第5話
その間も時折金縛りにあい、二つの影を見た。
その陰の正体が、木梨には何だかわかったような気がして。
――あれはやっぱり、ひい爺さんの工場で死んだ工員なのではないのか。
絶対的な確証はないが、なんとなくそんな気がするし、考えてみればそれ以外にはまるで思いつかない。
工場で何人か死んだと聞いたが、あれは二人だったのだろうか。
いつも何か言っているのは、木梨に恨み言でも言っているのだろうか。
木梨と彼女の中はだんだんと深まっていった。
成人式も一緒に出た。
木梨はこの頃から彼女との結婚を本気で考えるようになっていた。
まだ母親には言っていないが。
そんな中、ある日金縛りにあった。
そして影を見た木梨は気づいた。
影が前よりもはっきりしているのだ。
特にぼやけていた輪郭が、より鮮明なものになっている。
――こいつら、前よりもその存在が明確になっているのではないのか。
木梨はそう感じた。
彼女との結婚を考えているこの時期に、なんとも悩ましいものだ。
木梨は呪いを払ってくれるところを探した。
実力が確かと評判の霊能者も立て続けに二人読んだ。
しかし二人とも「これはだめ」「私には無理」と逃げるように帰ってしまった。
前金は返してくれたが。
そしてお坊さんにも神主にも頼んだ。
お坊さんも神主も、お祓いのようなことはやってはくれたが、果たして効果があったのかはさっぱりわからない。
それでも木梨は頃合いを見て彼女にプロポーズをした。
彼女は泣きながら「はい」と言った。
プロポーズの翌日、また金縛りにあって二人の影を見た。
――お坊さんも神主も、あてにはならないなあ。
そんなことを考えながらいつものように無視をしているときに、気がついた。
これまでこもっていた声がわずかながらクリアになっている。
その声の大きさも、これまたわずかではあるがこれまでよりは大きくなっていた。
しかしいまだに何を言っているのかはわからない。
木梨は影がより自分に近づいていると感じた。
――いよいよやばいのかも。
そう考えたが、思っていたほどは怖くはなかった。
それはこの影に対してだ。
木梨はこの影に対して今はそれほど恐怖心を抱いていない自分に気がついた。
なぜなのかは木梨本人にもわからなかったが。
木梨はついに結婚することを母に告げた。
母は長く黙っていたが、やがて一言「死なないで」とだけ言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます