12話「皇帝からミーシャへ。ミーシャから弓兵達へ」

 ミーシャに引き連れられて到着したのは、帝都近くに設けられた広大な敷地だった。


「みんな、おはよー」

「ミーシャ様、おはようございます! あれ、今日は彼氏さん持ち込みですか?」

「そんなところー!」


 すでに多くの弓兵たちが、鍛錬を積んでいる。

 比率的には、かなり女性が多い。

 兵士養成所に女性がいることは珍しくないが、ここまで女性比率が多いところは初めて見た。


「ここが弓兵の訓練場ー! まぁ、この辺りはそんなに他の国と変わりないかな?」

「そうですね。ただ……」

「ただ?」

「的までの距離が、尋常ではないくらい遠いのですが……」


 弓兵たちが狙いを定める先に的があって、そこに向かって矢を放って精度を高める訓練をしている。

 ただ、弓兵が立っている位置から狙う的までの距離が異常なくらい遠い。

 少なくとも、エルクス王国の弓兵たちが練習していたものと比べ物にならないくらいの距離はある。


「あー、魔法弓って飛距離すごいからね。キース君が元居た国の弓と比べたら、飛距離二倍くらいは少なくとも飛ぶんじゃない?」

「や、やっぱりそれぐらいの距離あったんですね……」


 あまりもの性能差に絶句していると、ミーシャが弓を持ってこちらに近づいてきた。


「はい、これがキース君が知りたがっていた魔法弓だよ。成りの部分が魔力を込められた魔石を成型して作られてるんだ。魔石が放出する魔力で弦が形成されて、そこに矢をかけて放てば、誰だって飛距離はあの的ぐらいまで飛ぶよー!」


 説明を聞けば聞くほど、驚くべき武器だと感心させられてしまう。

 これを発案した人も実際に作り上げた人も、とんでもないと思う。


「筋力が要らないから、後はひたすら試し射ちして精度を上げていくだけ。矢はいたって普通の物を使うから、風の影響とか若干受けるんだよね。そう言ったズレとか修正できる感覚とかは、ここで養っていくしかないんだよね」


 兵士たちの訓練の様子も紹介しながら、ミーシャは説明を続けてくれる。

 先ほどまでの軽いイメージとは違って、弓兵総大将として色々なことを説明してくれる。

 説明をしていく中でも、訓練している兵士たちに優しく修正点を伝えていくことも行っていく。

 誰に対しても明るく笑顔で、優しく声をかけるミーシャに兵士たちも終始笑顔。


(あっちの国と違いすぎるな……)


 エルクス王国に居た時、兵士たちは指導する上官とたまに練習を見に来る貴族たちの厳しさに怯えてしまい、目を付けられないよう日々過ごしていた。

 訓練は失敗することで成長するのに、失敗することが許されないというあまりにもおかしな環境だった。


 朝のやり取りでミーシャに対して軽いイメージを持っていたが、この軽い雰囲気だからこそ、兵士たちが安心している。

 その上、女性であることもより安心感があるのかもしれない。


「ミーシャ様、お客人がいる中すいません……。もう一つ質問良いですか?」

「うんうん、どうしたの? 何でも聞いてよ!」


 ミーシャはこちらをちらっと見て、申し訳なさそうな顔をしたが、「大丈夫」だと笑顔で首を縦に振っておいた。


 ※※※


「ごめんね。ちょっとみんなからアドバイス欲しいって言われちゃって……。訓練場って皇国にいくつかあって、巡回して毎日来れないから、来たときはこうしてみんなからいろいろと聞かれるんだよね」


 兵士たちへアドバイスや質問への回答も行いながら、ゆっくりと魔法弓や弓兵の訓練の様子などを説明してもらい、一通り終えた時には昼過ぎになっていた。

 訓練している兵士たちからは少し離れた場所にある場所で、キースとミーシャは腰かけた。


「いえいえ。そっちの任務が大切だから優先してもらって良かったです。皆向上心がありますね」

「うん。皆、本当に熱心だもん」

「それも、ミーシャがああしてみんなに優しく丁寧に接しているからなんでしょうね。何でも聞きやすいでしょうから。あの国に居た時には、考えられないような雰囲気です」

「そう見えてるなら嬉しいな。それが、私の目指している形だから。目的な一緒なら、みんな仲良く高め合う。私はそんな場所をここに作りたいんだよね」


 今までの軽い話し方とは変わって、少し真面目な雰囲気でミーシャがそんなことを口にした。

 彼女は兵士たちが矢を放つ姿を見つめながら、話を続ける。


「私ってさ、皇国の外れにある集落の出身でさ。安定した生活が出来なかったし、それにやさぐれてて、若いころは今よりももっとやんちゃしてた。でも、そんなときに陛下に拾ってもらったの」

「どのようなきっかけで陛下に?」

「陛下は辺境地の人たちにも、気を配っていて生活しやすい街への移住計画など、直接足を運んで、積極的に提案してくれた。そんなときに、私が弓で狩猟していたところを陛下が見て『お前は絶対に帝都に連れていくっ!』って言われちゃって」

「その時から、陛下は才能を見抜かれてたんですね」

「多分そうだと思う。陛下の目に狂いはないしね。でも、その時に陛下に気に入られようと必死に横に付いていた人たちが『あいつは汚い田舎女だから、絶対にやめた方が良いって』陛下に言ってたの。でも、その時に陛下は『だから何だ? 我はあやつが欲しいのだ!』って一喝しちゃってさ」

「まだ会って間もないですが、いかにも陛下らしいですね」

「うん。その後陛下から『色々と言われているようだが、我が目を疑ったことはない。だからお主が欲しい。表面的なことで差別をするようなやつ、我は好かんのでな』って言ってきて。その時私、『田舎者というだけでなく男とも遊びますし、遅刻もすると思います。それでもいいんですか?』って聞いたんだよね。陛下は『それでも別に構わん。あの弓の技術は田舎者とかやんちゃであるとか関係ない!』ってなにも気にしていない様子だったけどね」


 そんな話をして、当時のミサラのことを思いだしたのか、ミーシャは少し笑っている。


「まぁそんな風に陛下に採用してもらって、頑張ってるんだけど……。特に意識しているのは、頑張っている以上は弓兵のみんなと丁寧に向き合うこと! 陛下が私のことを噂や表面的なことだけ判断せずに拾ってくれたことと同じようにね。魔法弓でどんな人でも弓兵を目指せる環境になったし、こんな私だからこそ色んな人を受け入れられるような気もするし」

「その結果、ミーシャが作り上げた今の環境になるというわけですか」

「うん。キースの目から見てどう?」

「とても素敵だと思います」

「えへへ~、ちゃんと褒めてもらっちゃった!」


 エルクス王国では、実力が無くても貴族と近い関係性ということや、媚びへつらうことで重職にありつける状態になっていた。

 一方、実力はあっても貴族たちの機嫌を取ることすらできないものは、出世の道が一つもない。


 だが、この国では主が直々に適性のある人物を見抜き、身分や立場に関係なく採用することをしている。

 そして、採用されたミーシャは周りから表面的なことばかり見られることに何も良いことがないことをよく理解している。

 そして、今の環境を作り上げるために努力している。


 ミサラの観察眼の鋭さと、ミーシャの考え方。

 全てがうまくかみ合って、この弓兵訓練場の良い雰囲気が形成されている。

 大国であり、新兵器があるから強い。

 だが、それ以外にも強くなる要素を兼ね備えている。

 そんなことをキースは強く感じた。


「他国出身のキース君なら、私がこうして意識していることを一番分かってくれそうなんだよね。もちろん、ルナたちが分かってないわけじゃないんだけどね。ここばかりは、もともと立場の差として完璧に埋めきれないものがあるというか……」

「何か分かります。話せばもちろん聞いてくれるでしょうけど、何かその聞いてくれる相手に気を遣わせてしまうような……。そこばかりはどんなにお互いが譲歩し合っても、避けられないものであるような気がします」

「そう! 私の言いたいことはそれよ! ルナもロア達……憎たらしいけどレックも私に気にしてくれているから、頑張ってどこまでも考えようとしちゃうからね」


 軽い感じでロアを冷やかしたり、レックと喧嘩はしていたものの、ミーシャなりにみんなのことを大切に想っているらしい。

 だからこそ、自分が考える理想を伝えるということはみんなに負担をかけると考えているらしい。


「だから、うちに来てくれないかな~って!」


 ミーシャはニコニコ笑顔で、改めて勧誘してきた。


「遊びたいとか言ってましたけど、本心はこっちなんですね」

「いや、う~~ん? 遊びたい気持ちが5分……。いや、6割! さっきの思いが4割! ねぇねぇ、この後お酒飲むか遊ぶかしよ?」

「せっかくいい話だったのに……」


 ミーシャの話を聞いて色々と心を動かされたが、本心にある遊び心は変わらないようだ。











































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