第135話 〜夕凪の記憶〜 【中】
◆
その少女は目の前まで来たが、慎二の事をただ、無言で見つめているだけだった。
「………‥」
「えっと……君は?」
突然の事で訳が分からなかった慎二はどうしたのか聞いてみた。
でもその慎二の目の前に来た茶髪の髪をした「女子」は何処か人懐きそうな目を慎二に向けてくるだけで何も言わない。
何も言わない少女にどう対処していいか分からなかった慎二はその場から動けずにいた、それは他の女子高生達も一緒だった。
さっきまで一緒に談笑していた友人がいきなり知らない男性の側まで向かったのだから。
(………この子どうしたのかな?僕から話しかけてもいいけど……今はセクハラだったり、〜ハラスメントなんていうのが煩いし、この子に手を出したと思われて他の子に警察なんて呼ばれた時にはシャレにならないし………)
今の情勢のせいか慎二は自分から話しかける事が出来なく内心で葛藤していた。
慎二が今言った通りここ数年で女性への対応はかなり厳しいものになっていた。
それに今の慎二は32歳なのでおじさんと言われてもおかしくない年齢になってしまっているのだ、ましては目の前にいる人物は今をときめく女子高生、何かしたと勘違いされたら直ぐに慎二などポリスメンに捕まってしまうのだ。
何も出来ない慎二は目の前の少女の動向を見る事しか出来なかった、双方何も喋らないまま何分だっただろうか?慎二がこの状況に耐えられなくなっていた時、少女が動いた。
さっきまで何の反応も示さなかった少女がいきなり慎二の右手首に付いている青色のミサンガを見てきたと思ったら話しかけてきた。
「ねぇ……おじさんのその青色のミサンガ綺麗だね?それは買ったもの?それとも貰ったものかな?」
「ゔっ!!」
意外とフレンドリーに話しかけてきた少女に年上に敬語を使えとか言うつもりは無いが、少女のある言葉に心を逆の意味で打たれていた。
(がはっ!!おじさんはキツい……32歳はおじさんだと自分でも思うけど、なんか複雑な気分………)
ただ、少女の顔を見ると分かる通り悪気があって慎二の事をおじさんと呼んだ訳じゃなさそうなので質問に答える事にした。
「あぁ……コレはね大切な友人から貰ったものだよ」
「そうなんだね!」
「うん、このミサンガの何か気になったのかい?」
この少女が何を理由にして慎二が付けているミサンガが気になったのか知りたくなり聞いてみたら……その少女は左手首を見せて来た、そこには………
「うん、私もおじさんと似てるミサンガ付けてるから気になっちゃってさ!!」
そう言うと少女は自分の左手首に付いている赤色のミサンガを見せてきた。
それは慎二のミサンガと瓜二つの様に見えて驚いてしまった。
「そ、それは!?」
慎二はミサンガを見せられた事で勢い任せて少女に近寄ろうとしてしまったが、済んでのところで理性で抑えられた。
(あ、危なかった……このままこの子に向けてミサンガを確認する為に手なんて握ったらセクハラで訴えられちゃうよ)
冷や汗を浮かべながらも少女の赤色のミサンガが気になるのか慎二は見ていた、その事に少女も気になったのか聞いてきた。
「このミサンガが気になるの?」
「あぁ、ちょっとね。知り合いとの約束で僕が今付けているミサンガがまた2人が会う時の印になるって言うからさ、君が似ているミサンガを付けていたからもしかしてと思っちゃったよ……相手は男性だから違うのにね………ごめんね変な事を長々と話してしまって」
「………‥」
慎二はそう言うと「ははは、勘違いしちゃったよ!」と笑っていた。
その反面慎二の話を聞いていた少女は少し真剣な顔をして無言になっていたので気になってしまった。
「どうかしたのかい?……ああ!変なおじさんに絡まれたから萎縮してるんだね、大丈夫直ぐに僕はあっちに行くからさ!」
慎二は自分が変な事を聞いたから困らせてしまったと思い直ぐ様その場から立ち去ろうとしたが……「待って!」と大声で言われてしまいその場に慎二は留まった。
「その、いきなり大声を出してごめん!でもおじさんに聞きたい事があるの……おじさんの今言った事って全部本当の事?」
その言葉に特に考える意味が無かった慎二は即答した。
「うん、本当の事だよ?こんな事で嘘はつかないさ……でもそんな簡単に人を信じちゃ駄目だよ?中には悪い大人なんてわんさかいるからね」
そんなおちゃらけた様に言う慎二の言葉に「言ってる事、矛盾してるじゃん」とクスクス笑われていた。
そう言われた慎二も「コレは参ったなぁ」と苦笑いをしていた。
2人は暫し笑ったが、笑い終わると少女が聞いてきた。
「………そんな事を言ってくれる人が嘘をつく訳がないと私は信じるから伝えます……おじさんは、運命を信じますか?」
少女は真剣な表情を作ると慎二に伝えてきた。
「………運命か……ちょっと考えさせてくれ」
「うん」
運命を信じるかと聞かれ慎二は直ぐには答える事が出来ず考え込んでしまった、少女は何を言うでもなく慎二の言葉を待っているようだ。
(運命……か、僕も今まで色々な出来事に遭遇してきた、その時に運命を呪ったことだって両手で数えるほどはある……だからこそ僕は逆に運命が存在するのだと信じたい、なら答えは一つだね、この少女が何を考えて聞いてきてるのかは知らないけど)
考えが纏まった慎二は目の前にいる少女に自分の考えを伝える事にした。
「………君が何を意味してそんな事を聞いてくるのかは分からないけど、僕は運命を信じるよ……コレでいいかい?」
慎二が伝えると満面な笑みになってくれた、どうやら慎二が答えた言葉をお気に召してくれた様だ。
「うん、ありがとう!私も運命を信じてる、だからそんな私と同じ考えのおじさんに一つ聞いて欲しい事があるの」
「………うん聞こう、どんな話かは分からないし僕の答えられる事かは分からない、でも頼ってきたならそれに答えるのが大人の僕達だからね」
慎二の話を聞くとその少女はぽつりぽつりと話してくれた、それは慎二が想像していた内容とはかけ離れていた話だった。
「私はね……夢を見るの、それもその夢は私じゃない「別の誰か」の夢なの」
その言葉を聞いた慎二は何故か自分の動悸が激しくなった様な気がした。
胸から込み上げてくる感情がそれがなんなのか分からなかったが、少女の次の言葉を待っていた。何かを信じる様に。
「別の誰か?それは……君の夢なんだよね?」
慎二は少女にそう聞いたが、何処か少女が今話してくれた言葉に親近感を湧く感じがしたが確かではないので話を託した。
「うん、それは私の夢の……はず。それにね私が物事を考える事が出来る様になってからその夢を見るの、それにさっきおじさんのミサンガを見て驚いていたでしょ?それはね夢の中で似た様なミサンガを見たからなの、その夢を見たら何故か作らなくちゃと思い私が作ったんだ」
そう言うと自分の左手首に付いている赤色のミサンガを自慢げに見せてきた。
「だから僕のこのミサンガが気になったんだね」
慎二は合点が言ったように呟くと自分の青色のミサンガを撫でた。
「うん、それにね私が見る夢の内容はいつも一緒だった、その内容は………」
少女は話を一旦止めると何故かその先を言わず慎二を見てきた、見られた慎二も少女の言葉に何かを感じていたので無言で少女を見て次の話を促す様に頷いた。
「………その内容は、男性と私ぐらいの男の子がまた会おうと誓い合うの、そしてミサンガを印にしようと約束をするの……そこでいつも夢は終わってしまうの」
「!!?」
その話を聞いた慎二は何も答える事が出来ず、ただ、ただ驚いてしまった。
それに先程から絶え間なく涙が流れてくる理由を慎二はよく知っている。だって今この少女が話した内容は………
(この少女が……渚さんの生まれ変わりなんだね……何処かで僕もそうなのかなとは薄々思っていた…でも……でもまた会えて良かった………)
内心で思うと声を出さずに慎二は泣いていた。
そんな慎二を見ている少女も涙を流していた。
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