第5話 草履の音

8月1日の暑い夏の夜の話。

仕事終わりのYさんは、駅から自宅に向かう途中、神社からたくさんの風鈴の音色が聞こえ、その音に吸い寄せられるように、神社に立ち寄った。

この風鈴は毎年夏の恒例イベントで、願いが書かれた短冊が風鈴に付けられて風で左右に揺れている。

Yさんは鳥居の前で一礼をして、境内に入る。

神社にはYさん以外に誰も居なかった。

Yさんは綺麗な風鈴の音の下を通り、神殿に設置された賽銭箱の前に立つ。

小銭入れから取り出した数円を投げ入れ、一礼、二拍手して、頭を下げ目を閉じる。


シャリ


目を閉じながら、近くに草履を履く人の気配を感じる。

神社関係の人かな? と気にせず、そのまま日頃の感謝を心の中で唱える。


ジャリ


草履の音が急に大きくなる。音は賽銭箱の横から聞こえる。

始めに聞こえた場所から今まで何も聞こえてなかったはずなのに。


ジリリ


草履がその場で回転するような音がする。

それはまるで草履を履く者が、こちらに身体を向けているようだ。

Yさんは恐怖で願い事を唱える前に、頭を下げたまま、ゆっくりと目を開ける。

しかし、そこには誰もいなかった。

Yさんは慌てて、その場をあとにした。

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