もしもの話
第134話 〜夕凪の記憶〜 【始】
◆
今の季節は夏、燃える様な暑さに加え、太陽の照り、セミの鳴き声がまた身体を蝕む、それなのに空は清々しい程、憎々しい程快晴だ。
そんな中、一人公園で呑気に寝ている男がいた。
「うぅ…うっ……暑、寝ちゃってた、か……やっぱり夜更かしは駄目だな」
暑さに耐えられず起きたのかその男は寝転がっていたベンチから起きると、背伸びをしてしっかりと座りだした。
「あぁー、原稿の締め切りは明日までか……この調子で終わるかな?はは……は…はぁーーー………」
男は何かの締め切りが明日である事に絶望した顔をすると大人気なく嘆いていた。
それでも持っていた茶封筒から原稿なる物を出して再度確認していた、その原稿の作者名には……前田慎二と書かれていた。
この男こそ大人になった前田慎二、その人だ……少し背が伸び大人らしい顔付きになっているが見る人によっては「昔と変わってないな」と言われるほどだ、そんな慎二は今小説家をしていた。
今の年齢は32歳、高校1年生の時から約16年程経っただろうか、高校3年生の時に今まで経験してきた事を話にしたいと思い始めて小説を書き始めたのが始まりだ。
高校を卒業した慎二は文系の大学に進み、大学を卒業してからは小説家、今で言うとライトノベル作家だろうか?……それになり書籍化まで進んでいる、慎二の作品はかなり評判が良くて既にネット界隈でも有名になっていた。
「はぁーー、久々に雄二達と会って話したけど皆変わってなかったなぁ、高校時代の話とか懐かしすぎるでしょ………」
慎二はそんな事を呟くとつい最近昔の友人達と遊んだ時の記憶を思い出した。
今でも高校の時の友人の雄二達とは何度か遊ぶ中だ、雄二達とは大学は別になってしまったが別に離れ離れになっても今の時代なら会おうと思えばいつでも会える、そんな時、高校時代の話を皆でした時の事を思い出していた。
「………高校の時は色々あったなぁ、今はそこそこだけどあの時は人助なんて大層な事してたっけ………」
慎二は目を細めながら今もまだ色褪せない昔の記憶を懐かしげに思い浮かべていた。
昔色々とあったがその中でも一番驚いた事が……慎二の知り合いの美波達全員が高校当時に慎二の事を好きだった事だ、最終的に慎二は高校卒業間近までに気付かなかったがその事が本当に驚いた。
驚いた慎二だったが、何となくは皆の気持ちに気付き始めていたので慎二はその時に………まぁ、この話は今は良いだろう。
そう思った慎二は今じゃなくても良いだろうと思い、その話はそっと胸の中にしまう事にした。
それよりも大きな出来事があった事を思い出していた。
「………ふと忘れそうになるけど僕は一度過去に……今の時代に戻ってやり直しをしているんだよね、その時に神様に会って「真実の目」なんて特別な力を貰ったっけ……結局あの後高校卒業後に僕は…力も……神様とも………色々と、あった……よね」
慎二は摩訶不思議な出来事があった学生時代の事を思い出し、自分の目を触っていた。
慎二は今までの出来事の中で沢山の思い出ができた。
ただ、今でも忘れない、忘れちゃいけない記憶を覚えている、その事を思い浮かべていると右手に付けているある人物に貰った青色のミサンガを無意識に撫でていた。
その事に気付くと慎二は「やっぱり癖になってるな」と呟き一人苦笑いを浮かべていた。
「………渚さんとまた会おうと約束してからもう16年も経つのか……時間が過ぎるのって早いなぁ、あれからまだ出会う事はないけど人生は長いんだ、またいつか出会えるさ」
慎二は渚とお婆さんが亡くなった夏から毎年の様に2人の御参りに行っていた。
いつまでもここで黄昏ていても仕方ないと思い慎二は立ち上がると明日までの原稿を完成させる為に動き出した。
慎二は歩きながら周りを見てみると、もう学生は夏休みに入っているのか友人同士で遊んでいる光景が目の前に広がっていた。
(学生達は夏休みに入ったのかな?……今思うと学生の時は僕もあんな風にキラキラしていたんだろうなぁ……と言っても僕の場合は2回目の学生時代を過ごした訳だから何を言ってんだよって話だけどねぇ………)
そんな事を考えながらも、でも尚も楽しそうにしている学生達を見て慎二は羨ましそうに見ていた。
慎二は2回目の学生時代という事もあり後悔をしない様な生活が出来た、が、これは慎二の自論だが今学生の人達は今を目一杯楽しんだ方が良いだろうと思っている。
大人になると色々な柵が出来たり、自由に動けなくなってしまう事がほとんどだ、なので学生のうちにやりたい事、やっておきたい事を精一杯に謳歌するのが得策だろう。
よく皆も聞くだろう?「あの時は楽しかった〜とかあの時はこうしていたらな〜」とか、後悔後に立たずという言葉もある通り、出来るだけ後悔をしないように過ごしてほしい、別にこれは強制的な事なんかじゃないから頭の片隅にでも入れとくだけでいいだろう。
じゃあ、なんで慎二がそんな事を言うのかというと……知り合いに人生を半分棒に振った男がいるからだ。
その人物は皆も知っての通り……むなんちゃらだ。
まぁ、彼が何をして人生を棒に振ったかはプライバシーの為言わないが皆は彼の様にならない様にと思ったからだ。
「村上君は、今元気にしているだろうか……あっ………ヤベ、言っちゃったよ。まいっか……」
気付いた時には時既に遅し……慎二は開き直ると名前を伏せていたはずなのに直ぐにバラしていた。
もう言ってしまったもんはしょうがないと思ったのかペラペラと喋り出した。
「YouT○beで炎上したって聞いた時は驚いたよね……その反面やはり何かしでかしたかって思ったけど」
そんなバカな事を考えていても時間が過ぎるだけかと思い今度こそ慎二は歩き出した、時間は有限なのでそんなどうでもいい事を考えている暇などないのだ「辛辣過ぎじゃね?」と思うかもしれないが、昔から慎二と村上はこんな感じだった。
慎二は今いる場所から離れようとしていたら一陣の風が吹いた様な気がした、でも慎二はそれを「ただ風が吹いただけかと」思っていた。
思っていたが何故か分からず懐かしい感じがしたのだ、でもそれがなんなのか分からずその場で動かないでいると……慎二は涙を流していた。
自分が涙を流している事に気付くと慎二は慌て出した。
「あれ……なんだコレ?何で涙なんて……それになんだか今、風が吹いた時になんだか懐かしい感じがしたような………」
でもそれがなんなのか分からない慎二はただ戸惑うだけだった。
そんな慎二の耳に今丁度自分の目の前を通り過ぎていった女子高生達の声が聞こえた、その中の声を聞いた時何故か懐かしく感じられたのだ。
(なんだ?この懐かしい感じは?……それに海なんてないのに潮風の様な懐かしい香りが………まさか!?)
慎二はある事実に辿りたいた、もしかしたら、もしかしたら今頭の隅によぎった事があり得るかもしれないと思ったのだ。
もしかしたら……「渚がそこにいるかもしれない」と。
そう思うといてもたってもいられなくなり、その女子の集団に振り返ったが誰も慎二の事など見ていなく、友人どうしで和気藹々と談笑しながら通り過ぎていくのだった。
(………そうだよね、僕の気のせいか……はぁ………多分仕事の疲れでどうかしていたんだよ………)
その事実に残念がると共に、そんな簡単に会えるわけないか……と思ってしまった。
(栄養ドリンクでも買って少し落ち着こう………)
疲れを少しでも取る為に栄養ドリンクでも買おうと慎二が思っていた時、さっき慎二が気になっていた女子高生の集団から一人の女子が出てくると慎二の目の前まで来た。
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