第24話

「私、君と会った時、この人と付き合いたいなあとか、そういうことは思ってなかったの」

「思ってなかったの?」

「うん。でも、面白い人だなとは思った。だから会って話をするのはとても嬉しかった。君と話をする内に、段々好きという感情が芽生えてきて、君と付き合いたいと思った」

 俺は少し沈黙した。彼女は話を続けた。

「君と話すのは楽しかった。色んな風景を一緒に見られて嬉しかった。だから、これは君のせいじゃなくて、きっと私のせい」

 沈黙が流れた。長い長い沈黙だった。黙ったまま、歩き続けた。車のヘッドライトがやけに眩しかった。

 やがて彼女が口を開いた。

「お父さんが最近倒れたの。病気で。介護が必要な状態になって、お母さんが私に帰って来いって。学費の問題もあるし。地元で就職してお父さんの世話を手伝ってくれないかって。私は少し迷ったんだけど、結局、帰ることにした」

 初耳だった。

「何で相談してくれなかったの?」俺はそう訊いた。

「君はきっと私に尽くそうとするから。自分の持てる力を全て私に使うのは、きっと正しいことではない。君は君の人生を生きるべきなんだよ」

「でも、君はお父さんの介護にエネルギーを使おうとしているじゃないか」

「それは私の問題だから良いのよ」

「君の問題は俺の問題でもある」

「だから」

 彼女はそこで言葉を切った。そしてこう言った。

「別れましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る