2話「ヴォルクス皇国第17代目皇帝」
皇国の上空に入ると、眼下には広大な大地が広がっている。
「すいません。国土に入りましたが、帝都まではまだちょっと時間がかかります。一度降りて、束縛解きますね」
「いやいや、あなたの相棒もアップダウンすると負担になるので、このまま行きましょう」
女性騎士は、キースのことをかなり気遣ってくれている。
束縛を早く解こうとドラゴンを一度下ろそうとしたが、キースは断りを入れた。
竜騎士ではないが、ドラゴンについても勉強はしている。
今はスピードに乗って飛んでいるし、着陸してまた飛び上がるときに、なかなかの負担になる。
「お気遣い、ありがとうございます。では、このまま行きますね」
「ええ。ちなみに、あなたのお名前は?」
「私はヴォルクス皇国軍竜騎士リーバ小隊長、ロアと申します。以後、お見知りおきください」
「ありがとうございます。ロアさん」
「呼び捨てでいいですよ」
「じゃあ、慣れたらで」
更にスピードを上げて、皇国上空を飛ぶ。
眼下に見える景色を見ると、数えきれないほどの農村や、エルクス王国の王都と同レベルかそれ以上の都市が、いくつも存在している。
改めて、こんな国と敵対しようとしていたのは、馬鹿と言う言葉も不適切なような気がしてきた。
「熱心に見られるのですね」
「地理とか好きなのでね。これだけ広大でのどかで栄えているなんて、羨ましい」
「今日からその国の一員ですよ?」
「え?」
「ふふっ。これ以上言うと、陛下が拗ねてしまいますので、ここから先は陛下からお聞きになると、良いかと思います」
「は、はぁ……」
話を聞く限り、皇帝がキースに会いたがっていることは分かった。
この人の態度から、死ぬことは避けられそうだが、それでも敵対国として戦争していた相手であることは間違いない。
相変わらず強い緊張感は、解けていない。
「見えてきました。あれが帝都です」
「で、でかい……」
空にも届くのではないかと思う高い建造物を中心に、信じられないくらい大きい都市が広がっている。
高い城壁に囲まれていた都市で、街の上空に入ると、街の活気具合も見えてきた。
「そろそろ、お城の敷地に入りますので、高度を徐々に下げていきますね」
ドラゴンが飛んでいる高度がどんどん下がってくると、街に居る民の表情なども見えてくる。
皆が笑顔、明るく活気に帯びている。
兵士たちが優しく民に声をかけ、民は兵士たちに食料をおすそ分けしていたり。
穏やかで良い時間が流れている。
「仮に国土の規模が逆だったとしても、勝てなかったな……」
どんなに戦力があろうが、士気が上がらないと意味がない。
この国の人たちは一致団結している。
生きるために貴族に尽くしていたあの国と、お互いに役割を持って支え合おうとするこの国。
生き方そのものが、全然違う。
ドラゴンが高度をどんどん下げると、あまりにも巨大なお城の前に広がる芝生の敷地が見えてきた。
どうやらそこに着地するようだが……。
「すごい人なんですけど……」
「陛下と皇国重鎮を始め、あなたに助けられた者たちとその家族、そしてあなたの手引きで投降した兵士たちとそのご家族もいますからね」
「規模がでかすぎませんかね……?」
竜騎士、鎧騎士、弓兵、剣士、魔導士、槍騎兵などなど。
様々な兵士たちが円陣を作っており、圧巻の様子である。
「あの円陣の中心に降りますね」
「は、はい」
そのままゆっくりと、円陣の中心に降りてくる。
多くの人たちの視線を浴びて、かなり落ち着かない。
「こらー! ロアったら、まだ束縛解いていないかったのか!」
「も、申し訳ございません!」
一人、たくさんの護衛の中から、小さめの女の子が走り出てきた。
護衛が慌てて静止するが、止まる様子がない。
キースが束縛解除を断ったので、ロアが怒られている姿に申し訳なくなった。
「すいません。自分が拘束のままでいいと言ってしまったので」
「ふむ。そなたがキースか」
「は、はい」
キースが束縛についての件を話すと、ロアを叱責している少女が振り向いてきた。
「私がヴォルクス皇国代17代目皇帝、ミサラと申す。戦争中のそなたの活躍、聞いておるぞ」
「こ、皇帝……?」
思わず、「この子が」と言いそうになったが、何とか抑えた。
皇帝と言うからにはそれなりの年齢化と思ったら、かなり若い。
15、6歳くらいに見える。
「む、そなた信じてはおらぬな?」
「い、いえそんなことは!」
護衛のあの焦りようと、少女の纏う服のきらびやかさを見れば、そう言われてたら、そのなのかなと納得できるのも事実。
「まぁ良い。ここにおる者たちは、全てそなたに感謝をしておるぞ」
そう言うと、一斉に兵士たちが頭を下げる。
凄い光景に言葉を失ってしまう。
確かに捕虜を解放した。
だからと言って、こんなことになるとはだれに想像が出来るだろうか。
「城へ入ろう。腹は減っておらぬか?」
「そうですね……。食べないことに慣れているので、よく分からないです」
「なんと! 一番良くないではないか!? ささ、早う参るぞ」
束縛を解いてもらうと、そのままミサラが城へと入って行ってしまった。
「キース様、行きましょう」
ロアがキースの腕を抱き寄せて、城へと入るように誘う。
「は、入ればいいんです? ここに居る人たちは?」
「後で触れ合う時間がありますので、大丈夫ですよ」
そう言うと、ロアに引っ張られながら、城へと入る。
「ちょっとロア! キース様と近くない?」
「迎えに行った間に親密になってるから、あなたの出る幕はないよ?」
「それちょっとずるくない!?」
城の中に入ると、キースとロアの横にまた一人の女性が詰め寄ってきた。
キースにくっついているロアのことが気に入らないらしい。
「キース様、あの……」
「は、はい」
当然、キースには誰なのか分かっていない。
「ロアと同じように助けていただいた、剣士ミストと申します。あの時は本当に……ありがとうございました!」
「い、いえ……」
そう言うと、右腕に抱き着いているロアに対抗してミストはキースの左腕に抱きついた。
別の意味で連行されているような状態で、大きな大ホールへと連れてこられた。
「二人とも大勢の前ではしたないぞ! キースは疲れておるのだから、変な負担をかけるのではないぞ!」
「「も、申し訳ありません。陛下……」」
ミサラに叱責されると、二人はすぐにおとなしくなった。
見た目に寄らず、しっかりとした威厳があるようだ。
「すまないな。まぁ座ってくれたまえ。料理を持ってこさせよう」
そう言うと、側近に料理を持ってくるように命じた。
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