第140話 口は災いの元①



 慎二は顔をあげるとその人物の名前を口にした。


 そう、慎二に寄り添う様に話しかけていた人物は……村上だった。



 ………「え?違うだろ?誰だそいつは?」……おいおい、どう見ても村上君以外の誰でもないでしょ?こんなアホな顔をしている奴がそんなにいる訳が無いじゃないか!


 とは、慎二の冗談ではあるが、この少しというか完全にオタオタしている人物は村上本人だ。


 皆も聞いた事があるだはずだ、夏休みや高校を進学する人がやる事を……〇〇デビューと。


 まぁ、それとまた少し違うかもしれないが村上はこの夏で心境の変化があったみたいだ、正直慎二にはこの村上の変化の理由は何となくは分かっていた。


(どうせ、以前ギャルとデートをしたいとか言った時に女性に振られすぎて2次元にでもどっぷりとハマったんでしょ……流石にここまでのキャラになるとは僕も思わなかったけど………)


 そんな村上を残念なものでも見るような目で見ていた、慎二の事を思って言いに来たことは分かるし、自分も課金なんかして爆死している時点で今の村上の残念さと大差ないかもしれないが……キャラ変わりすぎだとジト目で村上の事を見ていた。


 見られた村上は慰めに行っただけなのに「何でそんな目を向けてくるのか?」と思っている様な顔をしていた。


「あぁ、村上君ありがとう、元気が出たよ……それよりも君のそのキャラ?はどうしたの?イメチェン?それとも夏休みデビュー?」


 慎二に聞かれた村上は「待ってました!」と言うように目を輝かすと矢継ぎ早に慎二に話しかけて来た。


「そうなんですぞ!流石前田氏!お目が高い……他のクラスメイトは拙者の事に誰も何も言ってくれず寂しかったですぞ!でも、これは別にイメチェンでも夏休みデビューとやらではないですぞ?」

「そうなの?じゃあどうしてそんなにキャラが激変してるの?」


 村上の話を聞いた慎二は気になってしまいどうしてか聞いてしまった。


「まぁ、簡単に言うと心境の変化と言いますか……昔の自分はもう死んだと思っていますぞ、今は2次元に生きるNEW村上として生活していきますぞ!なので「アイドルプロジェクト」の1ファン同士これからもよろしくですぞ!」


 村上は快活に話すと慎二の事を同士と思っているのか右手を出して握手を求めて来た、その手を慎二は握ると。


「そうなんだね……まぁ何となくは分かったよ、これからよろしく……オタク」

「そこはオブラートに包めよ!」


 慎二が村上の事をオタク扱いすると素が出てしまったのかいつもと同じ口調でツッコミを入れて来た。


 そんな馬鹿話を2人でしていると気になったのかチルの面倒を見ていてくれた美波と優奈が慎二達の元に歩いて来た。


 チルは優奈の机の上で日向ぼっこをしているのか慎二の元には来ていない様だ。


「アンタ達、文化祭の話しをしないで何を話しているのよ?」

「そうだよ、慎二君と村上君は何の話をしているのかな?」

「「………‥」」


 美波と優奈に声をかけられた2人は無言になってしまった。


 あの女好きな村上が無反応なのは恐らく3次元に興味を失ったからだろう、なら何で慎二も無言になっているかというと……正直慎二にも分からないが美波達を見ると何故か身体が震えてしまい目を見れない状態になってしまうのだ。


 慎二がそんな状態になってしまったのは8月27日に結衣と夏祭りに行った後からだった……というか8月27日〜8月31日までの間の記憶が曖昧なのだ、気付いたら慎二は9月1日に桜田高校に登校をしていた。


 ただ、その時から何故か美波達の顔を見ると震えが止まらないのだ。


(うぅ……何でか分からないけど吉野さんや結城さんを見ると身体が震えるし謎の冷や汗が出てくる……村上君は何か反応するかと思ったけど無反応とは……本当に2次元にいってしまったんだね)


 何か返事をしないと不審がられると思い、頑張って口を開こうとしたら……そんな慎二よりも先に美波が村上が机に戻した慎二のスマホを凝視していた。


 そんな美波を「どうしたのかな?」と慎二が見ていたらいきなり何も言わずに慎二のスマホを手にすると最初から電源が付いていたのか何か操作をしだした。


 別に勝手に触られても気にしない慎二だったが何をしているのか気になり美波の手元を見てみたら………


「ちょっ!?吉野さん何してるの!!何で「アイドルプロジェクト」のアプリをアンインストールしてるの!!?」


 慎二が驚いた通り「アイドルプロジェクト」のデータを美波が削除をしている所だった、辞めさせようとしたがで時既に遅しデータは削除された状態でその事実に絶望した慎二はその場で膝をついてしまった。   


 その様子を見ていた村上も「流石にやり過ぎでは?」と思ったがここで何かを言って美波の逆鱗に触れたくないと思ったのか自分のスマホを押さえながら震えていた。


 美波は美波で何かをやり遂げた顔をすると慎二の事を振り向きゴミでも見る様な顔をしていた。


 それはさっきまでニコニコしていた優奈も一緒だった。


 でも今の慎二はそんな事には負けない、訳も分からず大事なデータを消されたのだ、なので反撃のチャンスと思ったのか2人に向き合った。


「吉野さん、流石にこれは酷いよ!データは簡単に戻ってこないんだよ?どうしてくれるの!!」


(言えた……僕だってやれるじゃないか!さっきまでがおかしかったんだよ、何であんなに怯えていたんだろうか?でも今は吉野さん達に反抗できる!)


 自分が言いたい事を言えた事に喜んでいた慎二だったが、そんな気持ちは次の美波の一言で消し飛ぶのだった。


「黙りなさい……それよりもあんなイヤらしいゲームなんて入れて恥ずかしくない訳?このクラスの恥!」

「えぇーー……そこまで言う?」


 「そこまで言うか?」と慎二は思っていたが他に誰も助けてくれず、逆に優奈すら美波の援護に向かい慎二を叩いて来た。


「慎二君はそんな破廉恥なゲームをしといて何も反省の色がないみたいだね」

「いや、反省も何も僕はただゲームをしていただけであって………」

「そうやっていつも言い訳ばかりして!そういう事をしていたら他のクラスに変な目で見られて、またクラスをバカにされちゃうよ?」


 優奈はそんな事を言うが慎二は「それはもう手遅れなのでは?」と思っていた。


 だって……進学高のはずなのに友人同士で普通にエロ本を見ているバカ達、空を見ながら鼻くそをほじっているアホ、美波と優奈に怒られている慎二を見て羨ましそうに見ているど変態……と……これを見てから今、優奈が言っていた「クラスがバカにされる」というのは言えないだろう、というかもう手遅れだと思う。


「結城さん……クラスを見てそれをまた言えるの?」


 慎二に言われた優奈はクラスの周りを見回して現状を見た。


「………‥」


 そしたら、無言になってしまった。

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