3話 「違うけど、そうなんですよ」
すぐに側付きが豪華な料理を持ってくる。
名前は分からないが、貴族たちが食べていたやつに似ている。
あの頃は嗅覚と視覚だけ楽しんでいたが、まさかこうして口に運ぶ時が来るとは思わなかった。
「食べながらで良い。少し話を聞かせてくれんか?」
そう言ってくれるものの、皇帝陛下の前である上に、キースの立場で食べる余裕などはもちろんない。
ひとまず、キースはミサラからの質問に答えることに集中した。
「何なりとお答えします」
「ふむ。あの国では一体何が起こっておるのだ?」
「王国とは名ばかりで、貴族が王族に無理やり血縁関係を持ち、実権は貴族たちで編成される元老院が持っています」
「なるほど、王の存在など関係ないのだな」
「はい。それで軍事責任者は私が担っておりました。と言っても、実現不可能な要求ばかりでしたが」
「なるほどな。ちなみに、籠城させて何もさせていなかったのは、お主の命令か?」
「はい。皇国軍がこれ以上進んでも利がないと踏んでいると思い、にらみ合いで時間が稼げると思いました」
「良い見識だな」
見た目と先ほどまでの言動からは、全く見合わぬしっかりした話が進んでいく。
「何度も言うが、そなたがロアやミストと言った我が国の者たちを解放してくれたこと、重ねて感謝する」
「……」
改めてミサラがこちらに礼を述べてきた。
国のトップが、国外の相手しかも敵国だった相手にここまで礼を言うことはなかなかないことだと思う。
ただキースの中では、こう思っていた。
(ただ俺は、貴族への腹いせでやっただけなんだけども……)
確かにロアやミストと言った女性陣はきれいだ。
そんな二人が辛い目に遭っていたから助けた、とミサラ達は思っているように感じたキースは何かばつの悪さを感じた。
腹いせでこうなった結果なので、褒められたら褒められたで居心地が悪い。
「キース様? せっかくですので、食べましょう?」
ロアにそう促されて、ようやく一口食べることが出来た。
正直、緊張やら過大評価をされていて、緊張感などで味がほとんどしない。
「すっかりロアたちに懐かれたようだな。その二人だけではない。他の者もお主に慕情を抱いているものもいるらしいぞ?」
「え……?」
「そなたの優しき良心に、我が国の女子が虜なのだよ」
何度も心の中で思う。
良心ではない。ただの腹いせである。
こんな美人をあんなやつらに、喰い散らかすようなことをさせたくなかっただけであるのだが……。
「こ、光栄です」
「ふむ。良きことは誇るが良いぞ」
そんなことを正直に述べるわけにもいかず、良心がある男として話を進めていくしかなかった。
その後も話は進んでいく。
「私は今後、どうなるのでしょうか?
「そうだな。お主を戦争賠償として、指名したわけだが……。一先ず、お主をこの国の者にしたいという一心で要求した。後のことは何も考えとらん」
「そ、そうなのですか?」
「うむ。ここで働くもよし、のんびり皇国一民として過ごすもよしだ」
ミサラがさらっと言った内容に、キースはあっけにとられてしまった。
国の規模が大きいと、上に立つ者も大胆。
人一人、大事にする綿密さと、自由にさせる器量の広さを持ち合わせている。
「陛下、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、何かな?」
「陛下は貴族達が戦犯とご存知でしたが、処刑などの処罰はされなくてよろしかったのですか?」
キースはミサラに一つの疑問をぶつけた。
何故要求した条件がキースの身柄だけだったのか。
他にも要求しようと思えば、出来ることはあったはずだが。
「そんなこと、する必要はないな。貴族はどんなに潰そうが蛆のように湧いてくる。無駄に処罰し、憎悪たぎらせた後釜が出てくれば、より面倒になる」
「な、なるほど」
「それよりもだ。上がダメでも、支えるものの中には、お主のような金が混じっておる。それさえ奪えとれば、何をしようが力をつけることなど出来ないのだよ」
「……恐れ入りました」
「こう見えても、優秀と皆が言ってくれるのでな。それなりに自信はあるぞ?」
ミサラは、そう言うのと同時に食事を終えて、ナプキンで口元を上品に拭いた。
そして改めて姿勢を正して、キースに語り掛けた。
「キース。我はそなたを歓迎する。出来れば、我が国に力を貸してくれ」
キースは圧倒されていた。
幼い見た目ながら、敵国の事情を的確に見抜き、寛大な心と大国としての堂々とした態度を併せ持つ。
まさに、人の上に立つべき存在として生まれてきた人だと思った。
「何なりと、お使いください。陛下」
キースは席から離れると、片膝をつき、服従の意を示した。
「うむ、これからよろしくな」
「ははっ」
「では、そろそろ行くとするか。うちの重鎮や、キースが使う設備などを紹介してやらねばならん。ロア、ミスト。先に準備をしてくれ」
「ははっ!」
そう言うと、ロアとミストはすぐに城から出て行った。
「キース、こちらへ来てくれんか?」
「は、はい」
ミサラに促されて、ミサラの元へキースは駆け寄った。
「先ほども言ったが、お主、モテるのぉ。まぁやったことが救世主だからかのぉ?」
「そ、そうでしょうか?」
「とぼけるでないぞ。あやつらはお主のことを慕っておる。それに、我から見てもあやつらはとても美人だ」
「え、ええ。とても綺麗だと思います」
「なら、迷うことはないではないか」
「……はい?」
貴族達にも一目置かれていたことからも、相当美人であることは間違いない。
ミサラから見ても、お墨付きらしい
「我は女と遊ぶことも悪いとは思わん。何なら、お主の優秀な遺伝子、たくさん残してもらっていいのだぞ?」
「な、何をおっしゃっているのか、よく分かりませんが……」
この皇帝、何を言っているのだろう。
見た目に対して言っていることがおかしい。
今回は、悪い意味でだが。
「とぼけるでない。お主のことが気になっている女子がたくさん。毎日夜が楽しくなりそうだな」
「ご、ご冗談を……」
ミサラはいじわるそうに笑っていて、キースまた違う緊張感に襲われているのであった。
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