41話「ロアとの会話」

「アポロ、どうやら苦戦しているみたいですね」

「クロエが完全に目を閉じちゃってるからね……」

「あの二匹が仲良くなって、あの子達から出来た子孫は相当な子が生まれると思うんですよねー……。まずは、あの二匹にとって幸せであることが、前提にはなりますけども」

「見る限り、アポロも相当優秀そうだもんね」

「クロエちゃんと比べるとどうか分かりませんが、アポロの能力はかなり高いですね。先ほども言いましたが、ドラゴンの能力にかなり影響されますからね。竜騎士としての騎乗スキルなどよりも、ドラゴンの能力と騎乗者の武器の使い方で強さが決まっているような気がします」

「それはまだ皇国の竜騎士部隊が、設立したばかりだからってことになるの?」

「その可能性もありますし、結局このままの可能性もあります。私には騎乗スキルがあまりないと思っていますが、アポロが何でも対応してくれるので。そこにネフェニーから指導して頂いた技があるので、相当戦えるとは思っています」


 アポロが相当優秀で、ネフェニーの指導を受けた槍の腕前があれば、当然太刀打ちできる相手はほとんどいないことも、容易に想像出来る。


「そう言えば、私が竜騎士になるきっかけの話ってしてませんでしたね?」

「……言われてみれば、そうかもしれない」


 ロアとネフェニーの話、色々と過去に起きた内容の濃い話で、自分自身で「竜騎士になったきっかけ」を聞いていたことを、すっかり忘れてしまっていた。


「陛下から『気分転換ぐらいの気持ちで、ちょっと関わってみてくれないか?』と言われまして。おそらく竜騎士をすぐに前線に出すことは絶対にしないことと、ネフェニーとの微妙な状態のまま、同じ槍騎士部隊に居させることを心配していただいたのだと思っていますが」

「そうだろうね。意地でももう前線には出さないって言われたって言ってたし、今までの話を聞くと、陛下が色々と対応するのはすぐにイメージが付くね」

「はい。とは言いましても、話を頂いた際には失礼ながら気が全く進みませんでしたがね。ドラゴンが気難しい上に、野生だと人を襲うこともあることを知っていたので、そんな相手と接触することにはどうしても大きな抵抗が拭えませんでした」


 そんな話をしながら、ロアは必死にアピールを続けるアポロを見つめている。


「そんな気持ちの時に出会ったのが、アポロです。あの子と目が合った時に、恐怖心とか抵抗感とか必要ないって自然と思えるようになりまして。そこから竜騎士という役職をやってみようと前向きになれました」

「アポロ、凄くないか……?」


 ロアのドラゴンに対する負の感情を、目を合わせるだけで吹き飛ばした。

 そうだとするなら、クロエとくっつくことなど、容易なことのように感じてしまうのだが。


「相棒ながら、本当にすごいと思っています。キース様をエルクス王国から回収するために誰が行くかという話になった際に、移動能力が高い人が行くことが望ましいとなりました。その時にも、私の背中を押してくれたのがアポロですから」

「そっか……。あの時何気なく来てくれていたけど、あんな経験をした場所にまた足を運ぶって抵抗があるもんね」

「周りのみんなも、私が行くってことには心配していたのですが……。その時もアポロの堂々とした姿に、みんな納得したような形でしたから」

「アポロ……出来る男だな」


 ロアの話を聞けば聞く限り、視線の先に居るクロエに相手をしてもらえなくて落ち込んでいるアポロが想像以上にすごいことが分かってきた。

 堂々とした態度で相棒を引っ張る。雄のドラゴンとして、あまりにも格好良い。

 クロエにも、その態度で臨んでも良いと思うのだが……?


「うーん、どうなんでしょうか? 私と一緒にいる時はどこまでも堂々としているのに、クロエちゃんを前にすると、他の子の性格に入れ替わったのかと思うぐらい態度が変わってますからね」

「クロエに対しては、ずっとオロオロしてるもんね。その話とロアの話を合わせると、アポロってかなり感情豊かなんだね」

「まぁそう言うところも、とても可愛いのですが」


 そのロアの言葉には、キースも同感だった。

 これまでのクロエに対する態度は、ドラゴン特有の求愛行動も見なくても分かってしまうほどはっきりしている。

 それだけいい男である以上、絶対に幸せになって欲しいところだ。


「……」

「……」


 ロアの竜騎士になる経緯の話と、アポロの話が一通り終わるとお互いに無言になってしまった。

 ミーシャはグイグイと話を振ってくるし、ルナは魔法なり戦術なりの話になると相当前のめりになるので話が途切れない。

 ただ、ロアは落ち着いているので割とこうして話が途切れてしまう。


 ミサラからケアを頼まれていることもそうだが、そもそも自分の方から話の一つもろくにリードすることが出来ない。

 話の一つもまともにリード出来ないのに、ロアが勇気を持って近寄ってくれても情事に至るはずもなく、情けないとしか言いようが無い。

 くじけずにアピールをしているアポロの方が、何倍も男として出来ている。

 このままでは、何となく察して動いてくれたのではないかと思われるクロエにも、申し訳が無い。


(ただ、どう話を切り出せばいいのだろうか……?)


 話をするだけでもかなり苦しい内容なのに、今日だけでかなり話してもらった。

 ここから更にその内容を話させることは、かなり抵抗がある。

 今朝の結論もまだ保留である以上、ここで尋ねれば急かす様にもとられかねない。


「キース様」

「は、はい!」


 色々と頭の中で考えを巡らせていると、ロアが覗き込んできた。

 整った顔が至近距離に飛び込んできて、キースは驚きのあまり仰け反ってしまった。


「もしかして、私の気を遣って色々と考えてくださってましたか?」

「え、えっと……」

「何となく分かってきました。キース様は、私のことを考えてくれるときかなり顔に出ますね」

「そ、そんなに出てる?」

「出てますね。申し訳ありません、色々と考えさせてしまって」

「いやいや、そうじゃないんだよ! ただ……ロアに対してどうすればもっと力になることが出来るのかなって。今日だって、朝から結構思い出すと苦しい話をさせているのに、何にも力になれてないなって」


 変にごまかし続けることは、ロアに申し訳ないので素直に伝えてみることにした。


「そうですか? ネフェニーとの関係性修復の相談にも乗ってくれたじゃないですか」

「あれぐらいなら、他のみんなもしてたと思うし……」

「ということは、キース様は自分にしか出来ないようなことをしたいとお考えになられているのですね?」

「そういうことだね。せっかくこうして二人で居られる時間だし」

「なるほど。では、私の望むことを今からしてもいいですか?」

「うん、もちろん」


 そんな彼女の言葉にキースが頷くと、隣に座っていたロアが更に近づいてきてもたれ掛かってきた。


「二人で居られないと、こういうことなかなか出来ないのでっ……!」


 ロアがこうして近寄ってきてくれた。

 前回の失敗を反省し、もう少しこちらからも行動を起こす必要がある。

 ここにはドラゴンしかいないので、人目を気にする必要はない。


 そう考えたキースはもたれ掛かってきた彼女の肩に腕を回して、もう少し抱き寄せてみた。


「あっ……!」

「ご、ごめん! 嫌だったかな……?」

「い、いえ! ありがとうございます……」


 少しロアは驚いたようだが、どうやら選択肢は間違えていなかったようだ。





























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