45話「ドラゴンの女と寝ました」
その後、クロエにしっかりと捕まってから数時間が経過して夜になっても、全く解放されそうな気配がない。
着ていた服が先ほどの水浴びで濡れてしまったものの、クロエに包み込まれた体温で気が付けば乾いている。
ただ、衣服が少しの時間で乾くぐらいの温度に数時間包まれているため、今度は暑くて汗をそれなりに搔いてしまっている。
「クロエ~……。食事とお風呂だけ許してくれ……」
こうして拘束された直後は、クロエのことが可愛く思えてそれなりにいいかなと感じていたが、今はお腹が減っていて何かを食べたいし、汗も流したいという欲求が強くなってきた。
だが、そんな必死な声かけをクロエは聞き入れることもなく、キースがこうして呼びかける度に頭を摺り寄せてくる。
可愛らしい行動なのだが、先ほどしっかりと肉を食べているからなのか血の臭いが凄く漂って来る。
今日一日だけだが、クロエはキースの訴えていることをそれなりに察しているはず。
「察した上で、この感じということは……。放す気はないから諦めろってことか……?」
キースのその言葉に、クロエはフンッと鼻息を鳴らした。どうやら正解だったらしい。
この大きな体から、キースの力では脱出することはどうやっても不可能。
クロエが解放する意思がない以上、一晩はこうして過ごすしかほかに手段は無い。
「仕方ない、このまま寝るか。クロエ、明日の朝には絶対に解放してくれな? 出来ればちょっと朝早めに……」
明日の朝には解放してもらわないと、いつもの朝の集合に参加出来なくなる。
それもいつも起きる時間よりももっと早めに解放してもらわないと、ご飯を食べることもそうだが、とにかく風呂に入らないとこの状態のままでは人に会うことは出来ない。
「初めての欠席がドラゴンと一晩過ごしたためって聞いたら、みんなどんな反応をするんだろうか……?」
ロアと過ごして遅刻なら、皇帝を始めとするメンバーの反応がどんなものになるかそれなりに想像がつくが、クロエが理由で欠席となった場合に理解が出来るのがロアしかおらず、他のメンバーの頭には?が浮かぶことだろう。
色々と考えたが、クロエに解放の意思が無いのでひとまずそのまま眠ることにした。
(クロエも寝るだろうし、もしかすると抜け出すチャンスもあるかもしれない)
そんな淡い希望を持って目を閉じると、更にきつく抱き寄せられてしまった。
結局、翌朝まで抜け出すチャンスは全くなく、ドラゴンと共に一夜を過ごすことになった。
※※
翌朝、一夜を一緒に過ごせて満足したのか、クロエは割とすんなりと解放してくれた。
ただ、暑いとか身動きが取れないとか色々と考えていたが、意外とクロエに包まれた状態でしっかりと心地よく寝てしまった。
そのため、早めに起きる予定だったはずなのにいつもと変わらないぐらいに起きてしまった。
屋敷に駆け込んで急いで風呂に入って汗を流して、残り少ない時間で側付きの女の子たちが用意してくれている朝ごはんを口に放り込みながら、身支度を整える。
「な、何でドラゴンがここに居るんですか!?」
身支度を整えて、屋敷から出ると同時にクロエの姿に驚く声が耳に入ってきた。
その声の主の先を見ると、ルナがクロエの姿を見てびっくりしたのか、腰を抜かしてしまっていた。
「おはようございます。驚きました? クロエって言うんですよ」
「お、おはようございます。も、勿論驚きましたよ! ドラゴンって懐かせるの相当難しいですよね!? この子は昨日のロアとの施設見学の際に懐かせたんですか?」
「そうです。ダメもとでチャレンジしてみたら、うまくいきまして」
「つ、つまりキース殿は魔法剣士であり、竜騎士にもなったということですか?」
「一応資格はあるってことになりますけど、実際に乗ってみたらそんな簡単にはいかないなって感じですね」
ルナはキースの話を呆気にとられたような顔をしてしまっている。
確かに、彼女の指摘通り立場上はここに竜騎士として名乗ることも出来るようになったのか。
ただ竜騎士などの何かに騎乗する際には、槍のような長さのある武器が強いと思うので、剣士ではあまり竜騎士として強さを発揮は出来なさそうだが。
「あ、そのドラゴンさんがいるということは、その子に乗って城まで行かれますかね?」
「うーん、そうだな……」
ロアがアポロに乗って来ると思うので、クロエを連れていくとアポロは喜ぶと思う。
ただ移動操作がまだおぼつかないことや、いきなり城にもう一匹ドラゴンを連れていくと、城の人も混乱しそうな気もする。
アポロとクロエで何か接していて、揉め事になる可能性も今の段階では捨てきれないし……。
そして何より、こうしてまた一緒に足を運ぶために来てくれたルナが、相当クロエに対して怖がっているので、乗せていくことは出来なさそうだ。
キースがまだ寝ている時のようにうずくまった状態のクロエをちらっと見ると、目が合った。
そして、すぐにプイっとそっぽを向いてまた目を閉じて眠り始めた。
どうやら、「今回はお留守番をしてやってもいい」と言うことのようだ。
「今日はここでお留守番してもらうよ。まだ自分がクロエを懐かせているってことは他にロアしか知らないから」
「分かりました。では、行きましょうか!」
ルナとまた色々と話をしながら、城まで足を運ぶことになった。
城まで足を運ぶと、いつものように書類に目を通すミサラとすでにロアが集合していた。
「おはようございます」
「うむ、おはよう」
「キース様、ルナ。おはようございます」
ロアが笑顔で、挨拶を返してきた。
昨日の出来事があったので、ロアの笑顔を見るだけで結構ドキドキしてしまう。
「クロエちゃんはお留守番ですか?」
「うん。いきなり連れてきたら、城に居る皆がびっくりしちゃいそうだからね。アポロには申し訳ないんだけど。ルナも最初見た時に、びっくりしてたから」
「あんなに間近で見ることはなかったので、なかなかの迫力でした」
「なんじゃ、お主は昨日一日でドラゴンを懐かせたのか!?」
「はい。たまたま気の合う子が居まして」
「ちなみにどのドラゴンだ? 我はそれなりに今のドラゴンたちの育成計画を視察しておるから、特徴のある者なら分かるかもしれぬ」
「あの一際体が大きく、持っている能力が高いと予想される碧色の女の子でございます。魅力的な分、気難しい性格だったのですがキース様を見てすぐに懐きまして」
「一番評価が高かったあのドラゴンか!……お主は人間の女だけでなく、ドラゴンの女まで誑かすのか」
「そ、そのようなつもりはありませんが……」
「ちなみに、昨日一晩過ごしてみてクロエちゃんはどうでしたか?」
「実は……」
昨日帰ってきて、餌やりと水浴びをさせた後からずっと捕まってしまい、そのまま一晩を一緒に過ごしたことを話した。
「な、なかなかクロエちゃんも大胆ですね……」
「ど、ドラゴンってそんなに人と一緒に居たがるものなのですか!?」
昨日のクロエの行動は、ルナだけでなく色んなドラゴンを見慣れたロアからしても、意外なものであったようだ。
「人間の女を抱く前に、ドラゴンの女に抱かれたか。こりゃまた面白いやつよのぉ」
一方で、皇帝はまたちょっとこちらが恥ずかしくなるような言い方をしながら、楽しそうに笑っているだけだったが。
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