34話「交渉成立」

 ルナとミーシャ、ミサラとキースがそれぞれ話をしていると、他のメンバーたちも集まってきた。


「ふむ、久々に全員がちゃんと集まったか。本当に久しぶりのような気がするが」


 ミサラが集まったメンバーを見ながら、そんなことを呟いた。

 確かに、キースが来てからこの朝の集まりでメンバーが全て集まったことが今までなかった。


「昨日もレックが寝坊しなければ、二日連続でみんな揃ってたのになぁ?」

「ですね」

「す、すんませんでした……」


 ネフェニーとルナが、さらっと昨日レックが遅刻したことを責めている。

 ルナに言われるのならともかく、ネフェニーも寝坊していたことがあったと思うのだが、レックは何も言えないようだ。


「まぁそう責めてやるな。ちゃんとやることをやっているようだし、別に構わん。さて、進行中の作戦についての話をしようと思う。全員集まっておるしな。皆の者、隣の大ホールにあるテーブルに着いてくれるか?」


 いつも集まっている場所の隣に大ホールには、この国に来てすぐにキースがミサラと食事をとった時に着いた大きなテーブルがある。

 こういう時、何気にみんなのポジションが決まっていたりすることがあるので、みんなの席に着く状況を確認した方が良いかもしれない。


「キース殿、どこに座られますか?」

「えっと、皆さんがいつも座っているポジションとかあると思うので、空いている席に着こうとは思っているのですが」

「席は特に決まっとらん。そんなお気に入りポジションが決まるほど、こうしてテーブルに着いて話し合うこともないしな」

「何なら、賠償でキース様を取るって話をするとき以来ですよね?」

「そういうことになるな。だから皆の席に着く様子を確認しなくても、適当に空いている席に着けば良い」

「では、ここに座りましょうかね……?」


 ミサラにそう言われたので、キースは空いている席にとりあえず着くことにした。


「では、キース殿の左隣は私が頂きますね」

「じゃあ、キースの右隣は私がもらうー!」

「あ、ミーシャずるいです! 私がキース様の隣をもらおうと思っていたのに!」

「私もキース様の隣になってみたかったなー……」


 キースが席に着いた途端、その席の隣に女性陣がなだれ込んできた。

 レックとネフェニーは先に席について、その争奪戦を頬杖をついて見ている。


「止めんか! そもそもルナ以外は、戦術に対してそんなに理解出来ないというのに、横に行ったところで意味が無かろう! むしろ、無能さがバレると振り向いてくれないまであるぞ?」

「「……」」


 席の争奪戦をしていたミーシャやロア、ミストがすぐにおとなしくなった。

 ミーシャはともかく、この二人も戦術を理解することには自信が全くないらしい。


「ロア、キースの隣に座る?」

「い、いえ。やっぱりいいです! 今日はキース様を独占できる日ですから、この後いくらでも隣に居られますし……」

「じゃ、じゃあミストが隣に座るのはどうかな!? 何気にキースの横、まだそんなに入れてないだろうし」

「えっと、じゃあそうしようかな……?」


 熱い譲り合いの結果、ミストが隣の席に着いた。

 キースの隣に着いたルナとミストは、かなり席を近づけた。


「へぇ、ルナがもうキースに懐いているのか。ちょっと妬いてしまうねぇ」

「初めて出来た男性のお友達、なのですよ!」

「随分と悪いそうな男友達じゃが、果たして大丈夫なのかのぉ」

「どういうことでしょう?」


 ミサラの言ったことが分からず、ルナは首を傾げた。

 ミサラはただ笑うだけで、ルナの疑問へ答えることはないのだが。


「さて。早速、話を進めていくとしよう。キースが来てから話が脱線することが格段に増えてしまったからのー」

「じ、自分の責任ですか?」

「もちろんそうだぞ? 責任の取り方は任せる」


 何故かしれっと自分のせいにされてしまったのだが。

 責任の取り方とか言って、自分と女性陣交互に目配せするのやめてください。


「さて、進行中の作戦についてだ。結局のところ、レックはこの話についてはちゃんと理解できているのか?」

「えっと、その……。全然、分かってないっすね」

「やはりそうか。なら、説明しよう。今回の作戦は、キースが考えてくれたものである。発端は、我やネフェニーがエルクス王国の連中に、こちらに来させて辱かしめたり出来ぬかと話していたことである。ただ、民衆の目もある。なかなか非道なことは出来ぬという話だったのだが、そこでキースが作戦を考えてくれたというわけだ」

「どんな作戦でしょうか?」

「エルクス王国は今、ペルガヤ連邦やトバード公国からの戦争賠償に混乱しておる。だからこそ、その二国が課している賠償をこちら側で交渉する、というものである」

「……なぜ、あの国が課されている賠償について、こちらで交渉するという話になるのでしょうか?」

「やっぱり分からんか……」

「ダメですか……」

「そ、そんなに察しが悪いですか!?」


 そのレックの反応に、ミサラとルナが同時にため息をついた。

 その二人の反応を見て、ちょっとレックが焦っている。


「いや、お主の頭がやはりここのポンコツ集団とさして変わらんなと思ってしまってな……。あの二国がエルクス王国に課した賠償を、こちらで極秘にまとめてしまうことで、更にこちらがエルクス王国に対する動きをコントロールすることが出来るのだよ」

「……えっと???」

「昨日、あの二国にこちら側から、戦争援護に回ってくれた礼として、資金提供することを決定した。その代わり、エルクス王国が賠償金を払えないことを理由に、領土奪取などの行為を行わぬように交渉した」

「それに合わせて、陛下からエルクス王国側に書面で『とある条件を吞めば、あの二国の賠償を無しにしてやることも出来る』との旨を送り、こちらに来させるというものです」

「なるほど、それで奴らは此方に来ざるを得ない、ということでしょうか!?」

「そういうことになる。そして、この作戦でのポイントが言うまでもないが我が二国に対してどのように交渉するかであったが……」

「確かに、あの二国も賠償によって利益を得たいはず。なかなか難しそうに思いましたが……」

「その辺りも、キースの予想が当たってすんなりとうまくいった。まずは、二国とも我が国を敵に回したくないこと。戦争に参加したとはいえ、我が国に物資補給などをしただけで直接エルクス王国と戦っておらず、損失がほとんどない事。要求している賠償額は多額のようだが、貰えないことは想定済み。少しでも何かを奪って損失無しで利益を得たいということや、非道な相手と戦うという姿勢を見せて国内の求心力を集めること、あるいは我が国に恩を売りたいなどといった思惑が強いようだ」

「な、なるほど! なので、皇国側からお礼の資金などが入れば、あの二国からすれば皇国に恩も売りつつ、利益も得られて万々歳ってことですか?」

「そういうことだ」

「ま、待って! こうして話を聞いてて思ったけどさ、あの二国って『お金よりも領土が欲しい!』ってならないの?」

「ならないな。国境線付近は、険しい自然があったりして、それなりに防衛しやすいラインが出来ている。そこを無理してその先にある領土を奪っても、ライン維持が困難になる。ましてや相手はあの何をするか分からん貴族達だぞ? しばらくして、急に奪還しに来る、なんてことも予想できる。将来の損失分を獲得するようなものだ。なら、資金をもらって戦いたくない相手と友好関係をまとめる方が良いだろう?」

「た、確かに!」


 それなりに話を聞いていたが、まだよく分かっていなかったミーシャも大分この作戦について理解が進んできているらしい。


「ですが、陛下。うちの国で金を払ってまでやつらを呼び出したいですか? 割に合わなさすぎると言いますか……」

「確かに、辱めるだけにこの作戦は無駄すぎる。だが、それだけの資金を払っても良いと思えることが、この作戦の狙いにはあるのだよ」

「それが、キース殿の望んでいる事でもありますしね」

「そ、そうなのか?」

「はい。どうしても、気になっていることがあって。この作戦を通して、その悩みも払拭出来ると思ったから」

「そのキースが気にかけていることに対して、我は大金を支払う意味があると感じているのだよ。そして、昨日のうちにすんなりとこちらが提示した額で交渉がまとまった。エルクス王国はまだまだ慌てとるだろうがな」

「話、無事まとまったのですね。交渉もすんなりでしたね」

「あの二国が出した援助内容から、どれくらいの支出になったか算出してちょいとその額にプラスしてやったらすぐだったぞ」


 ミサラは指をすり合わせて、ちょっと悪そうな顔で微笑みながらそう話した。






























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