7話「この皇帝、色んな意味ですごい」

 翌朝。

 キースとロアは昨日同様に城の中へと足を運んでいた。


「おお、二人ともおはよう。随分と早いな。まだ集合時間まで一時間近くあるが」


 ミサラは朝食をちょうど終えたところだった。


「おはようございます、陛下。新入りとして集合に遅いなど、あり得ません」

「ふむ、いかにも貴族たちに早く来いと言われ続けてきたという感じだな」

「……すぐに見抜かれましたか」

「別に遅刻しても構わんぞ。何なら、今日のメンツで何人か寝坊してくる可能性が高いからな」

「そ、そうなのですか?」

「遊び、勉学、研究、仕事。それぞれ事情は違うが、夜遅くまで動いとる者が多いからのぉ。どうしても急ぐなら、使いの者に起こしに行かせればよい」


 遅刻にも全く気にする様子がない。

 貴族どもに呼び出されたときには、集合時間の30分前に到着しておかないと、遅刻扱いされて、ただでさえ少ない給料が減らされたいうのに。


「みんな安心でしょうね」

「何かの期限や制限を設けるのは、必要最低限にするものだ。こういった制度はある程度の成果はあるが、行う者たちの体力・精神を大きく削る」

「お言葉ですが、制限しないと際限なくなってしまうということは杞憂されないのですか?」

「する必要などないな。こうして我の重鎮になるような人材は、制限なくとも自分たちの中で、計画的に行動し結果を残す。だから優秀なのだ。それが出来ないような奴は、この場には必然といないのだよ」

「お、恐れ入ります」

「こうしてお主と少し話をして、優秀であるのは間違いないと思った。ただ、人を的確に信用する心が欠けておるな」

「か、返す言葉もございません……」

「まぁ無理もない。あの国の状態では、そうなるしかないだろうしな。だからこそ、お主があの国の監視兵のことを信じて、我が民を解放した手腕を高く評価しているのだよ。作戦の中で使う人物を信頼して、被害無しで成功する。まさに理想的だ」


 むしゃくしゃして衝動的に考えたあの作戦。

 考えれば考えるほど一人では実現不可能であると感じて、信頼してくれていた監視兵たちの力を借りた。

 過程として、あるものを使わざるを得ないと思ってやったことだが、確かに作戦は大成功した。


「まま、今後の課題としておけば良い。それにここで居れば、すぐに克服されることだしな。そんな堅苦しい話はもうこれぐらいで良い」


 そう言うと、ミサラは側付きをすべて部屋から退出させてミサラとキース、ロアの三人だけの空間にした。


「で、お主たち。昨夜は大いに楽しめたか?」

「「……」」


 皇帝に問いかけられて、無言でいるなど無礼も良いところだ。


 言えない。色々と思惑がことごとく空振りして、結局何もなかったなんて。


 ただ、こればかりは下を向いて黙り込むしかない。

 その様子を見て、再びミサラが口を開いた。


「そうかそうか! その反応を見ていれば分かるぞ! 随分と盛り上がったようだな!」


 思わず「え!?」と声が出そうになったが、何とか堪えた。

 ミサラはこの二人の反応を見て、盛り上がりすぎて今振り返ったら、恥ずかしくて何も言えなくなっていると思っているようだ。


「ロアなんて顔が真っ赤ではないか! もしや、お主たち朝までやっておったか?」

「え、えっと……」



 話は少しだけ戻る。

 屋敷での朝。


「本当に申し訳ございません!!」

「いやいや、大丈夫。俺も疲れてたし」

「で、ですが、私からあのようにお誘いしておきながら、こんなことを家族に知られたら、絶縁ものです……」


 そんなに大げさなことではないと思うのだが。


「大丈夫。このことは誰にも言わないし、安心して。一緒に居られて楽しかったよ」


 正直、あの広い屋敷で夜一人で過ごすことになっていたら、かなり寂しいし、風呂場を見つけるだけでも大変だったに違いない。

 色々話も聞くことが出来て、キースとしては悪くなかったと思っている。

 それに、キース自身も女性経験がないので、ロアの露出の多い恰好を見るだけで済んだのは、段階の踏み方としては理想的だった……と思う。


「……ありがとうございます。本当にお優しいのですね」

「余裕が無いだけだと思うよ?」

「あの、まだ朝早いです。よければ今から……」

「今日の行動に支障が出るから、また今度ね?」

「はい……」

「ここへはいつでも来てくれていいから。何なら今日も泊っていってもいいし」

「いいんですか?」

「うん。ロア自身の都合に合わせてきてくれたら」

「はい!」


 結局のところ、朝も何もなかったのである。

 なのに、ミサラは色々とあったと勘違いして、かなりご機嫌な様子。


「お主、誠実な雰囲気をして居るが、夜になると変わるタイプか? それともロアが不慣れ過ぎただけか?」

「お、おそらく前者……かもしれませんね」


 こんな話題でロアに恥をかかせたくないと思ったキースは、とっさに自分が泥をかぶることにした。


「ほほぅ。自らそう言うとは、かなりの自信家か? 夜の王という称号を与えてやろうか?」

「そ、それは勘弁して頂けると……」

「心配するな。お主の容姿と雰囲気なら、むしろ興味のある女子がさらに増えるぞ? これからも毎日が忙しくなるな!」

「へ、陛下……」

「そのおどおどした顔が、狼になるか。男は恐ろしよのぉ」

「そ、そこまでではないんですが……!」


 自分で泥をかぶったので、強い否定はもちろん出来ない。

 ミサラのいいように話が進んでいくが、強い否定も出来ずにどんどんと性欲魔人のような立場になっていく。

 これで、童貞ながらに夜の帝王という称号を得たことになったようだ。

 この皇帝、性事情の話に関しては厄介なタイプになるようだ。

 女性であるために、女性にこんな話を吹っかけてもあんまり問題にならない……のだろうか?

 他の面が全て聡明すぎるが故の、バランス調整でこうなったと考えるしかない。




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