因果継承

ツヨシ

第1話

木梨誠一がそれを初めて見たのは中学生の時だ。

急に金縛りにあった。

金縛りにあったのはその時が初めてだった。

すると真っ暗だったはずの周りがうっすらと明るくなり、そして出てきた。

黒い人の影。

どうやら成人男性のようだが、影だけなのでその容貌はよくわからなかった。

――ひえっ!

怖いが身体が全く動かない。

目も思うように閉じられないのだ。

影は木梨の顔を覗き込んだ。

そしてぶつぶつと何かを言っている。

しかし声が小さすぎて、何を言っているのかわからない。

しばらく影はそうしていたが、不意に消えた。

周りも真っ暗な空間に戻った。

――なんだ、今のは。

木梨は動けるようになっていた。

暑くもないのに木梨は汗だくだった。


それ以来、時折金縛りにあい、影を見るようになった。

影はいつも木梨を覗き込み、何かを言うのだ。

しかし毎回何を言っているのかがわからない。

木梨は怖かったが、誰にも影のとこは言わなかった。

母一人、子一人。

木梨は母子家庭だった。

父は木梨が生まれてすぐに死んでしまった。

それは事故というよりもほぼ殺人に近い。

父はトラックにひかれた。

ひかれてもまだ生きていた父を、トラックの運転手はわざわざ山の中に運び、放置したのだ。

見つけたのは山菜取りに来ていた親子だった。

検死の結果、山の中に捨てられても父は数日間生きていて、苦しみながら死んだのだそうだ。

出血はほぼなかったが、両手両足骨折に、内臓も損傷していたようだ。

しかしすぐに病院に運べば、助かっていたと言う。

運転手はその後逮捕され、重い罰を受けた。

十四年前のことだが、今でも刑務所にいる。

そういうことがあったので、木梨の家庭には木梨以外は母しかいない。

そんな状況で、母に余計な心配をかけたくなかったのだ。


時折影に悩ませられながらも、木梨は中学を卒業して高校生になった。

そして入学してしばらく経ったある夜のこと。

また金縛りにあった。

辺りがぼんやりと薄明るくなり、そして影が出てきた。

ここまではこれまでと同じだったが、大きく違う点があった。

それは影が一つではなかったということだ。

二人いた。

黒い影が。

そして二人して木梨の顔を覗き込み、何かを言うのだ。

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