44話「クロエと一緒」
クロエの出すスピードは、アポロに乗っていた時よりもかなり早く感じる。
このスピードに加えて、慣れない操縦を行っているので体全身に力が入ってしまいながらも、あっという間に帝都まで戻ってきた。
「そろそろ少しずつ高度を下げた方が良いのかな?」
手綱を操作すると、クロエはすぐに高度とスピードを下げ始めた。
ここからが問題で、どうやってクロエがまだ見たことのない自分の屋敷へと着陸させるか。
「今のクロエが飛んでいるスピードから着陸するまでの時間を予想して、タイミングよく操作して着陸させるしかないよな……?」
ただ、タイミングを間違えるとクロエを帝都にある建物に体当たりさせることになるかもしれない。
相棒になってもらったばっかりのクロエに、自分の操作ミスでひどい目に合わせたり、帝都に混乱を招いてしまうことになる。
「な、何事ももっと考えてからやらないといけないな……」
エルクス王国に居た頃は、自分の裁量で好き勝手やらないとダメなところがあったが、今は違う。
しかも、人付き合いやドラゴンの扱い方など全く慣れていないことばかりなので、なおさらもっと話を聞いたり、自分自身で理解を深めてからやらないといけないと今更後悔した。
「ク、クロエ! もっとスピードを落としてっ!」
色々と考えたことで焦ってしまったキースは、手綱操作をすることよりもクロエの体を軽く叩きながら必死に呼びかけた。
すると、フーンと不機嫌そうに鼻息を鳴らしたものの、一度完全にスピードを落として、再びゆっくりと高度を上げた。
すると、着地して欲しいポイントである自らの屋敷も見えてきた。
「ク、クロエってどれくらいこっちの伝えたいこと分かってくれてるんだろ……?」
今のキースが思わず焦って取ってしまった行動に対しても、理想的な動きを取ってくれた。
ロアと二人で話したいと思っていた時の行動と言い、言葉は伝わらなくてもこちらの行動などから心理を読み取ってくれているように見える。
仮にそうだとしたら、クロエ自身の身体的なポテンシャルだけに収まらないスーパードラゴンということになりそうだが。
落ち着いて再び手綱で操作すると、今度はかなりゆっくりとしたスピードで進み始めた。
「取りあえずこのスピードでこのまま屋敷の真上まで進んで、そこまで来たらまたさっきの止め方で止まってもらうか……」
クロエの機嫌が悪くなることは避けられないだろうが、先ほどそれで上手く止まったので、クロエの体を叩いて屋敷上空で停止させてから、手綱操作でゆっくりと着陸してもらうことにした。
ロアがこのクロエ操作を見たら、先ほどまでのいい雰囲気を一発が台無しになりそうである。
次にロアの前でクロエに乗るまでに、きちんとした操作を身に付けなければならない。
そんなことを思いながらも、何とか考えた手順でクロエを自分の屋敷の庭に着陸させることが出来た。
「な、何とかなった……。ごめんね、クロエ」
操作主がどうして欲しいのか全く命令が伝わってこない中で、任務を遂行した。
そんなスーパードラゴンは、フーンと鼻息を鳴らしながら頭を摺り寄せている。
怒りつつも、褒めて欲しいということだろうか。
「ロアが言っていたように、クロエは基本的にツンツンした性格なのかな?」
クロエの頭を撫でてしっかりとここまで乗せてきてくれたことと、変な操作をしてしまった謝罪をした。
その後、まだ屋敷の中で雑用を行ってくれていた側付きの女の子たちにこれからはクロエが庭に居るということを伝えておいた。
側付きの女の子たちがその話を聞きつつクロエを見てかなり怯えていたが、餌などの管理はすべてキース自身で行うと聞いてかなりホッとしていた。
「側付きの子たちがまだいる時間に戻ってこれてよかったな……」
これまでのように夜になって帰ってきたのでは、側付きの子たちがすでに仕事を終えてしまっており、説明する時間が確保できなかった。
この子達の反応からして、次の日にいつものように屋敷に来たところ、庭で巨大なドラゴンがいたらびっくりしただけで済まなかったかもしれない。
「そろそろクロエに餌をあげた方が良いのかな?」
夕方を迎えたところで、早速ロアに分けてもらった大量の肉を屋敷に直接支給される回数分に分けてから、用具置き場にあった台車を使ってクロエに今日の夕食分を与えた。
目の前に肉が運ばれると、ずらりと鋭くとがった歯の並んだ口を大きく開けて勢いよく食べ始めた。
その姿は相当迫力があり、ドラゴンに対して怖いイメージがある人が見ると顔が真っ青になるレベル。
あっという間に食べてしまうと、満足そうに舌なめずりをしている。
「水浴びとかもしてたし、ちょっと水とかかけてあげた方が良いのかな?」
人工池で水浴びをしていたことを思いだしたキースは、庭の植物に水を与えるようのホースを使って、クロエに水をかけてみることにした。
「怒ったりしないかな?」
怒ることも十分に予想されたが、実際にかけてみると特に何も嫌そうなそぶりを見せない。
むしろ、体を動かして水をかけて欲しい部位をアピールしてくる。
その要望に応えながら、体全体に水をかけていった。
「これで満足してくれたかな?」
水を止めると、クロエは身震いをしてついていた水滴を吹き飛ばした。
その飛び散った水滴でキースは結構濡れてしまったが、どうやら満足してくれたようだ。
「よし。じゃあ自分もご飯食べて、風呂に入るかぁ……ん?」
そう考えたキースが、屋敷に戻ろうとした時だった。
水浴びを受け終わって満足して、芝生に顎を載せて休めていたクロエが体を起こした。
そしてキースの方に歩み寄ると、口元でキースの服を加えて、軽々と持ち上げた。
「ク、クロエ!? どうかした?」
突然のクロエの行動に、思考が追い付かない。
やっぱり、今日一日色々と怒っているのだろうか?
この加えて状態から、そのまま口の奥へと引きずり込まれて先ほどの肉と同じようになってしまう……?
そんなことを思ってしまったキースを、クロエはゆっくりと自分の足元に置いた。
その後すぐに、クロエはその場でキースを翼で包み込むようにしてうずくまった。
「ク、クロエ?」
しっかりとホールドされていて、身動きが取れない。
キースが困惑してしまう一方で、クロエはフンっとご機嫌な鼻息を鳴らした。
「……しばらく一緒に居ろってことか」
確かに、今日こうして相棒関係になったのにまだきちんとこうして周りにいない状態で一緒に全く過ごせていない。
その時間をここでクロエが要求していて、その状況が作れたことに満足しているのではないかとキースは考えた。
「やっぱり懐いてはくれてるんだな……」
そう感じたキースは、とても嬉しくは感じた。
ただ、ご飯と風呂に行けない状態になり、どうしようと悩んでしまうことにはなってしまったが。
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