ep.11 強制退場
「ブレーカーなら玄関ね」
オーケーと言いながら確かな足取りで玄関に向かう笠井。
その後の翔太による妨害工作は
「アタシの職業柄、これはしょうがないことなの。どうしても霊が帯同しちゃってね」
仕方なく、アタシは打ち明けた。そもそものところ、この男とのセックスにそれほど前向きでもない。
「アタシが今どんな仕事をしてるか、知らないわけじゃないでしょ? 今日のところはやめておいた方がいいかもしれないわね。これって怒ってる証拠だから」
「お、怒ってるって、誰が……」
「霊よ。当たり前じゃない。ほら、アタシ、モテるから」
努めて妖艶な笑みを浮かべ、ねっとりとした口調で言い放つ。酔いが醒めてそうなっているのか分からないが、笠井の顔は蒼白に近い色合いにあった。たぶんこの手の話に弱いのだろう。表情には戦慄がほとばしっていた。
「どうすれば、どうすれば許してもらえるんだろうか」
「さあ、流石に霊に示談条件を確認することはできないから。でも、早くこの部屋から出ていった方がいいということだけは確かね」
慌ただしい手つきで帰り支度を始める笠井。その様子を翔太は嫌悪感丸出しで見下ろしていた。
「じゃあ、静香ちゃん。その気にさせちゃったところで申し訳ないんだけど」
どこまでもポジティブな男だ。このくらいでないと、テンザンではやっていけないのかもしれない。正常な感性というものを破壊されているのだろう。
「大丈夫よ。くれぐれも気を付けてね」
小刻みに頷きながら靴を履く笠井の目の前で、ゆっくりと、そして勝手に玄関ドアが開いた。翔太、いい加減にしろ。
「ひぃや‼」
足腰の立たない小鹿のような挙動で笠井は玄関から飛び出し、去っていった。
「ありゃ、あかんで。とんでもなくやばい奴や」
アタシは伸びをしてから冷蔵庫へ向かった。中から二本、三五缶のビールを取り出す。
「翔太、あんた見た目は別として十七なんでしょ。飲み直しに付き合いなさい」
「おいおい、何をいうてるんや」
「酒で伸びた人間を馬鹿にしてたでしょう。あんたも飲んでみなさい」
「あいつの肩を持つんか? 姉ちゃんまじで見る目ないで」
アタシは鼻から溜め息を吐きながら頭を振った。
「幽霊にまでなって律儀に法律を守る必要なんてないでしょ。あの男のことはどうでもいいわ。大体アタシが誘ったわけでもないもの。あっちが言い寄ってきたの」
「まあいいわ、飲んだるわ。ただな、飲んだら俺の話をちゃんと聞けよ」
「はいはい」
片方の缶のプルタブを引き、翔太に持たせた。右手に残った感のプルタブを引き、翔太の缶に合わせた。
「翔太のアルコールデビューに乾杯」
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