第141話 口は災いの元②


 それは当然の事だろう、バカにされるどころかそれ以前の問題なのだから。


 それに女子がいるのに配慮をする気配もない生徒しかほぼいないのだから。


 そんな優奈に勝ちを確信した慎二だったが。


「………ッ!……言い訳をしないの!それに人は人!バカはバカなの!ああいう人はもう治らないの!」


 クラスメイトをバカ呼ばわりする優奈。


(………結城さんも結構辛辣な事言うね……言われてるぞバカ達……でもそれに動じていないクラスメイトも凄いけど)


 慎二が言う通り、優奈の声は教室中に聞こえているはずなのにクラスメイト達は誰も動じた奴などいない、それどころか優雅にアホな事をしていた。


 そんな様子を「それで良いのか君達は………」と小声で喋り見ていたら、優奈からお怒りの言葉をまたもらってしまった。


「もう!言い訳して話を逸らそうとして!さっきの話に戻るからね?……どうせ慎二君のことだからあのゲームの中の子達に欲情でもしていたんでしょ?知っている?ゲームの子達とはお付き合い出来ないんだよ?」


 聞き分けの聞かない子供に言いつける様に優奈は慎二に伝えた。


「いや、そんなの知ってるよそれに僕は別に付き合いたいからゲームをプレイしている訳ではなくてゲームの面白さとキャラの声優の声が好きでやってる訳で」

「ほらやっぱり……その声優さんを狙ってたんでしょ?」


 慎二が何を言っても取り合ってくれず、逆に変な解釈をされてしまうだけだった、その事に慎二はどうすればいいのか頭の中で考えていた。


(どうすれば良いのさ……それに何でここで僕がゲームのキャラや声優を狙っていると言う話になるのかさっぱり分かんないよ……村上君ならまだしも……今の村上君は違うのか)


「………‥」


 考えても考えてもなんて言って説得すれば良いのか分からず慎二が無言になっていると、その事を反省したと思ったのか美波と優奈が口を開いた。


「ほら、分かったでしょ?そんなゲームなんて所詮デジタルの中の事なんだからやらないでもっと現実を見なさい、それよりも今は文化祭の話をする方が先決よ」

「そうそう、ゲームのキャラなんて所詮作り物なの、今はそんなものより優先な事をやった方が得策だよ!」


 2人に言われてしまった慎二だったが、文化祭の事は大事だが納得がいかなかったので抗議の言葉を入れる事にした。


「い、いや、だとしてもそんなゲームの事を批判しなくても「ゲームを!2次元をバカにするなぁ!!」………村上君?」


 慎二は美波と優奈に「ゲームの事を批判しなくても良いじゃないか」と伝えようとしたが、さっきまで美波達に震えていた村上が慎二の言葉に被せるようにいきなり大きな声を出すと2人に食ってかかるのだった。


「き、君達ィ!さっきから聞いていれば……前田氏の事もそうだが、ゲームの事を、2次元の事をバカにしないでもらえますかな!!」


 村上はそんな事を叫ぶと2人に啖呵を切った、そんな村上に「よく言った!」と慎二は思ったがよく見てみると村上の足は小刻みに震えていた。


 やはり2人は怖いのだろう、でもそれでも村上の勇気ある行動に感動した慎二は自分も村上に続こうと美波達の顔を見て言ってやりたい事を言おうとしたが……口が開かなかった。


「「………‥」」


 その理由は……美波と優奈の2人が啖呵を切ったそんな村上に無言で白い目を向けていたのだから。


 自分も同じ目を向けられるのは嫌だと思い慎二は口を閉じてしまった。


 ただ、そんな中、村上は尚も2人に臆する事なく自分の言いたい事を伝えた。


「所詮デジタルだからやゲームだからと偏見な目を向けて拙者達を見るのは良い!……だが!その中のキャラをバカにするのはいかん!ゲームの中やアニメの中の子達だって拙者達の心の中で生きてるんだ!それを理解もせずバカにするのは良くない事だ!!」

「「………‥」」


 その言葉を聞いた2人は何も言わずに村上の話を聞いていてる、その事に怖気付いていると思った村上は更に言葉を続ける。


「それにだ、さっきの前田氏とお二人の会話を例に出すのは些か不満だがゲームのキャラを好きになったって、恋愛をしたって良いじゃないか!!恋愛は自由だ、からこそ良いのではないかろうか?……それに2次元のキャラにも強みはありますぞ、まず歳を取らない!だからいつまでも拙者達の推しでいてくれる!!」

「「………ッ!!……」」


 2人は村上の「歳を取らない」と言う言葉に少し反応をしていた、その2人の些細な反応を村上は見逃さなかった。


「あれあれ〜?お二人は「歳を取らない」と言う言葉に反応しましたなぁ〜?もしや2次元のキャラに嫉妬しているから前田氏に強く当たっているのですかなぁ?……まぁ3次元ではいかに可愛くても美人でも歳をとってしまえばただのB・B・Aですからなぁ〜2次元に嫉妬するのも分からなくはないですぞ!!」

「「………‥」」


 村上は勝手に解釈すると「うん、うん」と頷いていた、それを聞いていた2人は無言で下を向いてしまった、その様子を見た慎二は………


(む、村上君流石にそれは言い過ぎだよ!!止めさせないと!!)


 止めさせようとした慎二だったが、美波と優奈がやけに静かな事が気になり少しどうしたのか様子を見てみたら……般若の様な表情をしている2人を見てしまい「ヒィ!!」と情けなく声を上げてしまい村上を止められなかった。


 そんな事を気付かない村上は更に2人を追い込む、これから自分がどうなるかを知らずに。


「あぁー、図星を突かれてしまったからかお二人共何も言えませんか!まぁ、拙者もそんなに鬼ではおりませんぞ!……ほら言いたい事があれば今言って良いですぞ?ほら、ほら!!」


 何を調子に乗っているのか、2人の変化に気付くことなく「何か言ってみろ」と煽る、そんな村上に言われた2人は静かに顔を上げた。


「「…………」」

「な、なんですかな?そんな怖い顔を向けて……事実を言って何が悪いのですか?」


 2人の恐ろしい顔を見た村上は怖気付きながらも、もう後には引けないと思ったのか尚も抵抗をする、そんな村上を見てついに2人は口を開いた。


「「………キッモ……」」


 と、ただ村上に「キモイ」と伝えた、だがその一言が村上には特攻の言葉だったらしくクリティカルヒットしてしまった。


「ぐはっぁ!!?」


 村上は吐血の様なものを口から出すとそのまま崩れ落ちてしまった。


 3次元などどうでもいいと思っている村上だが、美少女でありそれもクラスメイトの女子に「キモイ」と呼ばれるのは耐えられなかったらしい。


 そんな村上をゴミでも見る様に見ると美波と優奈の2人は尚も追撃をする。


「いきなり変な言葉を言ってきて……村上アンタキモイのよ、それに私達が2次元をバカにしているですって?そんな事一言も言ってないでしょ……まぁ、アンタはバカだからそんな事も考えられず口先だけで私達に言っただけなんでしょうがね、とにかくキモイのよ」

「グベッ!!?」


 キモイと連呼された村上はその場で倒れながら痙攣していた。


 慎二は「もう村上君のライフはゼロよ!やめたげて!」と言いたかったが今何かを言えば巻き込まれる恐れがある為、静観するしか無かった、それは慎二だけではなく他のクラスメイトも一緒だった。


「私からも言わせてもらうよ?さっき村上君は「歳を取る」と言っていたけどそれは生きていて当たり前のことでしょ?それを変な捉え方にして……本当に気持ち悪い、そんなに2次元が好きなら今流行りの異世界転移か転生でもした方が良いんじゃないかな?ほら、トラックに轢かれるとか、そしたら村上君の好きなキャラ?にも会えるかもよ?まぁ、99%の確率で〇ぬと思うけど……というか〇んで?村上君?」

「………うっ……うぅ」


 普段は優しい優奈に「キモイ」ましては「〇ね」なんて言われた村上は泣き出してしまった。


 でもそれでも気が治らないのか美波は追撃をし続ける。


「言いたい事は優奈に殆ど言われちゃったけど、これは言わせて……村上のその口調?キモイわよ?何が拙者や〇〇氏よ私達を不快にするのも大概にしなさい、だからそんなアンタとクラスメイトは話しかけても誰も喋ってくれなかったのよ」

「………ぞんなぁ〜……」


 美波に言われると情け無い声を出すと更に項垂れてしまった。


 えっ?そうだったの?


 その事実に慎二は驚いて周りを見たら……今美波が言った事は本当の事なのか他のクラスメイトは申し訳なさそうに目を背けていた。


「「だから言わせてもらう……気持ち悪いと」」

「………‥」


 美波と優奈のその言葉にもう何も返す言葉がないのか村上はノックアウトしてしまった。


 そんな村上を見て尚も死体蹴り?の様な事をする美波と優奈を止められなかった、その言葉攻めは村上が動かなくなってからも約20分程続いた。





 慎二達が何も出来ないまま、ただ、村上に言いたい事を言い続ける美波と優奈を見ている事しか出来なかったが、ようやく2人は言いたい事を全て言って発散出来たのか清々しい顔をすると慎二を見てきた、当然の事、村上は教室の床に倒れ落ちてピクリとも動いていなかった。


 そんな村上を見て美波と優奈以外は心の中で「今度から少し優しくしてやろう」と思うのだった。


「で?慎二はこのバカみたいに2次元は〜とか変な事を言わないわよね?ちゃんと文化祭の話をするわよね?」

「美波ちゃん、慎二君ならそんなバカな選択をしないよう〜だよね?慎二君?」


 2人にそう言われた慎二は………


「はい!当然の事です!僕達で楽しい文化祭にしましょう!!」


 元気な声をだし、出来るだけ嬉しそうに喋る事を意識してハキハキとした声で答えた。


 だってそう言わないと何をされるか分からないから。


 慎二はボロ雑巾の様に捨てられている村上を一瞬見ると身体を震わせてると共に「やっぱり女子に口答えしてはいけない」と再確認するのだった。


「うん、良い返事ね!じゃあ今から私達1年「F」クラスの文化祭の出し物を決めるわよ!」


 美波の言葉に他のクラスメイトは『はい!!』と答えるのだった、自分が次の標的になりたくは無かったから。

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