第143話 人の心②


「じゃあ、今から推薦による副実行委員の候補を決めるわ……今から配る白紙の紙に自分が推薦する人の名前を書いて頂戴、私と優奈の名前は駄目だからね?勿論、他のクラスの人の名前も駄目よ?私が辞めと言ったら裏にして前に送って頂戴」


 美波はそう言うと事前にそうなる事が分かっていたのか皆に白紙の紙を配り出した。


 美波が配り終わると皆一斉にその紙に自分が推薦する人物の名前を書くのだった。


 それは慎二も同じだ。


(ここは、ハトケンなんてどうかな?「情報屋」なんて事もしているし調べるとか補佐にはぴったりじゃないかな?)


 そう思った慎二は紙に「服部」と書くと美波の「辞め」と言う言葉を待つのだった。


 慎二が書き終わってから5分程経った時、美波から「辞め!」という言葉が上がった為皆一斉に前へ前へと紙を送るのだった。


「じゃあ、今から皆が書いた紙を確認するから少し待ってなさい」


 美波はそういうと確認の作業をしだした。


 その間皆は「俺じゃありません様に!」や「アイツに投票したから大丈夫だろう」と呟いていた。


 その中には慎二もいて……「誰になるのかなぁ、選ばれた人は可哀想だなぁ」と、自分は選ばれない事を想定してか他の人の心配をしていた。


 皆が誰になるのか期待半分、恐怖半分で思っていると副実行委員の候補が決まったのか………


「コレは……中々熱い戦いね………」


 と呟き、美波が紙を見ながら黒板に候補者の名前を書いていった。


 そこに書かれた人物は………


『候補者1・・・前田』


 え?僕?


『候補者2・・・慎二』


 と、なった。


 いや……どっちも僕なんですけど?吉野さんのあの「熱い戦いね」ってなんだったの?何処が熱いの?


 慎二が何を思おうが決まってしまった?ものはしょうがないので声を出さず成り行きを見守る事にした。


 美波も書き終わったからか黒板から皆の方に振り向くと。


「この中から副実行委員を決めるから皆はどちらが良いか投票をしなさい」


 というのだった。


 成り行きを見守るはずだったが、その言葉に何も言わない訳にもいかず、少し美波におかしい事を聞いてみる事にした。


「あの〜吉野さん?僕の見間違いじゃなければ……僕の名前しか無いように感じるんだけど?」

「ん?そうだけど?だってアンタの名前しか紙に書かれてないんだもん」

「嘘つけ!!」


 慎二はそんな理不尽な事があるかと思いツッコミを入れたが………


「嘘も何も無いのよ、本当のことたがらね……ほら見てみなさい」


 と、淡々に言われてしまったので慎二も言われる通り紙を受け取る事しか出来なかった。


「え……うん………」


 美波から渡された紙を見てみたら……本当に「前田」か「慎二」と書いてある紙しか無かった。


 何故か「服部」と書かれた紙は無かったが何も言うまいと思い慎二は項垂れた。


「………嘘ん……」


 その様子を見た美波は分かってくれたと思ったのか投票を進めるのだった。


「少し邪魔は入ったけど、今から皆でどっちが良いか決めて頂戴」


 言われたクラスの皆は隣同士や友人同士でどちらが良いか話し合っていた。


 どっちも慎二だと言うのに。


『どうする?どっちが良いと思う?』

『………難しいなぁ、どっちもカスかクズじゃないか………コレで俺達に選べと言うのか?』


(君達が選んだんだろうが!!それにどっちも同じ人間だろ!)


 と、言ってやりたがったが、言ったら絶対面倒臭いので慎二は自分の机に座りながら早く決まらないかなと耐えていた。


 どうせ自分なんだから。


 それでもチラホラと聞こえて来る慎二の悪口達。


『前田かぁ……コイツは確か痴漢をしたとか言うロクデモない奴じゃなかったっけ?任せられるのか?』

『いや、こっちの慎二よりはマシだろ、こっちなんて小学生に手を出して一度捕まっているらしいぞ?こんな人の心が無いような奴よりはマシだろ?』

「おーいっ!真面目に考えているフリをするなぁ!あと、当然の様にクラスメイトの事を犯罪者として扱うなぁ!そんな君らの方が人の心を知れ!!」


 その言葉に耐えられなかったのかふざけているクラスメイト達にツッコミを入れるのだった。


 まったく……このクラスは本当にもう……


 呆れながらため息を吐いていた慎二だったが、こんなの投票をする前に決まっていたのと同じなので諦めていた。


「ほら、慎二、そんな事よりアタシとアンタで文化祭実行委員をやる事が決まったんだから、早速前に出て文化祭の出し物を決めないと」

「はぁ……分かったよ………」


 美波に促されると慎二は席を立ち美波が待つ教壇の前に出た。


 その時に後ろから「慎二君頑張って〜」と優奈から応援?のエールを貰ったので振り返り手を振った。


 そんな慎二の姿を美波は白い目を向けて見ている事に慎二は気付かなかった。

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