22話「幸せになりたいらしい」
「早速だが、キースなりに思いついたことを聞かせてもらえるか?」
「うん。今日やっていた訓練なんだけど、兵士たちは弓兵や魔導士と言った距離を取って攻撃できる相手がいる想定で行う攻勢・防衛の動きに苦戦しているって感じだったよね?」
「そうだな。剣士とか接近して攻撃してくる相手は受け止めやすいからな。だが、それなりの距離から攻撃できる相手だと、急に気を付けないといけない要素と範囲が広がるからな。特に砦みたいな建物だと、高低差とか物陰からの攻撃に対するケアがなかなか出来てないな」
訓練中で、レックが兵士たちへの指導で熱が入っていたのは、相手に弓兵や魔導士がいた場合である。
剣士や竜騎士と言った相手は武器が届くところまで接近して攻撃するため、兵士たちはそれなりに自分や庇っている味方を守るイメージが出来ている。
つまり、離れている位置から攻撃できる相手に対する対応力が課題、といったところである。
「だからさ、弓兵達に協力してもらうのがいいのかなって思うんだ」
「協力してもらう?」
「矢じりの部分さえ外しておけば、訓練中の怪我の危険性が無くなる。矢をどの位置から当てられるとか口頭で言われても、イメージが湧かないことだってあると思う。実際に兵士たちが配置した状況で弓兵達に狙ってもらって、どんな角度や距離から当てられてしまうのかよく分かると思う」
「なるほどな……。聞かせるよりも実際にあいつらの目で確認してもらうのが一番ってことか」
「ああいうシミュレーションは自分の頭の中でイメージ化出来ないと、応用力が効かない。イメージするにはやっぱり視覚からの情報は必須だと思う」
人から人へ、言葉だけで伝えるのには限界があるとキースは思っている。
どうしてもどう説明したらよいか分からない内容も、あれだけ複雑な訓練をしていれば出てくると思われる。
ならば、実際の目で結果を体験して確認することが、あの訓練を一番効果的な物にすることが出来るとキースは考えた。
「そうだよなぁ……。あっちにはあっちの都合があると思うが、とりあえず弓兵に協力を依頼してみるか?」
「それがいいかもしれない。昨日見る限り、弓兵達も高低差のある所からは対象を狙う練習はしてなかった。弓兵達にもいい練習になると思う。矢の融通とかもあるから、ミーシャに頼めば普通に協力してくれそうじゃない?」
「……あいつに頼んでみるかぁ」
弓兵に頼みごとをするとなると、必然とミーシャにそのことを伝えることになる。
キースから頼んでも良いのだが、こう言った話は責任者である二人の中で話し合った方が良いだろう。
……真面目な内容の話の時は、喧嘩もしないだろうし。
「それに弓兵たちが協力してくれたら、普通に矢の攻撃を的確に盾ではじき返す練習とかも出来るでしょ。訓練の幅も広がるよ」
「確かに。攻撃を受け止める訓練って、出来そうで意外と難しいんだよな」
「魔法攻撃に関しては、訓練で対策を出来るような内容はちょっと思いつかなかったかな……。また明日以降、ルナと色々とみて何かあれば、提案したいところだけど」
「いや、さっきの意見だけでも十分価値がある。ありがたい」
色々と議論をしていると、マスターが静かにそれぞれ二人の前に注文したお酒を置いた。
「乾杯するか。今日はいろいろとありがとうな」
「いやいや、それはこちらのセリフだよ。あんまり関わることの出来なかったことへの理解が少しは出来たと思う。ありがとう」
軽くお互いに酒の入った容器を当ててから、酒を口に運ぶ。
昨日も飲んだものを同じだが、やはり飲みやすくておいしい。
「くぅ~~! 一緒に飲む相手が対等な立場の男ってだけで、こんなに気兼ねなく飲めるとは!」
「ネフェニーと一緒の時は、気兼ねなく飲めないの?」
「気兼ねなくというか、そもそも話聞いてくれないからな……。飲むペース合わせないといけないし。で、男ってなると部下しかいねぇし。そいつらも結婚してそそくさと帰るようになっちまったからなぁ」
対等な立場であるのは女性陣のみ、それもネフェニー以外にはレックの方が気を遣うことになるだろう。
そうなると、気兼ねなく飲んで話が出来る相手がいなくなる。
そんな中で、キースというレック的に欲しがっていた存在が出来て、上機嫌で酒を飲んでいる。
そして話は、酔いが回り始めて最初の真面目な話から個人的な話へと移っていく。
「なんで俺って結婚出来ないんだろ」
「そ、そんなにまだ焦る年齢じゃなくない?」
ぽつりとレックがそんなことを言った。
年は聞いていないので分からないが、かなり若そうに見える。
だが、昼間の時にも気にしていたので、相当レックの悩みのタネになっているようだ。
「そうなんだけどよ、周りがああして結婚していくとな……」
「す、すぐ結婚することが良いことだけとは限らないじゃん?」
恋愛経験0の男、結婚観について慌てて語る。
「ミーシャにはフラれるしよ……」
「レックの立場なら、好意を持ってくれる女性がたくさんいるでしょ?」
「そうなんだけど、なぜか俺と付き合った女って高確率で浮気するんだよな。ミーシャだけでじゃなく」
「……」
ミーシャが遊ぶタイプだから浮気をしたとかって思っていたが、これまで付き合ってきた女性にも浮気されていたらしい。
どう言葉を返していいか、全く分からない。
「なんか昼間も聞いたような気がしないわけでもないが、何でだと思う?」
「いや~……。ちゃんと女性とお付き合いしたことのない自分には、ちょっとよく分からないね」
「……お前にも分からないことってあるんだな。ルナにも『そんなの知らないです』って一蹴されたし。お前らの頭で分からない恋愛って、何なんだろ」
まさかのルナにも、このことについては相談していたらしい。
ルナからすれば、「何を聞いているのだろう」と思ったことに違いない。
というか、酒を気兼ねなく飲める相手が居ない=こういった私的な話を出来る相手もいないということなのかもしれない。
ミサラにこんな話は出来ないし、ロアやミストにはもちろん言いにくい。
ミーシャとは元カノで、ネフェニーは答えるということをしなさそう。
結局選択肢が無くて、ルナに行ったということかもしれない。
部下にこういう話したら、委縮するというか……気を遣わせるだけになる。
「うう!! 幸せになりて~~!!!!」
更に酔いが回ると、遂に大きな声を上げて嘆き始めてしまった。
「大丈夫です。ミーシャ様から別れて以降、酔ってしまうとこうなってしまうので」
「そ、そうなんですか……」
「ちなみにミーシャ様の時だけではなく、別れた後はいつもこうなります。まぁいつかは立ち直ると思いますので」
特に驚く様子もなく、店主はグラスを磨きながら淡々とキースに話をしてくれた。
なお、レックは大きな声を上げた後、突っ伏して眠ってしまった。
「すいません。先ほどは気を遣っていただき、ありがとうございました」
「いえいえ。ここは男女で飲みに来る人たちは少なくないですので、こういったことはたまにありますからね」
「なかなか恋愛というものは、難しいのですね」
「おや、ミーシャ様と仲良くされていましたではありませんか」
「隣の彼のこともありますし、会っていきなり色々と……とはならないと言いますか」
「なるほど。苦労されている分、誠実なのですね」
「そう言っていただけると、ありがたいです」
酔って眠ってしまったレックの横で、しばらく店主との雑談を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます