18話「なぜ恥ずかしがる?」
「さて。早速、ペルガヤ連邦やトバード公国に連絡を取ることとしよう。こういった国交はお互いに納得しない限りはなかなか進展しないが、予想外のことが起きないとも言い切れないしな。お主たちは今日もいつも通り、それぞれの任務を遂行してくれ」
ミサラはそう言うと、また新しい紙を取り出して黙々と手を動かし始めた。
「さて、私も兵士たちの訓練に行くとしよう。キース、また明日会おう。これから飲みに誘うことがよくあると思うが、断ってくれるなよ?」
「お、お誘いいただけた時は、可能な限りお供させていただきます」
「よし、良い答えだ」
キースの答えに満足したのか、返答に頷いた後、一足先に城から姿を消した。
一方で、ロアとレックは未だに傷心中である。
二人に誤解であることを説明しないと、今後関わりにくくなりそうだ。
しかし、どう説明すればよいのか。
「何もしていないということを信じてくれ」という、よく浮気をしそうな男が言いそうな言葉しか言うことが出来ない。
「お、おはようございます!! すいません、遅刻しました!」
キースが二人にどうなってくしてもらおうか頭を悩ませていた時、慌てた様子でミーシャが駆け込んできた。
相当急いできたのか、息が上がっている。
ミーシャの登場に、ネフェニー以外の残っていたメンバー皆の注目が一斉に集まった。
「おー、渦中の人物が登場したか。おはよう。いつも遅刻しても、焦ることもないお主が血相を変えて飛び込んでくるとはな。昨日は色々とあったようだな?」
「え、えっと……。まぁ、その……はい」
ミサラがニヤニヤとしながら、ミーシャにそのような言葉をかけた。
ちょっと歯切れの悪そうな返事をしたが、それは酔わせようとしたのに、逆に酔いつぶれたことに対するちょっと後ろめたさから来るものだろう。
キースにはそれが分かるが、周りにはそんな事情が分かるわけもないのだが。
しかし、ここでミーシャが来てくれたことにより、二人への誤解が解ける可能性が生まれた。
ミーシャも朝起きて着衣の乱れが無かったことから、記憶は無くてもそう言うことはしなかったということぐらいは、分かってくれているはず。
経験豊富なミーシャなら、こういう話になった経験ももちろんあるだろう。
さらっと「何もなかったよね!」って明るく言ってくれるに違いない。
ミーシャがけろっとしていれば、本当に何もなかったということへの信ぴょう性が急激に高くなるに違いない。
そうと分かれば、他の人に話を拡げられる前に、先手を打って話を進めるべきだとキースは考えた。
「お、おはようございます、ミーシャ」
「っ!! お、おはよ……」
キースは早速、ミーシャに挨拶をした。
しかし、ミーシャはキースの声が聞こえるとびくりと跳ね上がり、ゆっくりとこちらを振り返ってきた。
そして、顔をかなり赤くして小さめの声で挨拶を返してきた。
……思っていた反応と全く違う。
キースの中では、「おはよー! 昨日はすごい酔っちゃったー!」ぐらいの返事で、昨日の一件を笑って終わらせるものだと思っていた。
だが、ミーシャは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
「昨日は私……、色々とやっちゃったよね?」
確かに酔わせようとして、自分が酔ってしまうということはあったので、言葉自体は間違っていないと思う。
しかし、ミーシャの性格からして、そんな反応をしながら言うことではない。
「「おお……?」」
そんないつもと違うミーシャに、ルナとミストまでかなり困惑している。
そしてミサラは、必死に笑いを堪えている。
そして、傷心中の二人は……。言うまでもなく、撃沈している。
「あんなことになっちゃうなんて、私初めてでさ……。恥ずかしいところを見せちゃったと言うか……。あんな偉そうに経験豊富とか言って、ごめんなさい!」
おそらくは、「異性絡みでよく酒を飲むが、あんな失敗をしたのは初めて。それで酔っぱらった恥ずかしいところを見せてごめんなさい!」ということだ。」
しかし、何も知らない側から聞けば、とんでもないことがあったとしか聞こえない内容である。
まるで経験豊富で自信のある女を、色んな意味で分からせたかのように聞こえるのだが。
「あんな偉そうに経験豊富とか言って……」という言葉選びが、特に良くない。
「キース! お主、やはり最高だな!」
「ち、違うんですって! いや、意味としては違わないんですけど、そういう意味じゃないんですって!」
「あ、あのミーシャがあんなに……! ロア、落ち込んでいる場合じゃないって! やっぱり相手してもらおうよ!」
「不思議です。私にはまだ分かりませんが、ミーシャをあれほど変えられるものなのですか?」
それぞれいろんな言葉が飛んでくる。
ミサラは真意を理解できているのか分からないが楽しんでいるし、ミストはまた穏やかではないことを言っている。
更には、こう言った話題には触れない姿勢でいたルナですら、ちょっと興味を抱き始めている。
風紀が乱れに乱れており、非常にまずい状況になっている。
特に、傷心中の二人から目の光が無くなっている。
「いや、ミーシャ。それはお酒での失敗であって……」
「キース、言わないでぇ!」
「いや、話を聞いてもらってもいいですか!?」
街の中で、子供に大きな声で一緒にいる男の話をされて冷やかされるのは平気なのに、なぜこの失敗をそんなに恥ずかしがるのか。
ミーシャが気にしてしまう基準がよく分からない。
「言わなくても分かってる。絶対に私、変なことしてたでしょ?」
「してないですって!」
しばらく話を聞いてもらえず、お酒による失敗であるということの説明が出来るまで、かなりの時間を要した。
恥かしそうにするミーシャを何とか宥め、ゆっくりと昨日の酒場のことについてミーシャにも記憶にあるだけの説明してもらった。
彼女も、起きた時の自分の状態を見て何もなかったということは分かったようで、そのことを話すと、完全には納得しないものの何とか二人は落ち着きを取り戻した。
ミサラはいかにも残念と言った様子を見せていたが、キースは事が落ち着いてほっと一息をつくことが出来た。
ミーシャは酔うと甘えん坊になり、恥ずかしいことがあるとかなり乙女になることが昨日と今日で分かった。
そんなミーシャに魅力を感じてしまう気持ちもあるが、今度は適度に飲んで、楽しくお話が出来ればいいかなとキースは思うのだった。
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