第10話 地上最強の魔物
「大昔の事です。
生命溢れる自然豊かな地上で、自分達こそが世界の頂点に君臨する種であると信じて止まない種族がいました。
人間族です。
人間達は他の種族と比べても数が多く、その器用な手先とあくなき探究心で様々な道具を発明しては大自然の厳しさに対抗して来ました。
そんな自分達だからこそ、この世界で最も知能が高く優れた生き物なのだという自負心を抱える事になったのだと思います。
そんな人間達には、他種族には理解に苦しむ独特の習性がありました。
そして、その習性こそが、他種族から圧倒的に嫌悪されている最大の要因でした。
それは、同種間同士で殺し合わずにはいられない凶暴で残酷な習性。
言わば、戦争癖です。
人間同士の1つの戦争が終わったと思ったら、束の間の平和の後、すぐに革命が起こりまた新たな戦争が始まる。
しかもそれが、人間が住む様々な地域で同時多発的に起きるのです。
人間同士の殺し合いは凄惨極まりなく、野性動物達が行う縄張り争いとは全く性質の異なるものでした。
なぜ、同種間であそこまで残酷に殺し合えるのか。
その器用な手先と高い知能を、戦争兵器や、より苦痛を与える拷問器具や処刑道具を開発する為に使うのはどうしてなのか。
相手を殲滅する目的なら、森を焼く事に一切の抵抗が無く、焼かれる森の悲鳴を聞いてなぜ平気でいられるのか。
そのような人間の持つ醜悪な習性が、他種族には理解出来ませんでした。
そのうち人間達は、他種族から忌避されるようになりました。
人間達との交流が比較的多かった
自分達が嫌われている種族であるという事など全く気にしない人間達は、その醜悪さに更に磨きがかかっていきました。
人間達は、好きなように、思う存分、自然を破壊しながら殺し合いを続けていたのです。
そんな人間達に、明らかな敵意と殺意を持って積極的に攻撃を仕掛ける者達がいました。
その者達は外見、攻撃方法、移動能力などの点において、通常の生物や野性動物という概念からは明らかに逸脱しており、その全てが例外なく超能力を持っていました。
超能力ーーーつまり魔法です。
魔力を持ち、魔法を使い、人間を襲う者達。
彼等は、魔族と呼ばれていました。
代表的な種は
彼等の人間達に対する攻撃は苛烈であり、人間達は魔族を非常に恐れていました。
ですが。
人間達がいかに魔族を脅威と認識しても、それが人間同士が殺し合いを止めるという理由には至らず、ついに運命の日を迎える事となりました。
今から2000年前のある日。
当時、死火山とされていたオスクロ火山が、突如大噴火を起こしたのです。
この日は世界の有り様が一気に変化した歴史的な大転換の日とされ、後世ではこの日を暦上の紀元とし、この日より前を紀元前と呼ぶようになりました。
この噴火は、尋常の噴火ではありませんでした。
火山から噴き出したのは溶岩ではなかったのです。
漆黒の霧だったのです。
オスクロ火山は凄まじい勢いで漆黒の霧を噴き出し続け、その霧がようやく止まったのは噴火から7日後のことでした。
その時にはすでに地上は漆黒の霧に覆われ、昼も夜も無い暗黒の世界となっていました。
しかし日に日に漆黒の霧は晴れて行き、噴火が止まってから7日が経った頃には、空には美しい青空が広がっていました。
空の青さは以前と変わりませんでした。
ですが、地上ではある大きな異変が起きていたのです。
生態系を形作っていた様々な野性動物達が、異形へと変貌していたのです。
哺乳類、爬虫類、恐竜、昆虫など、ありとあらゆる生物が、知性と魔力を備え、外見も大きく変わりました。
これらの大噴火を境に変貌した生物達の事を、後にに魔物(まもの)と呼ぶようになりました。
この時、全ての生物達が魔物化した訳ではありませんでした。
同じ種でも魔物となった個体と、何も変化せず今までと同じ姿を保った個体とに別れたのです。
魔物に進化した生物たちの外見は様々でしたが、圧倒的に多かったのは人型でした。
元となった生物の特性を色濃く残したまま人型に変化した魔物達は、すぐに道具や魔法を使うことを覚えて独自の文明を作り始めました。
そして。
そのようにして噴火後に誕生した魔物達は、人間への異常なまでの攻撃性を備えていました。
魔物達は積極的に人間を襲い、爪と牙のみならず魔法や武器を駆使して人間に対して大殺戮を開始したのです。
その圧倒的な攻撃性は、人間に強い憎しみを持っているかのように、一切の容赦のない凄惨なものでした。
当時、人間達で魔法が使える者は極めて少なく、更にその僅かな魔法使い達の魔法力も今と比べれば遥かに微弱なものでした。
そんな人間達は、魔物の軍勢に太刀打ちする術も無く、抵抗虚しく凄まじい勢いで数を減らして行きました。
人間達は、同種間で戦争している場合では無くなりました。
今まで敵対していた国同士も協力し、人間同士で知恵を出し合い、力を合わせて魔物の軍勢に激しく抵抗しました。
一致団結した人間達の強さと気迫は僅かに魔物達を怯ませましたが、しかし力の差は明らかであり、人間達の人口減少は止まらず、人類絶滅は秒読み段階に入っていました。
秒速で数を減らして行く人間達を見ても、森聖族(エルフ)や鉱工族(ドワーフ)などの亜人達は傍観に徹していました。
魔物が襲撃するのは人間に対してだけであり、他の亜人種達には一切の敵意を向けなかった為、実質魔物達による害は彼等には無かったのです。
大噴火からおよそ半年が経った頃。
亜人種達は、人間と魔物、両方に哀れみを感じ始めていました。
魔物達の、人間に対する攻撃性の裏に、途方も無く無限に広がっているかのような深い悲しみの闇がある事を感じ取っていたのです。
そして必然的に、ある疑惑が浮かび上がっていました。
あの魔物達を作り出したのは、人間達自身なのではないかという疑惑です。
人間同士の戦争や、拷問、処刑などによって死んで行った者達の悲しみや絶望、憎悪などの莫大な負のエネルギーが、魔物という形になって人間達に牙を剥いているのではないか。
人間に残虐な方法で殺された人間の怨念が、魔物の核となっているのではないか。
魔物が人間しか襲わないのは、そのような理由から来ているのではないか。
魔物達が放つ人間への憎悪の咆哮の裏に、悲痛な叫びに似たものが見え隠れするのはそのような理由からではないか。
そのような疑惑は、亜人種達にとっていつしか確信となっていました。
ですが。
どちらかの味方について戦う理由も無い亜人種達は、結局そのまま傍観に徹することにしました。
近いうちに人間は絶滅するだろうが、それは自然の成り行きであり、それならばそれで構わないというのが彼等の正直な心情だったのです。
大噴火から、3年が経った頃。
もはや人間達は絶滅寸前というところで、魔物達の侵攻が止まっていました。
魔物達に対抗する力を持った人間が、ついに立ち上がったのです。
それは、とある島国で、太古の昔から龍神を信仰して来た一族でした。
一族の名は、モチダ。
モチダ一族の力は凄まじく、これまで圧倒的な破壊力を誇っていた魔物達をいとも容易く蹴散らし、逆に魔物達の方が畏怖を抱くようになりました。
時をほぼ同じくして、モチダ一族の棲む島国とは別の場所で、魔物達から恐れられる人間の名前が轟き始めていました。
その人間は、魔物を遥かに凌駕する強大な魔法力を持った魔法使いでした。
その人間の名は、ビリジン=ムーンウォーカー。
やがてモチダ一族とビリジン=ムーンウォーカーが手を組むと、戦況が大きく変わり始めました。
人間達は、モチダ一族とムーンウォーカーを二本柱として主軸に起き、体勢を立て直し、絶滅寸前だった状態から徐々に数を増やし始めました。
更にムーンウォーカーには魔法の素質のある人間を見極める技があり、次々と人間達の魔力を開花させて行きました。
そうして魔法を扱える人間も増え始め、魔法によって強固な防御壁も建造され、怪我や病気を治す治癒魔法も急速に発達していきました。
そして更に年月が経ち。
大噴火から400年が経つ頃には、魔物と人間の力は完全に拮抗していました。
人間達の魔法力と戦闘能力は過去とは比べものにならない程上がり、魔物の軍勢との戦力はほぼ互角になっていました。
魔物と人間は力の均衡を保ちながら互いに憎み合い、更にそこから1000年以上にも及ぶ苛烈な戦いの時代が幕を開けたのです。
そして。
大噴火からおよそ1500年後。
今から言えば、およそ500年前。
モチダ一族史上最強の実力者シンゲン=モチダ。
ムーンウォーカー一族史上最強の実力者マイケ=ムーンウォーカー。
奇しくも同時期に誕生した2人は、更に2名の仲間と共に、人類の命運を賭けた闘いへと旅立ちました。
そして彼等は旅の果てに魔物の神と呼ばれる存在と戦い、敗れ、命を落としました。
その日を境に人間達は勢いを無くし、再び絶滅寸前まで追い込まれるのにそう時間はかかりませんでした。
僅かに生き残った人間達は、魔物達の奴隷になるか大自然の中でひっそりと暮らすかのどちらかしか道はありませんでした。
そして。
英雄達が命を落としてからおよそ500年後の現在。
何の因果か、4人の英雄達の力が宿ったオランさんと私は巡り合ったのです」
ーーーー
ーーーー
すっ、と、オランは薄目を開けた。
洞窟の入り口から、早朝特有の清々しい空気が流れ込んでいるのを感じた。
そうか、眠ったんだ。
昨日、ヒミコから世界の歴史に関する長い話を聞いた後に、どうやら朝まで眠ってしまったらしい。
オランは、薄目を開けたまま立ち上がろうとした。
違和感を感じた。
立ち上がろうとして、オランは自分の身体を動かす事が出来ない事に気付いた。
そして、窮屈さを感じていた。
オランは、ぱちりと目を開けた。
少女の寝顔がすぐ目の前にあった。
ヒミコが、オランの身体をぎゅっと抱き締めて眠っていたのである。
「?」
オランは疑問に思った。
どうしてヒミコは僕に抱き付いているんだろう。
寒かったのかな。
まぁいいや。
喉乾いたな。
とりあえず起きよう。
そう思って、オランはヒミコの腕を解こうとした。
だが、解けない。
なんだ。
ビクともしない。
オランは更に力を込めて、ヒミコの身体を自分から引き剥がそうとした。
その瞬間。
ぎゅうっと音を立てて、ヒミコが力を更に強く込めて抱き付いて来た。
「いっ!?」
思わずオランから声が漏れた。
なんだ!?
この力!?
強過ぎる!
苦しい!
息が出来ない!
「くっ……!」
オランは、歯を食いしばって本気でヒミコを引き剥がそうとした。
だが、全く動かない。
ヒミコが、更に力を込めた。
まるで万力に挟まれているかのように、オランの身体が圧迫されて行き、骨がみしみしと悲鳴を上げた。
「がっ……く、苦しいよ」
オランは本気で生命の危機を感じた。
冷や汗がどっと吹き出して来た。
その時、ヒミコの眼がすっ、と開いた。
そして、にこりと笑った。
「ああ、オランさん。起きてたんですね。おはようございます」
「お、おは……よ……離して」
「あ、ごめんなさい」
ようやく、ヒミコはオランを離した。
オランは必死で空気を吸って酸素を取り込んだ。
本当に、命が助かったような気がした。
「ど、どうして抱き付いていたの?」
少し咳き込みながら、オランは聞いてみた。
「オランさんが可愛すぎてつい……嫌でした?」
「あんなの嫌だよ。凄く苦しかった」
「ごめんなさい。これからは、あんまり力を入れないようにして抱いて寝ますね」
「……う、うん」
人間達はみんな、誰かを抱きながら寝るのかな、それに凄い力を持っているんだな、とオランは思った。
その後、オランとヒミコは湧き水で顔を洗い、洞窟の入り口に立った。
雲1つない、真っ青な大空が広がっていた。
ぐーっと気持ち良さそうに伸びをした後、ヒミコが口を開いた。
「さてオランさん、ぐっすり眠って魔力も回復しましたね?」
「うん。多分」
「とりあえず雷跳でこの大陸を出ましょう」
「うん。ちなみにここはなんていう大陸なの?」
「ここは、ジュラシック大陸という大陸です。この大陸は恐竜の魔物が支配しています。自然を闊歩している野性動物も恐竜種が多いです。更に大陸の王として君臨している魔物は、地上最強の魔物と言われています」
「そ、そうなんだね」
オランは一刻も早くこの大陸を出なくてはと思った。
その時、ある考えがよぎった。
雷跳を使えば、ガララパゴス諸島に、こっそりと戻れるのではないだろうか。
いや、無理か。
雷が落ちて来たら目立つ。
仮に島に戻れたとしても……。
あんな事をしてしまったのだ。
どんな顔をして戻れば良いのか分からない。
でも、母さんの事は気になる。
大丈夫だろうか。
酷いことをされていないだろうか。
母さん。
どうか、無事でいて。
無意識のうちにオランは、隣のヒミコの手をぎゅっと握っていた。
「オランさん?」
驚いた様子で、ヒミコはオランを見下ろした。
「……母さんは大丈夫かな」
「……確かに、心配ではありますね」
言った後、ヒミコは顎の先に指を当てて、しばらく何かを考え込んだ。
「では、ガララパゴス諸島の最寄りの島まで行ってみましょうか」
「……いいの?」
「はい。そこから海を泳いで、こっそり様子を見てみましょう」
「う、うん。ありがとう」
海を泳ぐって、随分軽々しく言うんだな、とオランは思った。
結構大変な事だと思うんだけど。
「雷跳ってどうやってやればいいの?」
オランが、ヒミコを見上げながら聞いた。
「今日のような晴天の場合は、まず黄龍を呼ぶ必要があります。黄龍の事を強く念じてみてください」
「分かった」
そう言って、オランは両目を閉じて黄龍の姿を思い浮かべた。
オランの頭の中に、鮮明に黄龍の姿が思い出された。
だが、数分経っても何も起きなかった。
「うーん。来ませんね」
ヒミコが言ったので、オランも目を開けた。
「どうしてかな」
「もしかして、オランさんはまだ力が足りてないのかも知れませんね」
「ちから?」
「はい。祝雷を受けたモチダ一族の者でも、修行をして実力を付けた者でないと黄龍を自在に呼べなかったと聞いた事があります」
「じゃあ……雷跳は使えない?」
「かも知れませんね。でも、雨の日か曇りの日なら、オランさんの今の実力でも使えるかも知れません。厚い雲が多い時は、呼び易いのです」
「大丈夫かな……不安になって来たよ」
「この洞窟に来る時に使えたんですから、使えない事は無いはずなんです」
「そうかなぁ。あの時出来たのは、黄龍水晶のおかげじゃないのかな」
「黄龍水晶はきっかけを作っただけです。オランさんの身体と魂に、雷跳の感触を刻むきっかけを。とりあえず待ちましょう。雨か曇りの日に、雷跳を試してみましょう。それでも駄目だったら、魔法の練習をして魔力を高めましょう」
「練習?」
オランが言った直後、オランのお腹からぐぅ〜っと音が鳴った。
それを聞いて、ヒミコが微笑んだ。
「とりあえず食糧を探しに行きますか」
「うん」
「食糧を探すついでに、魔法の基礎を教えますね」
にこりと微笑みながら、ヒミコは言った。
ーーーー
大陸の中心部に、天然の岩山を切り崩して作られた岩の宮殿であった。
その宮殿の内部に設けられた庭に、激しく身体を動かしている1人の魔物がいた。
その魔物は、まさに巨大な怪獣とも言える風貌をしていた。
ティラノサウルスの魔物であった。
鬼気迫る表情で、滝のような汗をかいていた。
両手に1本ずつ、自身の身体と同じぐらいの大きさの石柱を握って、それをぶんぶんと風切り音を立てて振り回しているのである。
その魔物の足下に、水溜りが出来ていた。
汗の水溜りだった。
相当の時間、石柱を振り回し続けていたらしい。
石柱を握っている腕に、岩のような筋肉が隆起していた。
通常、ティラノサウルスというのはその体躯に比べて前脚が極端に小さいが、魔物となると外見は大きく違っていた。
体型は人型であり、完全に二足歩行である。
前脚も人の腕のように発達していた。
ティラノサウルスの特徴を色濃く残した、巨大な人型の魔物。
まさに、怪獣であった。
怪獣が振り回していた石柱が、突然、ばきりと音を立てて地面に落ちた。
手で握っていた部分が砕けていた。
そこでようやく怪獣は、動きを止めた。
大きく肩で息をしていた。
「ふーっ」
怪獣が、大きく息を吐いた。
そして、その巨体からは想像も出来ない程のしなやかな足取りで、歩き始めた。
下半身も岩のような筋肉が隆起しており、全身の筋肉が極限までに鍛え抜かれていた。
にも関わらず、歩き方は重々しくない。
巨体に似つかわしくない、俊敏さのある歩き方である。
庭の真ん中にある噴水の前で、怪獣は立ち止まった。
恐ろしい牙が生え揃った巨大な口を開けて、噴水の水をごくりごくりと飲み始めた。
しばらくして、その顔を上げた。
「ふぅ」
先程の鬼気迫る表情とは一転し、なんとも清々しい表情を浮かべた。
そして、自分の左右の腕を、うっとりとした眼で眺めると、突然、左右の腕の上腕二頭筋に音を立てて口づけをした。
「よく頑張ったな、俺の筋肉達よ。今、メシをやるからな」
その怪獣は、愛しそうに筋肉に語りかけた。
「レックス様」
怪獣の背後から、男の声が聞こえた。
怪獣が、振り向いた。
背後の足元に、顔に皺の刻まれた魔物がいた。
その魔物の身長は、怪獣の膝あたりまでしかなかった。
鋭い眼の周りにも皺が刻まれており、高齢らしい。
プテラノドンの魔物であった。
その魔物が、怪獣を見上げながら言った。
「レックス様がトレーニングを始めてぶっ続けで8時間ですよ。8時間。流石にやり過ぎでは?」
「そうか。まだ足りんな」
レックス様と呼ばれた怪獣が、汗を拭きながら言った。
「なぜそこまで強さを追い求めるのですか? すでに地上最強の称号を得ている貴方が」
「ふん。まだ言うかよ。確かに俺は強い。が、それでもこの俺とて勝てるか分からぬ存在は多い」
「それは謙遜が過ぎるというものです。魔族や伝説に名を残す者達を含めても貴方程の実力者はそうそういないでしょう」
「奴らを侮るな。魔族の連中は俺たち魔物の天敵と言えるかも知れん」
「貴方ほどの力を持つ方が、そんなに心配すると下の者も不安になりますよ」
「仲間が不安を感じないように俺は鍛えてんだよ。つーか何の用だよ。早く栄養取らなきゃならねぇんだよこっちは」
「レックス様がトレーニングをなさっている時は、その真剣な顔が怖過ぎて誰も話しかける事が出来ません」
「真剣になるのはあたりめぇだろうが。いざという時お前らを守る為なんだからよ」
「しかしトレーニング中ももっと自由に話しかけさせて頂きたいですな。でないと今回のような緊急の報告も遅れてしまいます」
「緊急? 何かあったのか」
「デノニク達から何やら報告があるようです」
「どんなだ」
「500年前の勇者の技を使う者が現れたそうです」
「……ほう」
そう言うと、その怪獣はにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「デノニクを食堂に呼べ。食事をしながら話を聞こう。トレーニング後は早く栄養を取らねば筋肉に良くないからな」
ジュラシック大陸を統べる怪獣。
彼はこの大陸の王でありながら、世界中の魔物の頂点、地上最強の魔物と呼ばれていた。
ティラノサウルスの魔物。
名を、レックス=ティーレックスといった。
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