第18話

 何だか気が抜けたような、一応問題が解決したのでまあ良かったなあなんて思いながら土曜の夜が来た。土曜の午前中は洲鳥の問題の後処理に追われていた。

 今日は牛山と飲みに行く約束をしている。

 気分転換になるというか、もうかなりくたくたに疲れているので、牛山に話をしてすっきりしたかった。ああ、本当に疲れたなあ。精神的に疲弊している。

 牛山との待ち合わせの場所に行くと、すでに彼は来ていた。

「おう。桜庭。ちゃんと時間通り来たな。がははは」

 彼の笑い声を聞くと、ちょっとだけ心が癒されたような気がした。


 居酒屋に行き、その後バーに行った。牛山と2人で色んな話をした。俺が昨日体験した奇妙な体験も彼に話した。牛山はそんな面白いことがあるもんなんだなあとか言っていた。側から見ればそうだろう。でも俺は大変だった。

 俺は彼女の件について牛山に話すべきか少し迷ったが、結局話した。すると牛山はこんな話をしてくれた。

「実は俺は今まで彼女がいたことがなくてなあ。でも、まあ、好きな人ができたことがないではない。というより、ずっと好きな人がいるんだ。子供の頃からずっと好きな人が」

 牛山らしくない曖昧な言い方というか、しどろもどろに話していた。色恋の話は苦手らしい。俺も別に得意なわけではないが。

 そろそろ帰ろうかということになった。2人で道を歩いていた。途中コンビニでペットボトルの水を買って飲んだ。それでもまだ2人とも酔っ払っていて、もう何が何だか分からなくなった頃、牛山が突然叫び出したりした。サクラ、好きだ、と。

 サクラ?

「サクラってのは誰のこと?」酔っ払って気が大きくなった俺が言った。

「柊サクラ。幼馴染の」

 ちょっと驚いた。成る程。先日会ったあの娘だ。そうか。牛山は彼女のことが好きなのか。俺はお似合いだと思った。

「告白したらいいのに」俺は普段口にしないようなことを口にした。

「できるかい」ぶっきらぼうに牛山は言った。

「なんで」

 牛山は沈黙した。少し涙目になっているようだった。しばらく沈黙が続いた後、ようやく牛山は口を開いた。牛山は小さな声でこう言った。

「だってサクラはお前のことが好きなんだよ」

 一瞬で酔いが醒めるようだった。柊さんが俺のことを好きだと思っている?それは恋愛対象として?そんな馬鹿な。色んなことを牛山に問い質したかった。

 牛山は泣き出した。豪快な泣き方だった。滝のように涙が流れた。本当に滝のように見えた。俺は黙ってそれを見ていた。牛山が泣き終わるのを待った。ようやく泣き終わり、牛山は、

「それでも俺はお前のことを友達だと思っている。俺は友達としてお前のことが好きだ。でも時々お前といると胸が苦しくなることがある。俺はサクラの恋愛相談をよく聞かされる。桜庭、お前のことをどれだけ好きなのかってことをよく聞かされる。連絡を取らない期間があったのはお前と会うと苦しくなると思ったからだ。でもやっぱり俺はお前のことを嫌いにはなれなかった」

 俺は何を言えば良いのか分からなかった。牛山は話を続けた。

「サクラがお前と話す口実を欲しがっていた。だからサクラにお前を呼びに行かせた。あいつはお前と話せると知ってとても喜んでいたよ。まあ、俺は何とも言えない気持ちになった。あーあ、馬鹿だよなあ、俺」

 俺は彼女が俺を呼びに来たとき、碌に相手をしなかった。俺は今、そのことをとても後悔した。彼女ともっと話をすれば良かった。いや、しかし、俺にはすでに彼女がいる。どうすれば良いのだろう?どうすれば良いのか、どうすれば良かったのか、全く分からなかった。

「映画研究部に入れと言ったのはお前と何か活動したかったからだ。それは本当だよ。サクラは映研に入りたがった。でも俺は駄目だと言った。サクラとお前が一緒にいるところを俺が見たくなかったからだ。それにお前には彼女がいる。サクラはそのことを知っている。でも諦めないんだ。どうしてだろう?何故そこまでお前のことを好いているんだ、サクラは」

 牛山の言葉一つ一つが心に重くのしかかるようだった。

 酔いの気持ちの良さは、もうすでに醒めていた。

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