第3話

母が続けた。

「誠一のひい爺さんは六十を超えて死んだが、それは初めての子供、つまり誠一のおじいさんが生まれてから半月経ったときのことだった」

「えっ?」

「誠一のお父さん、お爺さん、ひい爺さん、三人とも初めての子供、それも男の子が生まれてから半月後に、苦しみながらひどい死に方をしているのよ」

「……」

「母さんも彼女を見た時に、興奮しすぎたわ。いつかはこんな時が来るんじゃないかと、ずっと悩んでいたから」

「……」

母は木梨の前まで来て言った。

「悪かったわ。あそこまでする必要はなかったのかもしれない。でも一つ言っておくわ。誠一が結婚して子供が生まれたら、誠一は半月後に苦しみぬいて死ぬのよ」

「それは」

「偶然じゃないわ。もう三代も続いているの。判で押したように同じことが。たまたまなんかじゃないわ。うちの家計はなにかに呪われているのよ」

「なにかって?」

「それは母さんにもわからないけど。誠一が彼女を作るのも結婚するのもいいけど、子供は作っちゃだめよ。木梨家は誠一で途絶えるけど、それでも誠一に長く生きてほしいの」

「……」

母はそう言うと座り込み、涙を流し始めた。

木梨はそんな母に、何も言うことができなかった。


彼女とは学校で会うが、木梨を見るとおびえたような顔で露骨に避けるようになった。

まわりの同級生も気がつき、「おまえ、あいつになにをしたんだ」と言われる始末だ。

彼女は気が優しいと同時に、ひどく気が弱くて人一倍怖がりなのだ。

木梨は何もしていないが、木梨の母が酷いことをした。

それで木梨のことまで怖くなってしまったのだろう。

もう修復は不可能かと思われる。

彼女の顔と態度を見れば。

本気で好きだったのにと思ったが、もう遅い。

木梨は傷心の日々を過ごす羽目になった。

それと同時に、こんなことになった呪いとかいうやつに、怒りを覚えるようになった。

こんなことになったのは、木梨のことを本気で心配する母ではなく、呪いのせいなのだと。


木梨は調べた。

ネットでだ。

父も祖父も曾祖父も普通ではない死に方をしたためか、ネットの片隅に載っていた。

まず父。

このことは木梨も知っていた。

トラックに轢かれ、体中を骨折しているのにトラックの運転手に山の中に捨てられ、数日後に亡くなっている。

これは当時、結構騒がれた事件で、日本犯罪史に残るような事件であるため、比較的すぐに見つかった。

そして祖父。

祖父は子供が生まれてから十日後くらいに何故か山の中に入り、崖から落ちてけがをして動けなくなり、死後数日たってから見つかった。

決死の結果は、落ちてから何日かは生きていたようだとのことだ。

これまた山岳死亡事件に詳しい人の間ではけっこう有名な事件で、それゆえネットにも残っていた。

父も祖父もともに大けがをして動けない状態で放置された形になり、その数日後に死んでいるのだ。

そして曾祖父はというとこれもあった。

六十を過ぎて初めて子供ができたが、その半月後に原因不明の病気で死亡している。

身体のいたるところから傷一つないのに出血し、治療を受けたり輸血をされたりしたが、五日後に亡くなっている。

あまりにも異様な症状で死んだので、医に携わる者の間ではちょっとは知られており、これまたネットにあった。

共通しているのは三人とも子供が生まれてから半月後に、それも五日ほど苦しんでから死んでいるのだ。

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