第8話

母も来た。

そして産まれた。

男の子だ。

喜ぶ木梨と妻をしり目に、母は怖い顔で何も言わなかった。

看護婦が怪訝がるほどだったが、事情を知っている妻は、母には触れなかった。

木梨は父と祖父の亡霊のことを、母にはあえて言わなかった。

信じてもらえるかどうかも怪しいし、なにより子供が産まれても木梨が生き続ければ、母も安心するだろうと思ったからだ。


子供が産まれた次の日、木梨は仕事に出た。

妻は子供とともにまだ病院だ。

――あと十日後くらいか。

不安がないと言えばうそになる。

落ち着かない気持ちでいっぱいだ。

木梨は仕事で普段はしないようなミスをした。

上司も少し不思議がっていた。


二日が過ぎ、三日が過ぎ、そしてとうとう十日目になった。

その日のことだ。

昼休みに木梨はふと席を立ち、工場の外に出た。

なぜ外に出たのかは、自分でもわからなかった。

――もしや……。

そう思い、工場に帰ろうとした。

しかし身体が言うことを聞かない。

勝手に違う方向に歩いてゆく。

――やっぱり!

その時、声がした。

「あいつらが来たぞ」

「心配するな。俺たちも来た」

気づけば父と祖父が木梨の左右にいた。

木梨は周りを見た。

真っ白な空間にいる。

工場から通りに出たはずなのに。

「あれだ」

「あいつらだ」

見れば目の前に作業服を着た男が二人立っていた。

そして憎悪そのものの目で木梨を見ている。

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