第4話

偶然の一言ではとても片付けられない。

曾祖父の父も探してみたが、何一つ見つけることができなかった。

そうすると、曾祖父のときに何かがあったのか。

木梨は思い出した。

祖父の妻、つまり祖母はまだ生きているのだ。


休みの日、木梨は隣町に一人で住んでいる祖母の家に向かった。

祖母に会うのは久しぶりだった。

「ようきたの」

祖母は満面の笑みで迎えてくれた。

少し世間話をした後で、木梨は単刀直入に切り出した。

「僕のお父さんも、お爺さんも、ひい爺さんも、子供が生まれてから半月後にひどい死に方をした。ばあちゃん、このことは知っているでしょ」

祖母は困惑しながらも言った。

「知っているけど、それがどうかしたの」

木梨は少し語気を強くしていった。

「大げさじゃなくてこっちは命がけだから遠慮なく言うけど、これって原因はひい爺さんじゃないの?」

祖母は迷ったように見えたが、やがて言った。

「それはメッキ工場の人の呪いなんかじゃないかとは思ってるんだけど」

「メッキ工場?」

「おまえのひい爺さん、私の義父にあたる人は、親の財産を使って二十代でメッキ工場を作ったんだ。社長、創設者としてね。大戦後すぐのことだったんだが。そしてそのメッキ工場は、安全管理とか作業環境とかがすごくずさんで、何人もの工員が死んだり寝たきりになったと聞いていたよ。行員がそれを訴えても、ひい爺さんはお金の無駄だと言って聞かなかったそうだ。戦後すぐのことだから、詳しくはわからないんだけど。日本中にそんな工場がたくさんあって、その一つに過ぎないくらいにひい爺さんは考えていたみたいだね。それで工員やその家族から、ずいぶんと恨みを買っていたようだね。もちろん死んだ人からも、恨みは買っていただろうし」

「そんなことがあったんだ」

「ひい爺さんが死んだときも、あまりに異様な死に方だったんで、死んだ工員の呪いだと言われていたみたいだから。お医者さんが何人も診たのに、みんな何が何だかわからないまま死んだからね」

「そうだったんだ」

「ひい爺さんが死んだときに私はまだ生まれていなかったし、メッキ工場はそれよりも前の話だから詳しくはわからないんだけど。そういう話は、うちの人がまだ生きている時に聞いたことがある」

「そうすると、ひい爺さんや爺さんや父さんが死んだのは、みんなその呪いのせいだってわけなの?」

「それは私にもわからない。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」

「……」

そこからは特に進展もなく、いつの間にか当たり障りのない話題に移っていた。

木梨は適当なところで切り上げて、家に帰った。


木梨はまたネットで調べてみた。

メッキ工場のことだ。

しかし曾祖父のやっていたメッキ工場と思われる話は、いくら探しても出てこなかった。

祖母の言う通り戦後の混乱期は、作業環境の劣悪な工場など珍しくもなかったのだろう。

時代も古く、工場も大企業にはほど遠い。

ネットでは出てこなかったが、木梨はメッキ工場で死んだ人が木梨家を呪っているのではないかと思い始めていた。

――これは何とかしないと。

木梨はそう思った。


木梨はほどなくして高校を卒業した。

しかし母一人子一人の家庭。

木梨を大学に行かせる余裕などない。

木梨は地元の工場に就職した。

そして同期入社で同い年の女子社員とすぐに仲良くなり、お付き合いを始めた。

もちろん母には内緒だ。

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