31話「今後の課題点」
「このお話から、今の私には戦う相手のことを知るということがあまり出来ていないように感じますね……。どうでしょうか?」
「そうですね。自分も、ルナにはその要素が備われば、誰にでも勝てるようになるかと思います」
ルナは今の話だけから、今後の課題点が早速見つかったようだ。
キースから見ても、彼女が更に策略家として大きくなるための要素として、必要なのはそこだと思っている。
とは言っても、この課題点は一段と若いルナには、これまでの間にどうにかできるような問題ではなかったと思う。
ルナぐらいの年で周りより優れていたら、「自分の力でどうにかなる」と考えてしまうのが普通。
何なら、いい年になっても自分の才能を鼻にかけているやつだって少なくない。
そんな中で、この年で「相手を知る」ということの重要さを知ることが出来たため、早くも次の伸びしろに必要なものを見つけたということになる。
的確に自己分析するということはかなり難しいのだが、あっという間に気が付いてしまう辺り、相当な分析力だと感じる。
「ですが、他国をより知るためには一体どうすればよいのでしょうか……?」
「そういう時は、遠慮なく陛下に色々と尋ねてみては? 一年前から陛下に抜擢されたのであれば、まだまだエルクス王国以外の他国のことも知らないことが多いでしょうし」
「そ、そうなんですよね……。一応、書類などで国としての特色などは調べたのですが……」
「もちろんそれも大事ですが、現時点で他国がどういう情勢でどんな人物を抱えているか、ということを知ることが大事ですね。情報は新しければ新しいほど、参考にしやすくて良いですから」
「確かにそうですね」
「そう言った情報を、一番得ることの出来る立場が陛下です。日々、他国との交流もされていることでしょう。そして何よりも、人の能力を的確に見抜く能力がずば抜けています。いい情報を教えていただけるのでは、と思います」
あれだけ優れた力を発揮する皇帝なら、外交から他国に関する情勢をしっかりと把握しているはず。
その上で、ルナから気になることがあるとなれば、無理のない範囲で確認・調査ぐらいは絶対にやるだろう。
「た、ただでさえ忙しい陛下に、そこまでのご心労をおかけしてもいいのでしょうか……?」
「大丈夫だと思いますよ。ルナがこれまで以上にレベルアップしていくということは、陛下にとっても喜ばしいことでしょうし。それに、エルクス王国のことなら、自分に聞いてくれてもいいですし」
「あ、ありがとうございます!」
「と言ってもまぁ、有意義な情報になるとは思えませんがね……」
どうせ貴族たちが好き勝手やってきたことへ対する愚痴みたいになってしまうので、話すだけ無駄かもしれない。
貴族たちの無茶苦茶な戦い方に対しては、ルナが考える堅実な戦い方が一番損失を与えられるわけだし。
「それでも良いですよ? キース殿が、そんな状況でどうやってカバーしていたかを聞くことが出来そうです。あなたを知ることも、今の私にとっては絶対条件になってしまったようなので」
「えっと……。自分たち、もう戦ったりしないですよね?」
「ええ、もちろん。これからは協力する仲間です。ですけど、私の好奇心があなたを知らないままでは、気が済まないようなので」
これまでとは違うちょっと柔らかい笑顔に、思わずドキッとしてしまった。
可愛らしい様子だが、ルナの性格で「絶対」とか「気が済まない」という言葉を使うということは、なかなかしっかりとマークされる可能性が高くなったかもしれない。
「ほ、ほどほどにお願いしますね?」
「もちろん他の方とのお付き合いもあると思いますので、その点については配慮させていただきます。ですが、あんまり相手してくれなくなりますと、陛下に泣きつくことを考えましょうかね?」
「それはとても良くないと思います……」
ミーシャならまだ痴情の縺れとかで、ため息レベルで済まされるかもしれない。
だが、ルナが悲しませてしまったなんてことを聞いたら……。
無かったはずの処刑という処分が、急遽下される可能性が出てくる。
……今までの人生の中で、一番恐ろしい脅しを受けたかもしれない。
しかもその相手が、自分に脅しをかけてきた相手としては最年少で可愛らしい少女だとは。
「ふふ、この勝負は私が勝ちましたかね?」
「間違いなくルナの勝ちですね。今度も自分との勝負に勝ちたかったら、陛下を出せばルナの勝利は確実になるかと……」
「そうですよね。私もそう思ったので、敢えて言ってみました。先ほど話した陛下の処分の話を、かなり気にされている様子でしたので!」
「す、既に相手をよく知ろうとすることが出来ているようですね……」
「褒めていただき、ありがとうございます」
「ルナに勝てなくなるもの、そう近くないかもしれませんね」
「そうなると良いですね?」
ただ勝てなくなるだけならいいのだが、果たしてそれだけで終わるのか。
このまま行くと、ルナに完全にコントロールされることになるような気がしてきた。
「さて、次は何を話しましょうかね。キース殿には、私の指導で風の上位魔法を使えるようになっていただきたいので、魔法の話をしましょうか?」
「こ、ここからはルナの専門領域ですね」
「いいですか? もし、途中で寝たりなんかでもしたら、明日陛下の前で泣きます。分かりましたか?」
「そ、そんなことするわけないじゃないですか?」
「いいでしょう。話は長くなりますけど、ミーシャやレックと夜遅くまでお酒を飲まれていたみたいですし、まだまだ一緒に居てももちろん大丈夫ですよね?」
「は、はい!」
小さなルナ専用の部屋の中で、二人の話はまだまだ続いていく。
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