42話「決断」
「キース様、もう一つお話を聞いていただいてもよろしいですか?」
「もちろん。いくらでも話して」
「今朝の話でもありましたが、私はエルクス王国の貴族たちがこちらに来た場合、どうすればよいのでしょうか?」
「陛下もおっしゃられていたけど、一番大事なのはロアの気持ちだと思う」
ミサラからも『周りに合わせて無理に参加しようとすることは止めろ』と言われていたが、ロアの性格上すんなりとその意見を受け入れることは難しいようだ。
他のメンバーはすぐに参加することをあの場で決め、この時点でほぼほぼ出席することが確定した。
そんな状態で、自分が離脱することに関して色々と悩んでしまうというのは、ロアを見ていれば容易に想像がつく。
「ちなみに、ミストはどうするか決まってるの?」
悩んでいるようであれば、同じような立場であるミストがどう考えているかも参考に出来るような気がするが。
「正直どちらでもいいので、私に合わせるとだけ言ってくれています。ミストも同じ立場なのに、かなり気を遣わせてしまっているので、そこも気になっています」
「ミスト自身は、参加に対してどう考えているんだろう?」
「あの子、フワフワしてるんですけど相当気持ちが強いんです。陛下が止めましたけど、前線に戻るとまで自分から言っていたぐらいですから」
「あんまり話せてないけど、そう言う感じなのか。確かに、フワフワしているって言うイメージはあったけども」
ロアからいろいろと聞くことになったが、ネフェニーやミストも自分の想像と違う一面があることが判明した。
とは言っても、他のメンバーと一日ずっと関わることで印象になかった一面を見ることが出来たので、ちゃんと話を聞いたり関わってみないと分からないことが多い。
「じゃあ、ロアの気持ち次第だね」
「はい……。色々な方に迷惑をかけてしまっています」
「そんな風に感じる必要はないよ。皆、ロアにとって苦しい問題だって分かっている。それに、ミストは本当にどっちでもいいから、ロアにどちらの選択肢も取りやすくすることが一番いいってなったんだと思ったな」
「そ、そうなのでしょうか?」
「参加しないなら、ロアが一人で休まなくていい。参加するなら、ロアのそばに居てあげられる。そう考えているんだと思うよ? 参加どうのこうのって言うより、ロアの選択肢を増やしたいって言うのが彼女の思いなんじゃないかな」
これはあくまでもキースの推測でしかない。
仮にミストの中で参加するかしないかどちらかに希望があるとしても、ロアに対してそのような声かけをしているということは、個人的な選択よりもロアと同じ選択肢にすることを望んでいるということだろう。
「……私は、良い友人を持っていますね」
「うん。だから、ロア自身の気持ちに正直でいいんだよ。今の時点でどう思っているか、良かったら教えてくれないかな?」
「……正直に言うと、顔を合わせることに抵抗があります」
「うん」
キースに自分自身の気持ちを訪ねられて、ロアは絞り出すように自分の素直な気持ちを打ち明けた。
彼女の気持ちを聞いて、キースもすぐには結論を促さない。
「でも、ここで参加を止めればネフェニーにそれだけ私がまだ傷ついているとはっきりと意思表明するようなものです。これから関係を修復したいと考えている中で、簡単に参加しないという選択肢を選ぶのもどうなのか、とも思っています」
「なるほど……」
「なので、どうしていいか分からなくって」
ロアが悩んでいる部分が、ようやく見えてきた。
まだキースは、ネフェニーとしっかりと接していないので、ロアに対しての考え方がどうなっているかよく分かっていない。
分かっていることは、責任感がかなり強くこの件について並々ならぬ思いを抱いていること。
これから少しずつ話しかけて歩み寄っていくという案を出した中で、この機会にロアが不参加という事実から、よりネフェニーが距離を取る可能性は十分にある。
こうして色々と考えると、今もこうして悩ませる貴族たちの残した爪痕は深い。
「ごめん、ロアの気持ち次第だなんて軽く言ってしまって。一緒に考えようか」
「いえ、そんなことは……! 私の気持ちが弱いのがダメなんです」
「はいはい、そんなこと言わないの。それだけのことを考えながら、今後のことまで考えられているんだから、凄いことだよ」
キースはもう少しロアを抱き寄せることにした。
「あっ」と小さく驚いた声を出したロアの頭を胸元まで近づけると、左手で優しく撫でてみた。
「……これまでの話から、キース様ならどう考えますか?」
「そうだね……。確かに自分がロアでも、この選択肢で悩むことになったんじゃないかなって思う。自分に辛い目に遭わせた相手を見ることは苦しい。でも、それを避けると今後の関係性がうまくいかないかもしれない。どっちをとっても、苦しい要素が待ち受けている。そんな感じだもんね」
「はい……」
「だから、自分なら別の考え方をする。どちらも苦しい思いをするなら、その後のことに繋がる選択肢を選びたいってね」
もちろん、女性の身になることはキースに出来ないので、心情をすべて考えられるとは思っていない。
「それはつまり……」
「うん、自分なら貴族と面会する。あくまでもこれは自分の意見だけどね」
それでも、ロアにこれ以上貴族達から振り回されて欲しくないという思いがある。
「勇気を出して参加する。そして、ネフェニーと歩み寄っていくことを目指す、ということですね?」
「うん。それに今のロアには出来る相棒、アポロがいる。ミストだって、側に居てくれる。ほかにも、あの時と違ってみんなが居てくれている。勇気を出せば、みんなが支えてくれるよ。そして……」
キースはロアを抱き寄せていた右手で、ロアの白い手を取った。
「力になれないかもしれないけど、自分もロアの側にいる。良ければ、ちょっとだけ勇気を出してみない?」
「……途中でやっぱり怖くなるかもしれません」
「アポロの目を見れば大丈夫。すべての負の感情を吹き飛ばしてくれる」
「ネフェニーが感情的になっているところを見ると、私も冷静で居られないかもしれません」
「同じ立場であったミストが声をかけてくれる。ロアのことをたくさん知っている彼女なら、きっと落ち着かせてくれる」
「貴族たちに見られたら……」
「こうして自分に抱き着いてきたらいい。場所をわきまえるとか必要ない。どんなときにでも、ロアのことを受け止めるから」
彼女が訴える不安要素に対して、仲間あるいはキース自身が払拭できるということを優しく宣言した。
「……同じようなことを言ってしまいますが、私は良い方たちを持ちました。でも、これまでの私はその方たちのことを常に考えて、どうしていいか悩んでいました。でも、今回ばかりは……。遠慮なく皆さんの力を借りてみたいと思います」
「うん、それでいいと思う」
「キース様にも、こうして甘えてしまってもいいってことですよね?」
「もちろん」
「では、参加してみようと思います。これからのためにも」
ロアは元気よく、悩み続けてきたことに対して決断を下した。
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