27話「違う視点を持つ者」

「すみません、お待たせしました」

「では、早速行きましょう」


 外で待ってくれていたルナの元に、急いで合流した。

 待たされたことについて特に何も言うことなく、彼女は歩き始めた。


 ミーシャやレックとはそれなりに最初から話す機会が多かったが、ルナとは最初に挨拶をして以来、個人的にしっかりと話は出来ていない。

 もちろん、進行中の作戦についてミサラを交えて話をすることこそあったが。

 それに、あの中で最年少の立場でありながら喜怒哀楽がほとんど分からない。

 冷静に作戦を考える身とすれば、これ以上ないほど適正ではあるのかもしれないが……。


「キース殿は、どれくらい魔法を扱えるのですか?」

「中級の風と闇魔法が使える、と言ったところですね」

「闇魔法が使えるとは、なかなかに珍しい方ですね」

「確かにそうかもしれませんね。使い方が難しい割に、わざわざ使うメリットが無いような立場ですしね」

「なぜ習得することになったのか、きっかけとかあるのですか?」

「理由ですか? 呆れるような理由ですよ。貴族たちに『使えるようになれ!』と言われたからです」

「……意味が分かりませんね」


 ルナがそう言うのは分かりきっていた。

 なぜなら、キース自身も未だにそう思っているからだ。

 魔法の取得をしていた頃、貴族たちがやってきて「闇魔法を使えるものは少ないという話ではないか。お主がこの立場でいる以上、そう言った希少性は極めて重要である。とっとと習得しろ!」などと言われた。

 曲芸師か何かと勘違いしているようだが、こういう見かけの問題には必死になるのが、貴族たちの特徴だった。

 教えてもらえる人はおらず、何日も書庫に籠って古い魔導書を研究し続けて、やっと習得したという経緯がある。

 なお習得して以来、闇魔法が有効活用されたことは未だに無い。


「ルナは、どれくらい魔法が扱えるのですか?」

「炎、水、風、雷、光の上級魔法は操れます。最近では、陛下に許可を頂いて国庫に納められている魔導書から、雷の最上級魔法を習得しました」


 流石、魔導士のトップと言ったところだ。

 二つ以上の属性魔法を操ることが出来れば、魔導士の適性があるとされている。

 三つ以上操るのは、相当な実力が必要とされている。

 そんな中で、五つも操ることが出来るというのは異次元レベルである。

 それもすべて上級魔法ということで、まさに魔法を操るために生まれてきたと言っても過言ではないだろう。


「流石に自分が敵うような立場ではありませんでしたね」

「魔法は私の専門なので、ここは負けるわけにはいきませんね。剣技に関してはからっきしなので」

「どちらも中途半端とも言えてしまいますがね……」


 それなりに剣技に関しては腕を磨いてきたつもりだが、果たしてミストと腕比べをしてどれくらい通用するのか。

 それなりにミストと差があるのなら、器用貧乏という言葉がぴったりとあてはまってしまう。


「もし仮にそうだとしても、戦術の組み立ては見事なものです。今回の作戦も、非常に良いものです。悔しいですが、私には思いつきませんでした」

「それは自分がエルクス王国に居て、この国のことを外側から見ることが出来たということと、陛下が交渉中の二国をあちらに居る時に、戦う上で情勢を探ったからです。その情報があれば、ルナだって同じ考えをしたはずです」

「外側から……ですか。大国をまとめる優秀な我が陛下、そしてそれぞれの力や技に秀でた者たち。たくさんの兵士たちや民が居ることは分かっています。しかし、自国の事を客観的に判断するということは、とても難しいものですね」

「それは自分も同じですよ。ここに来て、陛下の話やミーシャとレックの兵士を養成する上での話を聞くと、知らないことばかりですし。訓練や武器の質なども、差がついてしまっているとは分かっていました。しかし、ここまで大きい差であるとは全く分かっていませんでしたからね」


 そもそも、こうして生まれた国と違う国にやってきて大きな作戦を考えるということ自体、普通ではありえない事。

 基本的には自分がずっと住んでいる国の内情を、自分の中で出来る限り客観的な判断を下して策を練るしかない。

 そんな中で、キースはその枠組みから外れた立場なので、判断に使える要素がルナよりも圧倒的に多い。

 当然、それなりの作戦が提示出来ないと、無能であると言っているようなものだ。


「そう考えると、キース殿が来てくれて本当に心強いです。……陛下には信頼されていますが、自分の考えた策で失敗する可能性が頭によぎることがあるので」


 確かに、この年で戦略を任されているということは、異常と言っていいだろう。

 もちろん、ルナはとんでもなく優秀だが、背負っているプレッシャーは相当なものであるに違いない。

 キース自身も、ルナ同様に立てた作戦が無事に成功するかどうか不安になることは、毎回のようにある。


「ルナは、いつごろから陛下にこの立場を任されるようになったのですか?」

「エルクス王国との戦いが始まって少ししてからですかね。もともとこの立場に居た方が、高齢で病によって体調を崩されてしまいました。その時に、陛下から直々に声をかけていただきました。最初は何かの間違いとしか思いませんでしたがね」

「確かに、もっと年上の方で経験値のある人を選ぶと思いますものね」

「私もそう思ったのですけれども、陛下は『私以上の者はいない! どうか頼む!』と言いきられてしまいまして……」


 聞いている限り、ミーシャの時と同じような引き抜き方のようだ。

 あの皇帝の目から見て、その時点でルナの実力を見抜いていたということか。


「選ばれる前から、それなりに考える戦略や知識に自信は持っていました。ですけど、私の影響を受ける規模が大きくなりすぎて、やっぱり不安になると言いますか……。この気持ち、分かってくれますか?」

「凄く分かります。この国の人たちの命がかかってますものね」

「なので、これからは何か策を考えるときは、一緒に考えてくれると嬉しいです。あなたの考えも聞いて出した案なら、より自信が持てるような気がします」

「もちろん、出来ることは最大限させていただきます」

「ありがとうございます! あ、でも不安に感じることがあるって話は、くれぐれも誰にも言わないでくださいね。陛下や特にミーシャが心配してしまうので」


 ルナはちょっと慌てたようにして、誰にも言わないようにと頼んできた。

 もちろん他言するつもりは無いので、頷いた。


(……ルナが言わなくても、あれだけ色んなことを見抜ける陛下なら、とうに気が付いている可能性もありそうだが)


 このことも考えて、自分の事を引き入れたのだろうか。

 だとするなら、最初に言っていた「のんびりと民として暮らす」選択肢は、もともと存在していないのでは、と思い始めた。

 ミーシャとレックの案内や話から刺激を受けて、何かすることへ前向きになっているところで、魔法剣士養成の話も飛んできた。


(たまたま……だよな?)


 ミサラが何でも見抜くことは、周りの話と己の身をもって実感している。

 もしかすると、ここまで考えて賠償として引き抜いたのだろうか。


 だとすれば、今の想像を遥かに超えるとんでもない人ということになる。

 ただ、少しセクハラが多いような気はするが。


























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