頭痛

春雷

第1話

 僕は頭痛持ちだ。幼少期の頃から頭痛がひどく、あまりのひどさに両親が病院に連れていったくらいだ。両親はひどい頭痛が脳の異常かと思ったのだろう。しかしそれは誤解だった。脳に異常はなかった。医者は「緊張性頭痛」だろうと診断してくれた。そして鎮痛剤をいくつか出してくれた。僕は毎食後にその錠剤を飲み、何日かするとある程度痛みは和らいできた。でも頭の芯に残った違和感は取れなかった。頭の奥の方に痛みのしこりのようなものがあって、それがずっと残っていたのだ。あるいはそれは気のせいなのかもしれないが、でも僕は実感としてそれをぼんやりと感じていた。

 ある日僕はあまりの頭痛のひどさにふらふらした。僕はその時高校生で、テストを次の日に控えていたのだが、あまりに頭痛がひどいので、勉強は全く手付かずになってしまった。僕はテスト勉強を一夜漬けでやるような劣等生だったので、何とか次の日にテストは受けたのだが、結果は散々だった。僕の両親はカンカンに怒った。僕はとても混乱した。とても混乱した。確かに一夜漬けで勉強することはよくないが、頭痛は僕のせいではない。でも両親はあなたはちっちゃい頃から頭痛持ちなんだから、それを考慮してテストに臨むようにしなさいと言った。それは正論だった。でもその正論は僕をひどく傷つけた。僕はまた頭が痛むような心地がした。しかし実際には痛みなどなかった。本来は胸に痛みを感じるべきだったんだろう。僕はその日の夜自分の部屋に閉じこもって一晩泣いた。そしてそのまま朝まで悶々とし続けた。僕は泣き疲れ、悩み疲れ、ぼんやりとした頭でラジオを聴くことにした。気分転換を図ろうと思ったのだ。FMラジオをつけた。朝の8時。当然良い番組がやっている時間ではない。たわいのないというと聞こえは良いが、毒にも薬にもならない話をやっているに過ぎない。いや、批判はよそう。僕は人を批判できるような人間か?僕は先月読んだばかりの小説の冒頭の文章を思い出していた。「『他人を批判したいという気持ちが起こった時にはだな、』と、父は言うのである。『自分が皆のように恵まれているわけではないのだと言うことを、ちょっと思い出してみるのだ』」。

 ラジオパーソナリティーの話が終わると、リクエストだという歌がかかった。僕の知らない歌だった。

 ヒアカムザサン、ドゥルルル、ヒアカムザサン、アイセイド、イッツオーライ・・・

 ビートルズの「ヒアカムザサン」と言う歌だった。

 その歌は僕の心にすうっと染み渡っていった。これは初めての経験だった。歌って素晴らしなあと月並みな感想を持った。そして今まで泣いていたことが馬鹿馬鹿しく思えてきた。窓を開けると陽が差してきた。陽はまた登る。僕は言う。大丈夫だと。

 長かった夜が明けた。なんて言うと詩的にも聞こえるが、なんてことはなかった。俯瞰してみると何とも滑稽だ。僕は常々自分のことを馬鹿だと思っているが、今日は特に馬鹿だと思った。馬鹿。何だか笑えてきた。そして眠気が襲ってきた。僕はそのまま眠りについた。学校はサボった。

 昼頃に起きた。僕の部屋は2階にあるので、階段を降りてリビングへと行くと、テーブルの上に食事があり、置き手紙が添えてあった。

 ー。今日は学校を休むことを許します。これを食べて元気出して明日からはちゃんと学校行くのよ。

 何とも月並みな手紙だ。そうだな。日常においてそうそう素晴らしい出来事が起こるものでもない。月並みでも良いじゃないかってのもまた滑稽か。何だか馬鹿馬鹿しくなってそのまま家を出て目についたバイクを盗みそのままスーパーに突っ込んで商品と金を強奪し俺は自由だと叫んだ。頭痛はいつしか消えていた。

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頭痛 春雷 @syunrai3333

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