第2話

――ひやっ!

一人でも怖いのに、二人だとなおさら怖い。

そんな中でも木梨は、二人はどうやら若い男だということに気がついた。

影だけだが、その動きや雰囲気でそう思ったのだ。

そして間違いなく、木梨に何か言おうとしている。

――いったい何が言いたいんだこいつら。

木梨は必死に聞き取ろうとしたが、声が小さいうえにこもっているので、全くわからなかった。

しかし今まで何回も出てきているが、話しかけるだけでそれ以外のことは何もしていない。

何かを伝えたいだけで、悪意はないのではないのか。

木梨は少しそう思った。


高校の時、木梨は彼女ができた。

見た目もスタイルも平均的だが、大人しくて優しい心の女の子だ。

付き合いは長くなり、高校生ながら木梨は彼女と結婚するかもと思い始めていた。

そんな中、彼女が家に遊びにいきたいと言い出した。

家には母親だけだ。

そもそも仕事で帰ってくるのは早くはない。

母が帰ってくるまで家にいてもらい、母に合わせるかどうかを木梨は考えたが、結局成り行きに任せることにした。

家で二人っきりで話し込む。

それは楽しい時間だった。

楽しい時間は過ぎるのが早い。

不意に玄関が開き、母が入ってきた。

「かあさん、これ僕の彼女」

「お邪魔してます」

母は彼女を驚きの表情で見ていたが、一瞬で木梨が驚くほどの怒りの色をあらわにした。

普段は優しい母のこんな顔を見るのは、息子の木梨でも初めてだった。

「出て行け!」

母はなんと彼女の髪をつかんで強く引きずり、玄関から外に放り出してしまった。

そして荒々しく戸を閉めた。

「母さん、何するんだ!」

木梨は慌てて外に出た。

すると彼女が玄関先でへたり込んでいた。

「大丈夫か」

木梨が優しくそう声をかけると、彼女は悲鳴を上げて全速力で走り去ってしまった。

木梨はしばし呆然としていたが、不意に怒りがわいてきて、家に戻った。

「母さん、なんてことをするんだ。ひどいじゃないか」

母は木梨の顔をしばらく見てから言った。

「誠一のお父さんは二十二歳で死んだ」

「えっ?」

「誠一が生まれてから半月後に」

「それは知っている。それがどうかしたの?」

「誠一のお爺さんも二十二歳で死んだ。誠一のお父さんが生まれてから半月後に」

木梨は知らなかった。

ただ事故で死んだということだけ知っていた。

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