17話「貴族を見返すための策、立案」

「しかし、お主がひとり来ただけでこんなにも楽しくなるとはな。こう言ったところでも、お主を採ってよかったと改めて思うぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 レックとロアが崩れ落ちて動かなくなっているので、ミサラからの言葉もすんなりと喜ぶことが出来ない。

 ……この後レックと一緒に居ても大丈夫だろうか。結局気まずくなってしまったような気しかしない。


「ロア、大丈夫だって! 何なら今度二人で一緒による相手してもらおう? どんなに経験豊富な女でも、一人じゃ出来ることに限界あるって! 二人なら、もっとキース様を悦ばせることだって出来るって!」

「大丈夫ですかー? そろそろミーシャのことは諦めましょうよー。女性がああいう態度取り出すともう修復できませんって。切り替えて次の人、探しましょう?」


 今、ルナとミストが二人に声掛けをして、励まそうとしている。

 ただ、ミストは何やら穏やかではないことを言っているし、ルナは傷口をさらに抉るような厳しい言葉を優しい口調で浴びせている。


「さて、我はあの貴族どもにお礼の手紙でも書くとするか」

「お、お礼の手紙ですか?」

「要するに、きちんとこちらが要求した賠償を受け取ったということの旨を書状にして、あちら側に送るということだよ」

「な、なるほど」


 ネフェニーが分かりやすく説明を行ってくれた。

 このカオスな状況の中で、陛下にとんでもないことを言っていたネフェニーがマイペースながら解説もしてくれるので、一番まともに見えてきた。


「さて、何と書いてやろうか。キース、お主はここに来る前に、最後あやつらから何と言われたのだ?」

「『戦犯者一人の命を差し出すだけで、良いとはな。とっとと戦犯者は失せなさい』と言ってましたね。はっきりと言っていませんでしたが、明らかに処刑されるものだと思っていたようです。もっとも、私自身もそう考えておりましたが」

「なるほど。では今頃、あちらではお主は死んだことになっているということか」

「恐らくそうだと思います」

「ならば、処刑はしておらずこちらで可愛がっていることを、丁寧に伝えてやるとするかのぅ。それぐらいしてやれば、ちっとは奴らのプライドが傷つくだろうしな」

「どうでしょうか……。敗戦後の様々な処理で余裕がないと思われるので、書状の意味をしっかり理解しないと思います」


 貴族たちは、皇国以外に敵対したペルガヤ連邦やトバード公国の賠償請求が届き、そちらの対処に必死になっていることだろう。

 すでにキースを引き渡したことで、皇国への賠償問題は解決したと安心しているはず。

 一件落着した相手からの書状など、余裕がない段階であの貴族たちがちゃんと読むとは思えない。


「むぅ、それでは意味が無いな。本当はここまで貴族たちを来させて、目の前でキースを可愛がっているところまで見せてやりたいまで思うのだがな……」

「いいじゃないですか、それ! 本当はあんなやつら、八つ裂きにしたいぐらいですし。それなら、手を汚さずに最大の屈辱を与えることが出来ます」


 先ほどまでマイペースだったネフェニーが、熱のこもった言い方をしている。

 やはり、あの戦争を仕掛けられたことに対する恨みは、勝利を収めただけだけでは収まるものではないらしい。


「待て待て。ネフェニー、お主の気持ちはよく分かるし、我も本音はそうしたい。しかし、あいつらを辱めるだけのために、こちらが大胆な行為することは避けるべきだ。民はどんな時にでも我らを見ておる。多くの人の目に入るような場面で、感情的な対応はせぬ方が良い」

「……はい」


 ミサラも『貴族など、処刑にしなくても良い』と言っていたが、やはり戦争を仕掛けてきた相手として、腹に据えかねるものがあるようだ。

 それは前線で戦うことになった兵士たちを指揮しているネフェニーも、言うまでもないだろう。


「まぁ、ちゃんと読むのか知らんが、ありがたくうちの国の者になったことの旨だけを書いてやるとするか……」

「陛下、一つよろしいですか?」

「どうかしたか?」

「先ほどのやり取りを聞きまして、一つの案が浮かびました。それなら、正当な理由で貴族たちがここに来ざるを得なくなると思います」

「ほほう、その作戦とは?」

「……私も気になります。キース殿が考えた策というものが」


 ネフェニーがすぐに興味を示し、レックに手荒い慰めをしていたルナも、レックを放置してすぐにこちらの話に混ざってきた。


「ふむ、聞かせてくれ」

「今、エルクス王国は皇国の支援に入ったペルガヤ連邦やトバード公国の賠償請求に追われていることでしょう。おそらく内容は多額の賠償金。それ以外に要求して利益になるようなものは、あの国にはありません。ですが、その賠償金も戦争の多大な損害と経済力の衰退により、とても払える状況ではないと思います」

「しかし、貴族のやつらは金を持っているのだろう?」

「確かに貴族たちは金を持っていますが、死ぬまで手放しません。仮に手放してしまうと、自分の派閥で動かせる兵士たちが一斉に反旗を翻し、命が危なくなりますからね。その選択をするぐらいなら、国土の一部を明け渡しぐらいのことは平気でします」

「……どこまでも自分の身が可愛いのだな」

「ええ。ですので、実質支払う手段があの国にはありません。だからこそ、私が考えた作戦を仕掛けることが可能だとと思います」

「何をすればよいのだ?」

「それはですね……」


 キースは先ほど考えた内容について、逐一説明していった。

 貴族が牛耳るエルクス王国の内情を知っているキースだからこそ、考えついた案。


「な、なるほど。それならいけるかもしれないな……!」

「ふむ、面白いな。ただ、作戦の中で我が責任重大と言ったところかな?」

「陛下には大変申し訳ありませんが、この作戦のポイントは陛下ということになりますね」

「構わん。お主の作戦で、色々な方面に良い効果が生まれる可能性が出来たことが分かったからな。ルナも異論はないか?」

「もちろんありません。むしろ、異論の一つも出せずに悔しいぐらいです」

「ルナからも最大限のお墨付きが出たな。そしてこの作戦におけるキース、お主自身の狙いも実に気に入った。我はこの作戦でお主の狙いも成功して欲しいと思う。尽力してみることとしよう」

「ありがとうございます」


 貴族たちを見返すために立てられたキースの作戦。

 その作戦が、今日から静かに進行していくこととなった。
















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