20話「男一人だけの難しさ」

「よし、これで全部つけ終わったぞ」

「……」


 更にすべてのパーツを着けてみると、もう体が金縛りになったかのように全く動かない。

 小手の重さだけで、腕を思いっきり下へ引っ張られているように感じてしまう。

 さらに、兜を着けると頭が重すぎて首が無くなりそうだ。


「レック、もう無理……!」

「はいはい、じゃあ外していくからな」

「とにかく早く! 体が潰れる!!」


 重すぎて苦しくなってきたので、レックに急いで外してもらうように要求した。

 好奇心で着けてみることにしたが、かなり後悔してしまった。


「もともと鎧騎士になるタイプの体つきじゃないってことは分かってたけど、キースって思ったより筋力ねぇなぁ。一応剣士なんだろ?」

「そ、そうなんだけど、流石に自分でも貧弱すぎて情けなさを今凄く感じてる」

「まぁ、ミストの実力を見ているから剣技は力じゃないことは分かってるんだけど、男ならもっと力付けようぜ。見る限り、ネフェニーより力ないぜ?」

「間違いなくネフェニーより力ないだろうね……。何ならルナ以外の女性陣より、筋力あるか不安になってきた」


 小柄で魔法を使うことに特化しているルナにはさすがに負けないと思うが、その他の女性陣はそれぞれ武器を使ったり、ロアは騎乗するために必要な力もあるはず。

 それに男である以上、力強さというものはあって悪い事ではない。

 さきほど貴族を見返すための作戦と立案してみんなが納得してくれたとはいえ、偉そうに話す男が貧弱なのは正直ださく感じる。

 ロアやミーシャに言い寄られて困惑する部分もあるが、こういうところで興ざめされると、それはそれで間違いなく悲しくなる。

 そうならないためにも、こう言ったトレーニングをすることを考えないといけないかもしれない。


「ここならいつでもトレーニングが出来るぞ?」

「た、確かにそうなんだけど……」


 もちろん、兵士たちが筋力をつけるためのトレーニングをやっているが、器具の大きさなどがキースの想定しているレベルの大きさではない。

 いきなりここでトレーニングをすると、事故が起きてレックを始めとした鎧騎士の皆さんを困らせる可能性しかない。

 ただでさえ、こう言った厳しいトレーニングを続けないといけない上に、戦闘状態になると一番危険な前線に立って他職業の仲間を守らねばならない。

 鎧騎士という職はとても大変なものとキースは、改めて痛感した。


「改めて鎧騎士って立場は、とても大変だね……」

「それが分かってくれただけでもありがてぇよ。皆、俺たちの立場のことを分かってくれていないとは思っていない。でも、ああして周りが女性陣ばかりだ。男の俺からこういう大変なところとか、どうしても言いにくいしな」


 レックがキースと会って最初に女性率が高いことについて話していたが、こう言ったところで少し不自由さを感じているようだ。

 ルナとミーシャ、ロアとミストとよく話している組み合わせを始めとして、女性同士ならお互いに悩んでいることなど、話しやすそうではある。

 そう言う面では、レックは落ち着いて話せる相手がいなかったということか。


「ネフェニーなら、割と気にせずに話聞いてくれそうじゃない?」

「あいつはダメだ。そう言う話すると『飲みながら聞くから付き合え』っていいようにおびき出されて、飲み始めたら大して聞いてくれないしよ」

「な、なるほどね……」


 確かに先ほどのやり取りから感じたネフェニーの雰囲気から、そのような光景が容易に想像できる。

 というか、ネガティブなことや複雑な悩みを持つということをしないタイプのようにも感じる。


「まぁその分、良いこともあるけどな! 給料も良いし、重い鎧を着て自由に動けるためにこうしてトレーニングを積むから、筋力や体力も付くしな。兵士たちはすごく女性からモテるって言ってるしな」

「まぁそれだけ厳しいことをしているからね。魅力的に見えると思う」


 確かにお金も稼げて、男性としてのたくましさが際立っているなら、女性からはとてもモテるのだろう。


「そして兵士たちは、出会った女性とどんどん結婚して行っている。俺はいつまでたっても成就しない。何故だ……」

「兵士たちがモテるなら、レックだってモテるでしょ。ほら、人との関係ってなかなか難しいし、運命の出会いっていつ来るか分からないし?」


 ひとまずそれっぽいことを言っておいた。

 だがここで分かってしまったことは、レックは本気でちゃんとしたパートナーを探そうとしているということである。

 まだまだ遊びたいと口にしているミーシャ的には、楽しければそれでいいという考えで、結婚は全く考えていないだろう。

 真面目に結婚を考えているレックは、ミーシャにとってだんだんと苦しくなってきたのかもしれない。

 ……そう考えると、先ほど考えたように関わり方さえ帰ればなんとかなると考えた自分の案は甘すぎるのかもしれない。

 勢いで無責任なことを、口走ったりしないで本当によかった。


「じゃあ、そろそろ兵士たちを集めて鎧を着けての訓練に移るとするか。俺が指揮するから少し離れるが、適度な距離を取ってくれればどこから見て貰っても構わないぞ」

「うん、分かった。じっくり見させてもらうよ。鎧を着て行動することの大変さも、ちょっとは分かったことだし」

「おう。何かキースの中で気が付いたこととかあれば、また教えてくれ」


 レックは兵士たちを集めて、鎧を着けての訓練を行うための指示を行っていく。

 兵士たちはレックの指示を受けて、各自着々と装備を着けていく。

 キースはレックに着けてもらわないと何もできなかったので、いとも簡単に鎧を各部分に装着していく。

 この光景も実際に装備してみたからこそ、当り前のようにやっているように見えて実はすごいことであるとよく分かる。


(ミーシャに頼んで、実際に魔法弓で的に向かって矢を放つのも体験させてもらえばよかったかも……)


 ミーシャの技術は何もしていなくても異次元レベルであることは分かったが、実際に狙ってみる難しさを身をもって経験すれば、もっと理解できたかもしれない。

 もし今度、機会があるのであれば彼女に頼んでみるとしよう。


「よし、じゃあちょっと浮かれ気味のやつらにちょっと厳しく訓練して行くか……」

「り、理不尽なことはしないようにね?」

「冗談だ。そんないい加減な気持ちで訓練をしているわけじゃないからな」


 鎧騎士団のトップとして、他の兵士たちよりも煌びやかな鎧をまとったレックが、兵士たちを率いて外の訓練場へと繰り出していった。


















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