35話「今後の対応について」

「そのため、本日の午後から二国の国境に近い地方都市ツォールで、今回の交渉内容を記した書面にサインをしてもらうことになっておるぞ」

「ということは、貴族連中が来るのも割と近い話だと思った方が良いです?」

「そういうことだ。これまでの話なら、別にこうしてわざわざ席に着いてまでしなくても良い話だったかもしれん。問題はお主があの者たちを呼び出した際に、どうするかという話だ」


 先ほどまでとは違い、真剣な表情でミサラは話し始めた。


「どうするかとは? 言うまでもなく、私はあの憎いやつらが灸を据えられるところを見ないと気が済みません。他のみんなだって、そうに決まっているのでは?」

「ネフェニー、冷静になれ。奴らのせいで、ロアとミストは怖い思いをしておる。その恐ろしい目に遭わせてきたやつらの顔を見たいと言い切れるか?」

「……すいません。考えが至りませんでした」

「もちろん、ネフェニーのように考えている者もいれば、単純に見るにも値しないと思う者もいるだろう。相手を呼び出す以上、お主たちが普段の任務を行っている時間にやつらが来ることになると思う。だから、ここでどうするか決められるものは言ってもらえると助かる、ということだ」


 ミサラも、貴族へ一度痛い目に遭わせたいと考えを持ちながらも、ロアやミストのことを考えた結果、考える時間が必要だと感じたようだ。

 確かに、結果的に無事ではあったものの、恐怖を与えてきた当事者を目にするのはなかなかに酷な話でもある。


「私はもちろん、やつらをこの目で見ます」

「見るだけ……。いや、多少の暴言くらいは許す。だが、どんなことがあっても手を出すな。それだけは約束せよ」

「俺も参加します。万が一、ネフェニーが耐えられなくなったときは、俺が力づくでも止めますんで」

「それは助かる。お主はこのようなケースでは冷静だからな」

「私も参加したいですね。このような機会はありませんし、今後も何をするか分からない相手です。少しでもこの目で見て、情報として得られるものを探します」


 各々の理由は異なるものの、ネフェニー、レック、ルナは早々にその場に居合わせる意思を示した。


「キース、お主はこの作戦の狙いを的確に伝えられるのはお主だろう。もちろんだが、参加してくれるな?」

「無論、参加します」

「うむ」


 やはり、キースはエルクス王国に居た身として、参加する必要性がある。

 もちろん処刑されずに丁重に扱ってもらえていることを知らしめることや、キースとして貴族たちに要求したい狙いもあり、話をスムーズに進めるためには参加が不可欠。

 参加を拒否する理由もないので、ミサラの言葉に対してすぐに頷く。

 そのキースの反応を見た後、ミサラはロアとミストの方を見た。


「二人は迷うようであれば、ここですぐに結論を出せとは言わん。そのために、こうして早めにこの話を持ち出したわけだしな……。もちろん皆が参加するからと言って、参加しなければならないなどとは決して考えるでないぞ」

「「は、はい」」


 二人は少しの間考えた後、「結論を出すまでもう少し考えたい」ということだった。

 もちろんだが、この二人の言葉に頷かない者はいない。


「分かった。で、ミーシャは何も言っておらんが、どうするのだ?」

「んー、そうですねぇ……。キースを追放したやつらに、キースがすごく幸せだってことを見せつけるためにも、いちゃつく役割でもしようかな?」

「……お主と考えていることが似ているとは、ちょっと複雑じゃのー。というか、お主はどんな状況であれば、キースとくっつきたいだけなのでは?」

「……バレました? っていうか、陛下も同じこと考えていたんですか!?」

「まぁ、キースの頭でも撫でながら貴族を見下したら面白いとは思ったからな……」

「それ、いいじゃないですか! 相手はキースのことを処刑したって思ってるんですよね? どんな反応するか見たいんですけど」

「まぁ、どうするかは適当に決めるとしよう。今のところの皆の意見が把握できた。協力に感謝するぞ。では、本日もそれぞれの任務に向かってくれ」


 毎日それぞれ、兵士たちの指導や個人的な仕事など任務がある。

 各地方の訓練施設に顔を出さないといけない者もいるので、ミサラは話すべきことと聞き取るべきことが終わると、さっと話し合いを終了する。


「ルナ、少し良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「もし時間に余裕があり、陛下から許可が出るようであれば、本日の二国の重要人物との面会に参加されてはいかがでしょうか?」


 賠償の時もそうだったが、交渉関係でも書面での話し合いが基本線のようで、こうしたちゃんと締結するためのサインをする時ぐらいしか、あんまり面談が無い可能性がある。

 そう考えると、他国の重要人物を見られるこの機会は逃さないようにした方が良いとキースは考えた。


「そうですね! 早速、昨日の言っていたことをここでも実行していくチャンス、ということですね!」

「なんじゃ? 我から何か許可が必要なことでもあるのか?」

「陛下、今日の二国との面談に、私も陛下とともに参加したいのですが」

「ほう……? 何かキースに吹き込まれたという顔をしとるな。いいぞ、実際の目で感じる方が得られるものが多いだろうしな」

「ありがとうございますっ!」

「良かったですね」

「はいっ! 色々とこの目で見て、しっかりと考えてきます!」


 ルナは笑顔で、嬉しそうに頷いている。


「え、本当にルナの懐き方がすごい。尻尾あったら、凄く振ってるだろうなって容易に想像出来るレベルなんだけど!」

「やはりお主たちから見ても、そう思うよな。我も最初びっくりしてしまったよ」


 キースに対するルナの反応を見て、ミサラだけでなくネフェニーやミーシャまでかなり驚いている。


「そう言えば、キースの屋敷には巨大な書庫も作ってある。興味があるなら、一度屋敷に入れてもらうといいぞ?」


 ミサラは、いつものちょっといやらしい笑みをキースに向けながら、先ほどのキースと同じような提案をした。


「はい! 先ほど、ここに来る前にキース殿にその書庫案内に誘っていただきました! なので、近いうちに拝見する予定でいます!」

「……ほほう、そうなのかぁ」


 更にすごく嫌な笑いを浮かべている。

 これまでは、皇帝が屋敷で二人だけにする状況にしたり、お酒に酔ってどうしようもなくて回収したとか、やむを得ない雰囲気が出ていた。

 でも、今回は自発的に女性を誘っているわけである。


「……お主、抜かりが無いな?」

「いえ、陛下が今考えているようなことではおそらくないかと……」

「そのお主の言い分は聞き飽きた。面白くないから、とっとと外出の準備をするから、ルナ以外はそれぞれの仕事に向かえー」


 いつもよりも何も言えないまま、ミサラの言葉に少しずつメンバーたちがそれぞれの仕事場へと向かって行った。
















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