19話「鎧騎士訓練場へ」

「大事な書類を書いとるから、お主らもさっさと仕事に行けぃ」


 色々と話が落ち着いたことと、何もなかったことにつまらなくなったのか、ミサラがそれぞれの持ち場へと向かうように促してきた。

 その皇帝の言葉を受けて、それぞれの任務や役割を果たすために城から出て、各自の担当場所へと散っていった。

 何とかレックの心が持ち直したことで、彼の指揮する鎧騎士についての話が聞くことが出来ることになった。


「さて、じゃあ俺らも行くとしよう」

「うん。案内よろしく」


 レックの後に付いて、城から出て帝都を通って鎧騎士たちが鍛錬を積む訓練場へと歩みを進めていく。


「どうだ? ちょっとはここでの生活は」

「うーん、ちゃんと一日皇国で過ごしたのは昨日が初めてだったからね。まだまだ分からないことばっかりかな」

「ま、まぁ昨日は色々とイレギュラーなことばっかりだったみたいだしな」

「そ、そうだね……」

「あ、すまん……。触れない方が良いよな」


 どうしても昨日はミーシャとずっと居たので、昨日の話になるときまずくなる。

 昨日から今日にかけて、レックはまだミーシャのことがとても好きであることは誰の目から見ても明らか。

 好きな相手が、違う異性と何かあったということを知るのは、きついものがあるに違いない。

 何とかミーシャと共に何もなかったということはあらゆる要素から説明はしたが、完全に疑惑が無くなるわけではない。

 人によっては、揉め事になって収拾がつかなくなることだってある。

 そんな中でもちゃんと案内してくれるレックに、ただただありがたいと感じる。


 しかし、やっぱりきまずい。

 昨日ミーシャと一緒に居て、彼女の魅力はそれなりに分かったような気がする。

 付き合っていて、それなりに女性として可愛らしい姿を見てきているに違いないので、どうしても二人の関係性について、恋愛経験のないキースでも若干頭によぎる。


 付き合っている時に、泥酔した時のように甘えん坊なミーシャになって、そう言う行為をすれば、男は確実に落ちるに違いない。


(何を考えているんだ……!)


 そんなふと浮かんだ考えを、あわてて振り払った。


「一つ参考にしたいのだが、ミーシャはどんな感じで案内をしたんだ?」

「えっと、魔法弓や訓練施設の説明と兵士たちに指導する上で、彼女なりのスタンスを教えてもらったかな」

「なるほど。あいつ、結構真面目に案内したんだな」

「軽めのイメージがありましたけど、自分なりの考え方も持っていることが分かって、弓兵のこともそうだけど、彼女のこともよく分かってよかったかな」

「そ、そうか……」


 キースは、レックの反応を見てしまったと思った。

 ミーシャがどんな風に自分を案内したかだけを聞かれていたのに、彼女に対する個人的な感想を言ってしまった。

 それも、ミーシャを好意的に捉える内容で匂わせとも感じ取れてもおかしくない。


「い、いや普通に兵士をまとめる指揮官として、だよ?」

「お、おう。もちろん分かってる! あいつに負けないぐらい、俺と鎧騎士たちのこともしっかりと伝えていくことにしよう」


 キースが慌ててフォローを入れたが、レックも自分自身が微妙な反応をついしてしまったと分かったようだ。

 なんとも言えない微妙な雰囲気の中、帝都を進んで行く。


 こういう時に、ミーシャみたいに帝都で気軽に声をかけてくれる人が居てくれると、楽なんだろうな。

 ……いや。仮にこの状況で、あんな突っ込んだことを言って来る少年たちに「ミーシャ様といっぱい遊んだ?」とか言われたら、それもそれで地獄か。


 当たり前だが、レックとミーシャの関係性がそれなりの地点で落ち着くのが、この問題を解決する一番の近道。

 見ている限り、お互いに開口一番喧嘩腰というか、強めの口調で話し始めることで喧嘩になっているような気がする。

 どちらかが柔らかく対応すれば、対応された側も急に柔らかくなっていくような気はしているのだが……。

 あくまでも、恋愛経験のないキースの中での考えであることし、どうすればよいかも聞かれていないので、言うことはないのだが。 

 酒場の店主にこのことについて相談したら、いいアドバイスとかもらえたりしないだろうか。


「よし、着いたぞ。俺たち鎧騎士団が、訓練している場所だ」


 しばらく歩くと、大きな砦のような施設にたどり着いた。

 早速中に入って行くと様々な鎧が立てかけてあり、兵士たちが厳しい体力トレーニングを行っている。

 予想はしていたが、見る限りは男性しかいない。


「みんな、おはよう。しっかりと鍛錬は積んでいるようだな」

「レック様、おはようございます!」


 レックが到着すると、大きな声でみんなが口をそろえて挨拶をしてくる。

 ミーシャと弓兵達の関係性は緩い雰囲気も見られたが、こちらはしっかりとした規律正しい雰囲気が漂っている。

 兵士たちはトレーニングを行う際には鎧を着けていないようで、屈強な体つきがあらわになっている。


「みんなすごい体つきだね」

「どうしても鎧がかなり重いからな。それなりに動くための力や、体力をつけないといけないからどうしてもこうなってくる」

「弓には魔法弓って言う画期的な物があったけど、鎧はそう言うの作られたりはしていないの?」

「魔法攻撃を抑える鎧は、魔法弓同様に魔石で作れるから比較的軽量だが、武器による攻撃を防ぐことの出来る鎧は、魔石とかの軽い素材で作ることがまだ出来てないのが現状だな。研究は頑張って進めてくれているらしいんだが、実用はまだまだ先の話になりそうってとこだな」

「なるほど。言葉で言うのは簡単だけど、実現するのはとてつもなく難しいことだもんね」

「そうなんだよなー。ただ、魔法弓って言う物が出来ちまったから、実現できるんじゃないかって思ってしまうところはあるがな」


 そんな話をしながら、レックは立てかけてあった鎧を持ってきた。


「試しに着けてみるか? おそらく、重すぎて動けなくなると思うが」

「良いの? 着けられる機会って普通じゃないから、ちょっと興味がある」

「よし来た。この後、俺や兵士たちが鎧を着て実技訓練を行っているところも見て貰おうと思うから、鎧着けたらより俺らの頑張りが分かってくれると思うぜ」


 早速、ブーツから足を入れてみる。

 適当なサイズなので、キースの足はすんなりと入った。

 キースは足を動かそうとしたが、ブーツが床に張り付けられているのかと思うぐらい全く動かない。

 必死に体もくねらせて動かそうと試みたが、無駄な抵抗に終わった。


「大丈夫か~? まだ足だけだぞ?」

「だ、大丈夫! さあ、次の装備を!」


 レックがそんなキースの姿を見て、とても楽しそうに笑っている。




























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