第25話

 それから俺は彼女と話し合った。俺は何度も彼女の力になりたいと言った。君の恋人で居させてくれと言った。でも彼女は頑固だった。そこまで迷惑をかけることはできないと言った。俺は迷惑をかけ合うのが恋人というものだと反論したが、その度合いにも限度があるだろうと彼女は言って聞かなかった。

 それは、彼女なりの優しさなのかもしれなかった。

 俺は何度も何度も彼女を説得しようとした。俺の人生は君なしではつまらない、と。君のおかげでやっと人生が楽しく思えてきたのだから、そばに居させてくれ、そう言った。

 でも彼女は別れることが俺たちにとって最良の選択であると、信じているようだった。

 彼女も散々悩んで出した結論だろう。あの日公園で話を切り出せなかったのは、彼女も怖かったからなのかもしれない。あるいは、結論を先延ばしにしたかったのかもしれない。俺には彼女の思いを全て理解することはできなかった。そう言った意味でも、俺たちの終わりは定められていたのかもしれなかった。

 高台にある公園に着いた。彼女と何度も来たことのある公園だった。でも夜にここを訪れたのは初めてだった。

 住宅街の明かりが見える。人々は営みを続けている。家族でテレビを見ているのかもしれないし、恋人同士で唇を重ねているのかもしれない。受験勉強をしている学生もいれば、人生に絶望し酒を呷っている会社員もいるかもしれない。締め切りに追われる作家や、怠惰な生活を送る大学生、体調不良で休んでいる教師、夢見るミュージシャン、野望に燃える政治家、真剣に問題に向き合う教授、ネタを考えるコメディアンもいるかもしれない。家の中の様子は窺えない。想像するしかない。しかしその想像にどれだけの意味があるのか、俺には分からなかった。

 風で草木が揺れる。彼女の髪も揺れる。俺の心も揺れている。彼女もそうなのだろうか。

 彼女が俺の顔を見た。彼女は少し涙ぐんでいるようだった。しばらくして俺の視界も滲み始めた。

 星を見ようと思った。でも星の光は街の明かりで消えてしまっているようだった。

 俺は彼女を抱き寄せた。彼女の肩で少し泣いた。

 強く、彼女を抱きしめた。

 

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