11話「ややこしいことに……」
「よし、順番が決まったぞ」
くじ引きの結果、ミーシャ→レック→ルナ→ロアという順番になった。
今日から一日ずつ、この順番に沿ってキースに自分達の担当する分野についての説明などを行うことになった。
「お、私が一番になったか!」
「ということで、今から弓兵達の訓練の様子やら、お主が気になっとる魔法弓などについて、ミーシャのやつに紹介してもらうといいぞ」
「うんうん、色々と教えてあげるね~!」
そう言いながら、ミーシャは笑顔でキースの腕に抱き着いてきた。
昨日からこういったことがキースによく起きるようになったが、一日ぐらいでそんなに耐性が付くわけもない。
ミーシャはこの中に女性陣の中で一番露出も多いので、視覚や触覚的にも今までで一番刺激がある。
「ミーシャの案内が終わったら、後は自由にしてくれて構わん。屋敷に戻って休むもよし、街の中を散策したり、こやつらと会って話をしても良いしな」
「分かりました」
「では、二人ほど来ていないが、また今度ということで本日は解散する。各自、任務に戻ってくれ」
そのミサラの言葉を最後に、集まりはお開きとなった。
「じゃあ、早速行こー!」
「ミーシャ。キース様は先ほども言っていたように、まだ生活が落ち着きになられていません。くれぐれも変なことをしないように!」
「えー、何でロアがそんなにキース君と私のことを気にするの?」
「あなたの事というより、私はキース様が心配なのです!」
「え、もしかして取られると思って心配になってるの? ……もしかして、本当は昨日あんまりうまくいかなかったの~?」
「!」
ミーシャのその言葉に、ロアはびくりと体を震わせた。
その様子を見て、ミーシャは口元に手を当ててちょっと笑うのを堪えている。
「なんかおかしいと思ったんだよね~! ロアがキース君と楽しく過ごしたのに、キース君が断ってきた理由、なんか変だったもん」
「~~~っ!!!」
耐えられないとばかりにロアは顔を赤くして、手で顔を覆ってしまった。
「ありゃ? お主たち、昨日はあんまりうまくいかなかったのか? てっきり反応からして、うまくいっているものだと思ったのだが」
「キース君もイケメンだけど、硬いイメージあるしなかなかお互いにうまく事が進まなかったんじゃないんですか?」
図星である。
やはり、異性経験が豊富な人が見ると、ちょっとしたことですぐに真実を見抜かれてしまうらしい。
「じ、自分のせいです……。うまく切り出せなかったので」
「い、いえ! 私が悪いんですっ!」
「なんじゃつまらんの~。しっかり裏の顔で狼になるものだと思っておったのに。あの愚かな貴族たちに良いように振り回されて、欲求すら封印されとったのか?」
「ま、まぁそう言うことと無縁で生きてきたのは事実ですけども……」
何で国の主に向かって、自分の性事情について話しているのだろうか。
多少なりとも経験がある、と言ってごまかしたいところだが、ミーシャがいる以上ボロが出ると経験がないことが、すぐにバレそうな気がする。
変に見栄を張って、嘘がバレたほうがみっともないので、素直に経験がないことを言うしかない。
「経験がない。へぇ……」
「み、ミーシャ。いけないことを考えている顔をしていますよっ!」
「だって、これで最初に言ったキース君の断りが嘘だったってことでしょ。なら、今日案内が終わった後に色々と遊んでも良いってことじゃん」
「ダメですっ!」
「こんないい男で経験ないとか、そそられるものがあるし! 私好みに染めていきたいねぇ……」
「おい、それは俺からも認められないな!」
「何、未練でもあるんですかぁ? だっさ」
「ちげぇよ! 明日は俺がキースを色々と案内する日なんだ! お前が夜まで拘束しちまったら、キースが明日朝来れなくなるじゃねぇか」
「……」
キースはこの流れの会話に途中から入らなくなっているが、ずっと三人で会話は続いていく。
というか、ミーシャは色々とする気満々と言った感じだが、彼女とそう言うことをするということは……。
レックとミーシャはかつて付き合っていた。
付き合っていたということは、当然そういう関係にあって、痴話喧嘩でそう言った話も出てきていた。
ミーシャとそう言うことをした次の日に、彼女と同じようなことをしたことのあるレックと顔を合わせる。
……普通に気まずいことにしかならなさそう。
経験は無くても、そう言った痴情のもつれや異性関係、性事情は小耳にはさむことはあるし、それなりの年なので色々と知っている。
その数少ない知識をもってしても、ミーシャに狙われるというのは、色々な危険性を孕んでいるような気しかしない。
あの痴話喧嘩を見る限り、何かのきっかけでこの二人の関係性が戻りそうな気もしている。
そういう時に、今の勢いでミーシャと色々しました、となると……。
「そうなったら、別に一日ずらせば良いではないか。順番を決めただけで、別に決められた日に必ず案内しないといけないわけでもないのだしな」
「さっすが陛下~! 話が分かってますね~~!!!」
「そ、それは……」
ここで皇帝、余計ともいえるフォローを入れてくる。
レックはミサラの言葉に、何も言わなくなってしまった。
遅刻に関しての問題はこれで解決したが、ちょっと複雑そうな顔をしている。
やはりミーシャに他の男と、しかもこれからよく顔を合わせるような男と遊ぶかもしれないと目の前で知って、色々と思うことがあるのだろうか。
(どうする、俺……)
先ほどが引き続いて、重要な選択肢に直面しているように感じる。
ミーシャの誘いに乗れば、ロアとレックに非常に気まずい。
誘いを断れば、ミーシャと絶対に微妙な雰囲気になる。
みんな良い人だからこそ、平和に行きたいところだが……。
……でも、経験が無くてリードもまともに出来ない立場からすると、それでもいいと積極的に受け入れてくれる女性と経験しておいた方が良いような気もしている。
いや、でもやはり先ほど考えたような今後の関係性がより複雑になる可能性を考えると……。
ルナはため息をついて、やれやれといった表情で首を横に振っている。
見た目は一番幼いが、この中で一番しっかりしている。
「よーし、一先ずは弓兵の訓練場に行こっか!」
ミーシャに引っ張られるようにして、キースは連れていかれていく。
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