10話「陛下のくじ」
「まぁ、遅刻しとる二人も合わせて、うちではこのメンバーがそれぞれの役職の立場からの意見交換や、重要事項の決定などを話し合っておる。……ただ、こうしてやり取りを見ると、まともなのがルナしかおらんのー」
言葉とは裏腹に特に気にする様子もなく、ミサラはのんびりとした口調でそんなことを口にした。
キースは新参者で、ここに何か言及することはとても出来ないが、想像以上に軽い雰囲気であると感じている。
というか、痴話喧嘩をしていた組と、遅刻した二人はともかく、何故ロアまでまともじゃない組に入れられているのだろうか。
今のところ、別にそんな変なところは見せていないと思うので、もしかすると先程の話によるとばっちりを受けているのかもしれない。
「どうじゃ、キース。こんな奴らではあるが、やっていけそうか?」
「はい。固い雰囲気であるより、いつもと変わらない雰囲気で接していただける方が、こちらとしても助かります」
「ふむ。模範解答のような返答だが、嘘ではないようだな」
キースを見て、ミサラは満足そうに頷いた。
初めて会った昨日からだが、顔をちょっと見ただけで真意をすぐに見抜かれてしまう。
やっぱりミサラは上に立つべくして、立っている人なのだと感じさせられる。
「我からは、こやつらはちゃんとしておるとは言ったが、実際にそれぞれの仕事や役割についても、これから見て回ると良いぞ」
「いいのですか? でしたら、是非とも見学させていただきたいです」
先程話にあった魔法弓には、かなり興味がある。
その他にも、このような大国でどのような統制や訓練が行われているかなど、学べることはたくさんありそうだ。
それに、このメンバーとそれなりに話せるようにしておかないと、こうして集まったときに話しにくくもなりそうだ。
そうならないためにも、それぞれと話が出来る時間が欲しい気持ちもある。
「だ、そうだ。うまく紹介すれば、キースが今後参入してフォローなどしてくれるかもしれんなー」
「「「「ぜひ、うちのところに見学へ!!」」」」
ミサラがのんびりとそんなことを言った瞬間、集まっていたメンバー全員がキースに詰め寄ってきた。
「キース君、うちに来て! 魔法弓に興味あるんでしょ!?」
「役職的に多いうちにこそ、男であるキースの目線からのアドバイスが必要なんだ! 頼む!」
「戦術のお話、是非とも詳しくしたいです! そのためにも、是非ともうち来ていただければ、お話しできる時間が増えますので……!」
「キース様、是非ともうちへ見学に来ていただけると、嬉しいです……!」
「え、えっと……」
魔法剣士をやっているキースからすれば、今誘われているどの分野も専門外。
弓についての技量はないし、鎧騎士が出来るほどの体格ではないし、魔法については多少は使えるが、魔導士が扱う高度なものについては範囲外。
もちろん、ドラゴンを扱ったこともない。
先ほどのミサラの言葉を受けて引き込もうとしているのなら、あんまり期待されるのは心苦しいところだが。
「あんたのとこ、別にキース君要らないじゃん。体格的にも、キース君は専門外だし!」
「それを言ったら、キースは弓に精通していないだろうが!」
「魔法弓に興味あるって言ってたから、それでいいの!」
「魔法を使われるのでしたね。よければ、私が可能な範囲で教えますよ?」
「キース様、ドラゴンも懐くので可愛いですよ?」
「こらこら、止めんか! 見苦しい!」
「「「「も、申し訳ございません」」」」
キースのアピール合戦から、色んな言葉が飛び交っていたが、ミサラの一喝ですぐに静かになった。
「焚きつけた我も悪いが、キースはここにずっと居るのだから焦るでない。適当な手段で順番を決めて、その順に従ってそれぞれ紹介すれば良いではないか」
先ほどの状況では、なかなか決まらないと判断したのか、ミサラがそんな案を出した。
「そうしてもらえると助かります。どの分野にも興味がありますので」
「キースがそう言うなら、早速順番を決めようではないか。問題は、どうやって順番を決めていくかだが……。キース、お主自身で決めるか?」
「「「「……」」」」
ミサラがそう言うと、四人の熱い視線がキースに向けられた。
ここで一番目に指名する=一番興味がある、と思っているようだ。
つまり、後に指名されるほどそれほど興味がない、と思われる可能性がある。
(ど、どうしよう……)
ここでどんな決断をしても、喜ぶ人と落ち込む人が出てきそうだ。
女性陣が悲しむのはもちろん辛いし、これまでのやり取りを見てきて、レックも選ばれないと相当落ち込みそう。
みんながみんな、初対面のキースにいい雰囲気で接してくれているので、そう言ったことを考えると、選ぶに選べない。
「求められるというのは、大変なことだな~。 キースよ」
「はい……。陛下、一つお願いがあるのですが……」
「なんじゃ?」
「くじとか、作ることって出来ませんかね?」
「なるほど、良い案だな。では、我が直々にくじを作ってやろう。それなら、みんな納得するだろうしな」
ミサラは軽く笑って、どこからか持ってきた紙にペンで何やら書き始めた。
「よし、出来たぞ。では、四人はこの中から、適当に選んで名前を記入せよ」
「じゃあ、私ここ~!」
「あ、そこ俺が行こうと思ってたんだが」
「知らな~い。あんたが遅いのが悪いんじゃない?」
「ロア殿、どちらにされますか?」
「る、ルナ様がお先にお選びください……」
「え、遠慮なさらずロア殿が先に」
「くじで名前を書くことすら、すんなりと出来んのかお主たちは……」
四人それぞれ名前を書くだけで、変な駆け引きが行われている。
ミーシャとレックは早々と自分の名前を書きたい場所に記し、ルナとロアは残り物を選びたいのか、先に書くように押し付け合う。
重鎮との顔合わせから、くじ引きをするという不思議な流れ。
名前を書くだけでひと悶着あるこの状況に、ミサラはため息をついていた。
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