46話「賞賛と説教」

「明日からクロエちゃんに乗ってこられるようでしたら、他の皆さんが集まるまでに私の方から連絡しておきましょうか?」


 クロエをここに連れてきても問題ないように、ロアが連絡と打ち合わせを行ってくれると申し出てくれた。


「昨日からロアに任せっきりで申し訳無いから、自分でやるよ?」

「アポロのことを応援して頂いてますし、私はアポロをここに連れてくる上で連絡する流れも分かってますから、気にしないでください。……遠慮するような仲でも無いですよね?」


 流石に昨日からロアに助けてもらってばっかりで申し訳なくなって、キース自身で行うと言ったのだが、ロアは引き下がらなかった。


「そ、それもそうだね。じゃあ、お願いするね」

「はい!」

「私もドラゴンについてもっと知りたいです。今日はキース殿のドラゴンに少し驚いてしまいましたが、是非とも背中に乗ってみたいという気持ちもあります!」

「では、ルナも一緒に来ますか? クロエちゃんが来ることの出来るようにする打ち合わせと並行して、私のアポロで色々とドラゴンを説明させていただきますよ」

「本当ですか!? 行きます!」


 ルナもクロエを目の前にしたことで、ドラゴンにかなり興味を持ったようだ。

 騎乗操作に慣れて、近いうちにルナを一緒に乗せられるようになると良いのだが。

 あのルナの食いつき方を見ると、クロエの操作が完全に身に付くまでに相棒を見つけてしまっているような気もする。


「陛下、ルナと一緒にキース様の相棒であるクロエちゃんをここに連れてきても問題ないように、少しお話してもよろしいですか?」

「もちろんだ。ルナも興味を持っておるようだし、説明してやってくれい」

「了解しました。ではルナ、行きましょうか?」

「行きましょう!」


 ロアはルナに声をかけると、そのままいつも集まっている部屋から出て行った。

 そのため、残っているのはミサラとキースの二人だけになった。


「キース。ささ、早うこっちへ来い! いろいろと聞きたいことがあるぞ」

「は、はい」


 必ず声をかけてくると予想していたが、かなりテンション高めで声をかけてきている。


「ロアから、貴族たちが来た際は自分も参加すると今日来てすぐに言ってきた。それも、明るい笑顔で迷いなくだ。昨日あれだけ悩んでいたのに、なぜあんなにも吹っ切れたのかは、お主が理由にあるはず。何をしたのだ?」

「ロアがどういった要素で悩んでいるか、すべて聞きました。その上で、何が必要か一緒に考えたんです」

「ほう。では、ネフェニーとの関係性についても聞いたのだな……」

「聞きました。全く気が付きませんでしたが、なかなか難しい問題になってしまっているようですね。そして、ロアが参加しないという意思になりきれない理由にあるのは、ネフェニーにそれだけこの問題を引きずっていると思われてしまうことが不安だったそうです」

「なるほどな……」

「まだ少しだけですが、ネフェニーの性格からしてロアが欠席すれば確かに確固たる溝が出来るような気が自分もしてしまいました」

「お主がその言い分ということは、つまりはお主が参加してみる方向に提案したということだな?」

「この判断に関しては賛否が分かれるかもしれません。でも、迷った際に次につながるか繋がらないか……非常に大事な問題だと思いました。そしてロアにはアポロもいますし、自分だって支えます。だからこそ、頑張ってもらいたいと思いました」

「……いや、そんなことはない。あれだけ悩んでいたロアを、あそこまで迷いのない姿にさせられたことに驚いていてな。この選択は、必ずあの二人の関係性に改善をもたらすだろう。本当に感謝するぞ」

「いえ、アポロの存在や皆さんの良好な関係性があってこそだと思います。自分はその良い点を持ち出したに過ぎません」


 いつものミサラの表情とは違い、本当にほっと安心したような顔をしている。

 ミサラとして何とかしたかったのだろうが、立場的に上からの圧のようになってしまうので、難しかったのかもしれない。


「いや、お主の支えるという言葉が決定打だろう。ヘタレなのに、よく頑張ったぞ」

「へ、ヘタレ……」

「だってそうだろう? それだけのことを言い放っておいて、結局夜はロアを抱かずに相棒になったドラゴンに抱かれてしまうという有様ではないか」

「そ、それは……」


 実は誘ったのだが、うまく事が進まなかったなど口が裂けても言えない。

 そんなことがバレたら、この皇帝がどんな反応をするのか分からない。

 おちょくられてしまうのか、あるいは誘いを断ったロアに訳の分からない説教をする可能性すらありそうで怖い。


「その男らしい雰囲気で、そのまま抱けばロアにとってもつらかった思い出が、恋した男との甘い思い出に多少なりとも変わったというのに……。お主は何をやっておるのか!」

「も、申し訳ありません……」


 つい先ほどまで「よく頑張った」と褒めてもらっていたはずなのに、今度は厳しいお説教が始まってしまった。


「お主、男としての象徴はちゃんと付いておるのか? 実は貴族どもに剝ぎ取られて無くなっておったりしないか?」

「な、なんてことを言うんですか!」

「お主がおかしいだけだから、我が文句を言われる筋合いなどないぞー」


 遂にこの皇帝、立場としてどころか女性としての品格すら疑うような発言を繰り出し始めてしまった。


「ロア、ミーシャ、ルナ。これだけの女から好意を向けられていて何もしないのは、男とは言えぬ。我が男なら、多少強引でも全員頂く。迷いなくな」

「へ、陛下が女性でよかったと心から思います……」

「何なら、ロアがあれだけスッキリした顔をしている以上、お主に対する興味が薄れておるのではないか? 前回未遂に終わって、昨日一緒に居られる機会でまた関係を持てなかったら、普通はもっと心残りがあるはずだが?」

「そ、そんなことはないと思うんですがね……」


 ちゃんと次は誘いに乗ってくれると言ってくれていたが、ミサラからそう言われてしまうとやっぱり不安になってくるのだが。

 関係を持つことは出来なかったが、キスもしてもらったしこちらから誘うことも出来た。

 少しずつ関係性が構築出来ているとロアも感じていて、ちょっと余裕があるだけと考えておきたいのだが。


「これだから堅物は……。レックもお主も真面目であるところが良い点であるし、そこを信用しているが、ここまで真面目過ぎるのも問題だぞ」

「ふ、風紀がしっかりしていてよいことだと思いますが」


 キースはそう言ったのだが、ミサラは残念そうにため息をつきながら首を横に振るだけである。











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