6話「まぁこうなりますよね」
ここからどうしていいか、全く分からない。
貴族たちの暴政に日々向き合いながら、真面目に生きてきたことがこんなところで災いするとは。
変なことをしてトラウマを植え付けたら、貴族たちと何ら変わらないのだが。
「こっちに戻ってきてからは、何事もなく過ごせているの?」
「はい。あれ以来、前線を退いておりました。最近になって後方支援の任務中心に行っております」
「任務自体には戻っているんだ」
「戻った時は、陛下に涙を流して喜んでいただきました。ただそれ以来、私を前線にはもう出さないとおっしゃられておりまして……」
「そうだったんだ。泣かれている陛下か……。何かイメージが湧かないな」
「そうですね。私もその時、初めてみました」
ミサラは人を大事にする人だとは分かっているが、堂々としているので泣いている姿のイメージはあんまり浮かばないが。
「でも、本当に良かった。こうして今も元気そうで」
「すべてこれも、キース様のお陰……です」
あ、ちょっといい雰囲気かもしれない。
これならちょっと、攻めた姿勢を出していっても行けるのでは……?
キースが思い切ってロアに腕を回そうとした。
「そろそろ、お背中をお流ししますね?」
「え? あ、うん……」
その前に、ロアはそう言いながら静かに湯船から出てしまった。
どうやら、タイミングも間違ったらしい。
その後も何とも言えない時間を二人で過ごし、入浴を終えた。
ダボダボで今すぐにでも脱げてしまいそうなローブが、居心地悪く感じる。
「寝室はどこ……?」
「二階の部屋の至る所にベッドはあるみたいですけど……。キース様専用の部屋とか、おそらくあるとは思います」
「明日聞くか……。今日はどこで寝るのでもいいや」
この広さで数えきれないほどの部屋がある。風呂場は一階という予想が付くからなんとか探し出せたが、個室なら二階や三階どこにあってもおかしくない。
この動きにくいローブを着て、これから屋敷探検を再開する気にもならない。
適当に見つけた部屋に入ると、大きなベッドが備え付けてあったので、そこで休むことに決めた。
「やっと休める……」
戦争賠償として身柄を要求されて、そのまま皇国に来て、皇帝に会って話をしてと、改めて激動だった。
最初は死刑になるだろうという絶望感と、次には敵対していた国のトップと話す緊張感に襲われた。
いつもより疲れているのは間違いない。
「キース様……。私もその……よろしいですか」
「あ、ああ。そうだったね。うん」
勝手にベッドへ先に倒れこんで、ロアのことを放置してしまった。
この部屋がどんな目的の部屋か分からないが、備え付けられているベッドは二人以上で余裕で寝られる大きさだ。
ロアもちょっと露出の多いバスローブを着て、恥ずかしそうにしてある。
キースが着ている男性用のローブよりは、しっかりと密着して自然とローブがはだけてしまうことはなさそう。
しかし、腰回りにぐるっと紐が巻き付けられていて、おへその位置で結ばれている。
あれを引っ張ると、一発で全部脱ぐことになるように出来ているようだ。
「失礼します……」
ロアはゆっくりとベッドに座り込んだ。
そしてそのまま横になることなく、キースの様子をちらちらと見て、様子をうかがっている。
完全にキースの言葉待ちの状態だ。
「ま、まぁ疲れているだろうし、横になったら?」
「は、はい。では……」
キースが促すと、ロアはゆっくりと体を横にした。
と言っても、表情を見れば全然落ち着かないといった顔をしているが。
「その……。いつでもいいですよ」
「う、うん」
ロアにここまで言わせておいて、何もしないで終わるというのは、流石に男としてあり得ない。
どうしてこうなってしまったのかと今でも思ってしまうが、中途半端な気持ちで一夜を共にするというのが一番良くない。
一度ロアがいる方から反対に向いてから深呼吸して、気持ちを整える。
自分の欲求をただ強引にぶつけるのではなく、相手を最大限に気遣う気持ちを忘れずに。
後は、雰囲気を壊すような話をしたり、うまくいかなくて焦ったりして変な行動をしないようにあくまでも冷静に。
キースは頭の中で、おそらくこういう時に男側として大切だと思われることを考えて暗唱する。
ロアは美人でスタイルもいい。
こういう経験がない以上、一度そういうことが始まると自分が変わってしまうのではないかとも思ってしまう。
でも、この経験がまた自分を大きくするわけであって。
その大きくなるために、ロアに受け止めてもらおう。
「ロア……」
色んなこみあげる気持ちを整理して、ロアの方に振り向きなおした。
「すー、すー……」
「ロア、さん……?」
ロアはすでに爆睡していた。
キースが一人で必死に気持ちを整えている間に、眠り込んでしまったらしい。
「……まぁ仕方ないよな。ロアにとっても、今日は気を張ることが多かっただろうし」
無理もないと思った。
終戦したとはいえ、自分のトラウマである国にわざわざ来たことも、ストレスだっただろうし、皇帝の前でいることはこの国では名誉なことで、緊張感がいつまでも抜けるわけがない。
そして何より、ここで一夜を共にしろと無茶ぶりまでされて、さっきまであれこれ考えていたのだろうし。
「俺も寝るか……」
先ほどまで考えていたことが馬鹿らしくなって、キースも急に眠くなってきた。
ロアの横でキースも眠り、明日に備えることにした。
「おやすみ、ロア」
キースにとって長かった激動の一日がようやく終わった。
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