じ意見です。時間がかかればかかるほど、貴族がまた異質な行動を起こしかねません」

「よし、分かった。では、皆に問題ないか確認を取り、意見が揃い次第すぐにこちらへ来させるように書類を準備することにしよう」


 作戦の最終段階についてミサラとキースが確認した後、いつものように集まったメンバーとクロエを連れてきても問題が無いように打ち合わせをしてくれたロアとルナが戻ってきた。


「よし、今日も全員揃ったな。早速だが、真面目な話に移らせてもらう。昨日、ルナと共に二国に提示していた交渉内容を、正式に締結を完了した。これで、遂に貴族たちを書面一枚で呼び出せる時が来た。そして、ロアたちの意思も決まったようだ」

「はい。私たちも、参加することにしました」


 その決定に、メンバーたちはロア達の方に向いて色々な反応を見せている。

 レックとルナは冷静さを失わずにじっと見つめ、ミーシャは少し心配そうに見つめている。

 そしてキースはネフェニーの姿を見た。

 明らかに彼女はロア達の選択に驚き戸惑っていて、目が泳いでいた。


「ほ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫です!」

「ロアがこれだけはっきりと言い切ったのだから、我としては心配しておらん。よって今から書面を作成し、貴族たちを呼び出す準備を行う。皆、異論はないな?」


 その皇帝の確認する一言に、みんな無言で頷いた。


「よし。では、これから書面を作成する。早ければ明日、遅くても明後日には貴族たちが到着すると思ってくれ。戦うわけではないが、相手が相手。しっかりとそれぞれ向き合う準備をしておいてもらいたい」


 いよいよ作戦が最終段階に入り、因縁の相手と会うことになる。

 キースやロア達にとっては再会という形になるが、皇帝を始めとして皇国のメンバーたちは初めて貴族と会うことになる。

 再会する側にはこれまでの記憶から引き起こされる緊張感があり、それ以外メンバーにとっても初めて目にするという緊張感がある。

 今までの朝の集まりで、最も緊張感が高まっている。


「話は以上だ。無いと思うが、気持ちを紛らわせるために酒を飲みすぎて寝坊などしないようにな」


 ミサラは締めくくりの言葉言うと、早速筆と紙を側付きに用意させて書面を書き始めた。


「キース様、少しよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」


 朝の集まりが解散となり、それぞれが持ち場に向かって散り始めた時にミストから声を掛けられた。


「次は私がキース様を案内する番なのですが、この作戦が終わってからにしてもよろしいですか? 落ち着かない状態で行うのもどうかなと思いまして」

「それもそうですね。では、この問題が終了して落ち着いてからミストと剣術の腕比べをするとしますか」

「是非、そうしてもらえるとありがたいです! その方が集中して勝負できますので!」


 ミストの案内&力比べは、今の作戦が終了して彼女がより集中できるようになってからにすることに決定した。

 キースがミストと今後の話をしている間、ミサラは真剣な表情でひたすら筆を持つ手を動かし続けている。

























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