40話「察した?」

「認めてくれたことは嬉しいんだけど、クロエがどんなことを思って受け入れてくれたのか、顔やしぐさを見ただけじゃよく分からないね」

「言葉をしゃべったり出来ないので、その辺はどうしようもないですね。でも、一緒に居たらだんだんとその子の性格や機嫌が良いか悪いかなど、分かってくるようになってきますよ!」


 ロアも最初は、アポロの気持ちを読み取ることに苦戦していたということか。

 これから一緒に過ごして色々と理解が進むのならそれに越したことはないが、クロエはアポロを含めて雄のドラゴンたちのアプローチを受けるモテドラゴン。

 その上、懐かせたいと考えている人からもアプローチを受けていて、色んな相手から自分を求められるという状況に慣れている。

 今後、クロエが満足してくれるような接し方が出来なかった場合、次の日にはどこかに去って二度と帰ってこないということもありそうな気がする。


 これまでの人生で、隣に居たいと言われたことはあまり無かった。

 その分、相手に愛想をつかされて離れていくといった経験もないので、そんなことが起きたらショックで再起不能になりそうなのだが。


「クロエにすぐに嫌われそうで、不安になってきた……」

「それは大丈夫だと思いますよ。一度こうして認めると、なかなかそう簡単に離れようとする子達ではないので。それに、関係性を構築出来てすぐにそれだけ頭を摺り寄せたりしていますし」

「そ、そうだといいんだけど。目つきも鋭いし、近寄る途中で威嚇っぽいこともしてたから」

「今までクロエちゃんを見る機会は何度もありましたが、普段はツンツンしている性格みたいですね。まぁ周りから色々と歩み寄られますから、そう言った雰囲気を出しているのかもしれませんね」

「な、なるほど……」


 体の大きさなどから出る圧倒的なオーラのせいで、威圧感というイメージが先行しすぎていた。

 ロアの話通り、その威圧感がクロエの性格から出るものだったとしたら……。

 言語が通じない相手ということ以外に、自分たちよりもはるかに体が大きくて力などの全てにおいて格上の存在だからこそ、こちらの捉え方が大きく間違えてしまうことがあるかもしれない。


「現時点でクロエちゃんがキース様に対して、見ている私が複雑な気分になるくらいには懐いてますから大丈夫です……」

「こ、この子はドラゴンだからね?」

「ドラゴンにもモテるんですね……。しかも、クロエちゃん女の子ですし」

「アポロも受け入れてくれたし、たまたまだと思うよ?」


 クロエの頭を撫でながら話を進めていると、ロアがどんどん闇落ちしてきそうになったので、アポロを引き合いに出して何とか話を丸めた。

 遠くで、アポロが大きなくしゃみをして体を震わせている。


 アポロよ、クロエと一緒に居られる時間を作ることを必ず約束する。だから、ここだけは許してくれ。


「ちなみに、クロエの餌とかどうしたらいいのかな?」

「ドラゴン達の餌を提供する方たちが居られますよ。クロエちゃんは基本的には、キース様のお屋敷のお庭でお過ごしになられますよね? でしたら、そこに餌を提供して頂けるようにお話をつけておきますが」

「そうしたいんだけど……。庭はこの飼育場よりも格段に狭くなるし、クロエが窮屈に感じるんじゃないかって思ったりもするけど……」

「ドラゴンは、一度相棒だと決めた人と長時間離れていることを極度に嫌がります。それに、クロエちゃんの大きさでもお屋敷のお庭なら、十分な広さだと思いますよ」

「そっか。なら、クロエはうちに居てもらおうかな?」


 クロエに向かってそう言うと、フンッと鼻息を鳴らした。

 どうやら、その決定に対して異論は全くないようだ。


「決まりのようですね。明日、餌を納品してくださる方たちがこちらに来られる予定ですので、話をつけておきますね。すぐにキース様のお屋敷に納品できるようにしますが、おそらく明後日からになると思いますので、その日まで分の餌をお持ち帰りいただければと思います」

「何から何までありがとう。ただでさえ、興味半分で手懐けに挑戦しちゃったのにその後のことまで」

「いえいえ! キース様のお力になれて嬉しいですし、難攻不落のクロエちゃんが懐くという瞬間をこの目で見ることが出来ましたからね」


 ミサラからロアのケアを任されているのに、ドラゴンの手懐けに興味を持ってしまい、そのまま彼女に餌の仕入れまで任せてしまった。

 アポロもクロエに接触したいだろうし、この子達がコミュニケーションを取っている間、ロアと少し落ち着いて話が出来るかもしれない。


「アポロも気になっているだろうし、せっかくだからクロエとちょっと一緒にしてみようか?」

「アポロは言うまでもなく喜ぶでしょうが、クロエちゃんはどうでしょうか? お気持ちはありがたいですが、この子が嫌がるようなら止めた方が良いかとも思います。これからもキース様と私がいるときは、接触できる機会があると思いますので」


 確かにロアの言う通りでもあるし、まるでロアと話す時間を作るためにクロエを使うような形にもなってしまっているので、クロエに申し訳なさも感じるが……。

 背中を押されるような感覚があり、振り向くとクロエがこちらに視線を投げかけてくる。

 そして目が合った後、クロエはゆっくりとアポロの方へと向かって行く。


「あ、あれ? クロエちゃん、アポロの方に向かってませんか!?」


 クロエがゆっくりと向かって来ることに気が付いたアポロは、明らかに戸惑ってオロオロしている。

 一方のクロエは、何も躊躇することなくアポロの隣にまで行くと、そこで顎を地面につけて休み始めた。

 戸惑っていたアポロも気を取り直して、何やらコミュニケーションを取り始めた。

 なお、クロエは目を閉じて全く反応はしていないが。


「じ、自分たちが言っていたことを、クロエは読み取っててアポロのところに行ったのかな?」

「ど、どうでしょうか……? ドラゴンは言語を話しませんが、意外と私たちの考えていることを鋭く読み取ったりすることがありますからね。でも見る限り、クロエちゃんは相手にはしてないみたいですし、分からないですね……」


 でも、先ほどの視線を合わせた瞬間に動き出したところを見ると、色々とクロエなりに読み取って動いたように見えた。

 そうだとしたら、クロエは知能も相当高いということになる。

 それと合わせて、関係性を築いたばかりのドラゴンにいきなり気を遣われたということになり、情けないとしか言いようが無くなるのだが。


 だが、クロエがアポロの元に行ったことで二人の回りには誰もいなくなった。


「アポロが頑張ってアピールしているみたいだし、ちょっと自分たちはここでもう少し話でもしない? ここに来るまでに少し話をしたとは言え、最近はあんまり話も出来てなかったわけだし」

「は、はい!」


 アポロとクロエの様子が分かる場所に、二人そろって腰を下ろすことにした。

 アポロがずっとクロエの気を引こうと、何から行動していることが遠目からも確認できる。

 ただ、クロエの方は全く微動だにしていないのだが。





























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